自ら考え自ら行動する集団をつくる5段階を把握する

社長と社員がひとつになる、全社一丸となって挑戦するというのはよく見かけるスローガンです。しかし、経営者と社員がひとつになるというのは、具体的にはどういう状態のことを言うのでしょうか。

実は、社長と社員が一体、全社一丸という状態は、なかなか説明しづらいものです。ただ、こうした状態にある組織なら、間違いなくそこにいる社員は経営者と心が繋がっていると思っていますし、経営者は社員の気持ちがわかっていると信じています。

言ってみれば双方が信頼し合っている状況です。ただし、それがわかるのは当事者だけ。

明確な特徴があるわけではありませんので、外から見ているだけではわかりにくいものです。極論すれば社長と社員全員が「わが社は社長と社員がひとつになっている」と思っていれば、その会社は全社一丸体制だと言うこともできます。

ただし、社員が本心から社長とひとつになっていると信じてはじめて到達できるのが全社一丸の状態ですので、表面をつくろっているだけの組織では絶対に一丸になり得ません。肝心なことは虚飾を排した関係で強くつながることです。

組織変革に至るまでの流れをつかむ

私は、組織変革を次の5つのステップで行っています。

ステップ1:始動
ステップ2:共感づくり
ステップ3:引き出し
ステップ4:行動変化
ステップ5:新しい企業文化の誕生

この5つのステップの中でも、それぞれに段階があります。その説明の前に、この5つのステップの概要を見ていきましょう。

ステップ1 始動

ステップ1の始動は文字どおりスタート、キックオフのことです。新しいステージに向かってみんなで動き出すことを宣言します。ここでどんな組織を目指すのか、ビジョンが定まっていればよいですが、まだこの段階では無理にそこまで求めることは必要ありません。

とにかく「新しいことをやる」「新しい会社に生まれ変わらせる」という漠然とした意識からスタートしても、迷走せずにゴールにたどり着くことはできます。

ステップ2 共感づくり

ステップ2の共感づくりは、お互いが信頼し合える関係を築くために不可欠です。

ありのままの自分を語ることによって得られる受容感や高揚感、お互いにありのままの自分を受け入れることで得られる安心感、そこから共感や共に成長するというプラスの感情が生まれます。

ツールとして360度多面評価、エゴグラム分析などを使うのもこの段階です。

ステップ3 引き出し

ステップ3の引き出しとは、共感から生まれたプラス感情を具体的なモチベーションに結びつける段階となります。

個々に持っている意欲や技能を引き出すためには、過去の人生によって形づくられた人生観や価値観の原点に遡ることも必要です。自己を深く内観することや、周囲のメンバーから受けるアドバイスや勇気づけ、それによって得られる深い気づきや、自分や会社の未来に向けた自信や高揚感はこのステップで生まれます。

ステップ4 行動変化

ステップ4の行動変化は、心の変化を具体的な行動の変化に落とし込んでいく段階です。

行動変化のレベル0は問題の認識、レベル1は問題の原因分析、レベル2は問題解決に結びつく本質的な原因の追求となります。

●ビジョンは現場と現実から離れてはいけない

行動変化のまとめの段階でビジョンづくりを行います。始動の段階でビジョンがなくても迷走しないと言ったのは、ここでビジョンを設定するからです。

ただしビジョンには良いビジョンと悪いビジョンがあります。

よく設定しがちなものに、「上場を目指そう」「年商50 億円企業を目指そう」「業界ナンバー1のブランドを築こう」といったビジョンがあります。これらは会社のビジョンにはなりますが、個々の意識には届きにくいものです。つまり悪いビジョンの代表格です。

良いビジョンは現場に響く言葉でなければなりません。たとえば、「誇りのある仕事をしよう」というほうが、一見あいまいなようで社員には届くものです。

たとえば自然との共生をテーマにしたホテルであるならば、「島を自分たちで守り貫くこと」に目覚めた幹部の間で出したビジョン(決意表明)、「どんな環境になろうと揺るぎない我々でいよう」といった、自分たちが内発的な係わりをイメージできるビジョンこそ心に響きます。

現実離れしたビジョンも人を動かせません。現場に響き、現実を踏まえたものが、今ここにいる人々の行動変革を促すビジョンとなります。

ステップ5 新しい企業文化の誕生

ステップ1からステップ4までを経て、ゴールとなる新しい企業文化の構築にたどり着きます。企業文化とは、文章化して額に入れて飾れば出来上がりというものではありません。行動の習慣化としての結果が企業文化なのです。

「社員が主役」の会社はなぜ逆境に強いのか
志水 克行
1964年京都府生まれ。19歳にて物流業を起業。HONDAのサプライチェーンの一画を担う。HONDAの物流改革の経験を通じ、 使命に感じていた中小企業の経営改善支援を決意し、1992年新経営サービスに入社。 以後、現場・現実主義を貫き、各社の実態に応じた経営改善や組織改革、社員のモチベーションアップ、人材育成を精力的に展開。 経営改革の支援企業約400社、5,000名を超える経営者・管理者の「リーダーシップ革新」や「自己革新」を実現。 特に、モチベーションや潜在能力を徹底的に引き出し、 社員が主体となって経営改革に取り組んでいく組織変革手法は他の追随を許さない。経営改善の現場で裏打ちされた組織改革のノウハウが顧客より絶大な信頼を得ており、セミナーや研修のリピート率は90%を超える。

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