(本記事は、長谷川高氏の著書『不動産2.0』イースト・プレスの中から一部を抜粋・編集しています)

不動産の立地が会社の未来を左右する

不動産2.0
(画像=Webサイトより※クリックするとAmazonに飛びます)

●東京近郊の大学の「都心回帰」

近年、東京近郊の大学の間で、生き残りをかけた熾烈な競争がくり広げられています。

日本は確実に少子化傾向にあり、今後もますます進行していくでしょう。その影響を今現在強く受けているのが、大学なのです。

人口の多い団塊ジュニア世代が学生だった四半世紀前と比べて、現在の学生数の減少はあまりに顕著です。優秀な学生を集めることに、どの大学も苦戦を強いられています。

今や、半数以上の大学で、入学試験の倍率が1倍を割っているそうです。いわゆる大学全入時代の到来です。

母数の減少により難関校でさえ、かつてのように優秀な学生を集めることが難しくなっています。そこで、留学生枠を増やしたり、地方に付属校をつくったり、知名度を上げるためスポーツに力を入れたりしているのです。

その中でも、とくに成功している実例が青山学院大学でしょう。もともと人気のある大学ですが、少子化の時代に先手を打つため、10年以上かけて陸上部を強化しました。

その結果が、箱根駅伝4連覇の達成です。この快挙によって全国的に知名度が上がり、入学試験の受験者数も大幅に増加したようです。

じつは青山学院大学は、もう一つ大きな施策を行なってきました。かつて同校は、神奈川県厚木市にキャンパスを設けていました。

しかし、新宿から小田急線で約50分、最寄り駅からさらにバスに乗る必要がある厚木キャンパスは、開設当初から学生には大変な不評でした。

そこで同校は、2003年に厚木キャンパスを売却。より都心に近い、神奈川県相模原市にキャンパスを新設しました。

こうした動きは、青山学院大学だけではありません。郊外にキャンパスを置いていた大学が今、続々と「都心回帰」を始めているのです。

かつては郊外に広いキャンパスを構え、充実した施設を提供することが、多くの大学の方針でした。しかし、少子化によって学生数が激減している今、それでは学生から「選ばれる大学」にはならないのです。

そこでキャンパスの「立地」が、今まで以上に重要になっているのです。これが大学の存続を左右するほどの課題と言っても過言ではありません。

同じことが、一般企業にも言えるのではないでしょうか。1990年代後半から、2000年代前半にかけて、就職氷河期と呼ばれる就職難の時代がありました。ところが現在、立場は逆転し、学生の売り手市場になっています。

この状況は今後も続くと思われます。少子化の影響で、確実に学生の絶対数は減少していくでしょう。そうした中で、いかに優秀な学生を集めるか。そのヒントは今、大学が優秀な学生を集めるためにとっている施策にあると思います。

●人を呼ぶ土地、人を惹きつける土地

かつて私が会社員として勤務していたのは、リクルート系の不動産会社でした。リクルート系の企業は、企業の重要な方針として採用を重視することで知られています。

この方針は、創業者の故・江副浩正氏の考えによるものです。リクルートはこれまで、優秀な学生を全国から集めることに、お金と時間と人材を最大限、投入してきました。

リクルートが一部上場企業になる以前、さらにさかのぼって「リクルート事件」が起きる以前は、リクルートという会社はまだ全国的に知られていませんでした。地方の学生の間では、会社名すら知られていない時代がありました。

それでも、その地域の優秀な学生を採用するために、江副氏はこんなユニークな施策をとりました。

江副氏自身、不動産に興味を持っていたこともあって、全国の主要都市の一等地に土地を買い、そこに見栄えのよい支社ビルを建てていったのです。すると、地方の学生が「リクルートという企業は勢いのある大企業のようだ」と勘違いし、有名国立大学から優秀な学生を数多く採用できるようになったというのです。

現代においても「名門企業なら場所はどこでもよい」という考え方は、通用しないのではないでしょうか。長期的に見れば、立地が企業の採用、つまり成長や存続を左右するかもしれないのです。

それだけ現在の就職市場は、完全な売り手市場であるとも言えます。一方で厳しい時代における企業の存続や成長にとって、「人財」こそがすべてではないでしょうか。

「弊社は優良企業であるが、ひなびた町外れにある」では、なかなか人をとることは難しく、たとえ地方であっても、それなりの環境の整備や、地方だからこそのメリットを提供する必要が出てくるかもしれません。この傾向は、日本の人口ピラミッドを見る限り、今後も大きく変化することはないでしょう。

不動産2.0
長谷川高(はせがわ・たかし)
長谷川不動産経済社代表取締役。東京生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。株式会社コスモスイニシア(旧リクルートコスモス)にて、ビル・マンション企画開発事業、都市開発事業に携わり、バブルの絶頂期からその崩壊と処理までを現場の第一線で体験。1996年に独立。以来、創業から一貫して顧客(法人・個人)の目線での不動産および不動産投資に関するコンサルティング、投資顧問業務を行う。自身も現役の不動産プレイヤーかつ投資家として、評論家ではなく現場と実践にこだわり続ける一方で、メディアへの出演や講演活動を通じて、投資、不動産、生き残り戦略についてわかりやすく解説している。

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