人工知能が人間の仕事を奪う時代

人の心の性質について学ぶことの意義は、機械の進歩とも大きく関係しています。

新たな機械が開発されたという報道を聞くと、「すごい!」「それは便利だ!」といった好奇心を抱くかと思いますが、近年のこういった報道には好奇心を超えて恐ろしさを覚えることが増えてきました。機械の進歩はここまで進んでしまっているのかと。

機械の開発の主な目的が、①人の手間を減らすこと、②人にはできないことをできるようにすること、だとすると、①の目的は人の仕事を機械が奪うことを意味します。

近年では人工知能、認知システム、ビッグデータが連携することで、状況把握、判断、行動といった一連の流れを行うことができる機械が開発されています。

これにより、これまでは人にしかできなかった仕事が機械にもできるようになってきており、この流れは今後さらに加速していくと予想されています。

「半導体の集積密度は18〜24カ月ごとに倍になる」

これはインテル社の共同創設者、ゴードン・ムーア氏が唱えたムーアの法則といわれる法則です。この法則は機械の進化の速度を表す一つの指標となっています。

1の速度は18カ月後には2に。さらにその18カ月後には2が4に。4は8に。8は16に。はじめは小さな数字でもこれを10回繰り返すと、その速度は1024に。20回繰り返すと、104万8576に。30回繰り返すと、10億7374万1824に。

このように、機械の進化は加速度的なスピードで進んでいきます。そのため、今後の時代においては、これまでの時代とは比べものにならないほどの速度で業務の機械化が進んでいくと言われています。それはつまり、人間の仕事が機械に奪われていく速度も加速度的に上がっていくことを意味します。

人工知能の研究に携わる英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授は、今後10~20年で、アメリカの総雇用者の約47%の仕事が機械によって自動化されるリスクが高いと結論づけました。つまり、今後20年以内にアメリカにおいて既存の仕事の半分はなくなる可能性が高いということです。

機械化されやすい仕事と、機械化されにくい仕事。

これからの時代においては、仕事についてこの2つのタイプ分けが重要になるでしょう。今の自分の仕事、あるいはこれからやろうとしている仕事がどちらのタイプの仕事なのかを見極めることが求められます。

自らのキャリアを考えるうえでも、機械化されにくい仕事についての経験やスキルを磨くように意識することが重要になるでしょう。また、売上の多くが機械化されてなくなると見込まれている事業から生じている企業であれば、すぐにでも機械化されにくい分野で新たなビジネスモデルを構築する必要があります。実際、私の身の回りだけでも新たなビジネスモデルの構築に向けて動いている経営者が、最近、急に増えています。

では、機械化されにくい仕事とは何でしょうか。もちろん今後の機械化の状況が読めない限り、その仕事を明確に列挙することはできませんが、一つ言えるのは、人間にあって機械にはないもの、つまり心や感情を扱う仕事ではないかということです。

MITスローン・スクール経済学教授のエリック・ブリニョルフソン氏とMITスローン・スクール、デジタル・ビジネス・センター主任リサーチサイエンティストのアンドリュー・マカフィー氏は著書『機械との競争』の中でこう述べています。

「ソフトなスキルの中でも、リーダーシップ、チーム創り、創造性などの重要性は高まる一方である。これらは機械による自動化が最もむずかしく、しかも起業家精神にあふれたダイナミックな経済では最も需要の高いスキルだ」

リーダーシップを発揮し、チームをまとめる。信頼関係を構築する。交渉を重ね、お互いにWIN ― WINとなる展開に導く。人間関係を調整し、物事を前に進める。人を育てる。人を励まし、勇気づけ、モチベーションを上げる。人々を感動させる作品を創造する。

このような人の心や感情を扱う仕事が機械化が難しい仕事として、今後、機械化が進むにつれて注目されるようになり、機械化される仕事から、機械化が難しい仕事へ人はシフトしていくでしょう。

また、機械化のみならず、少子高齢化やグローバル化も今後の日本においては避けて通れない流れとなり、これからの時代はこれまでに経験したことのないほどの速さで変化していくことになります。

ただ、どれだけ時代や環境が変わっても、経営やビジネスは「人」を相手にするということに変わりはありません。そして、その「人」の心の性質も変わるものではありません。そのため、情報や知識が次から次へと生まれては陳腐化する激動の時代においては、心の性質という不変のことを学ぶ意義はより高まっていくと思われます。

これからの激動の時代を迎えるにあたって何をすべきか。

その答えの一つがここにあると感じています。

高速読書
藤田 耕司(ふじた・こうじ)
公認会計士、税理士、心理カウンセラー、一般社団法人日本経営心理士協会代表理事、FSGマネジメント代表取締役、FSG税理士事務所代表。
1978年生まれ。2002年早稲田大学商学部卒業。04年公認会計士試験に合格、同年有限責任監査法人トーマツ入所。12年に独立し、藤田公認会計士・税理士事務所(現FSG税理士事務所)開設。13年FSGマネジメント株式会社設立・代表取締役就任、15年一般社団法人日本経営心理士協会設立・代表理事就任。年商100億円を超える企業の社長など、多くの社長のメンターを務める。経営・ビジネスの現場における成功体験・失敗経験と心理学を融合した経営心理学を新たな企業経営のあり方としてコンサルティングしている。

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