(本記事は、長谷川高氏の著書『不動産2.0』イースト・プレスの中から一部を抜粋・編集しています)
インバウンドが地方の不動産と経済を救う
●地方で起こっているある変化
こうした新しい潮流が起きているのは、東京中心部だけではありません。
ある夏、出張で訪れた熊本県のひなびた温泉街を歩いていたときのこと。自転車に乗った、2人組みの若い外国人女性から道を尋ねられました。聞くと2人はスイス人で、九州の海沿いを自転車で一周する旅の途中でした。
どうしてこんな田舎街に来たのか、最初は不思議でなりませんでした。しかし、よくよく考えてみると、次のような理由が浮かんできました。
まず、スイスは海のない国ですから、やはり海のある国に行きたいと思ったのではないか。また、若い女性が自転車で長期旅行をするのだから、治安がよい国でなければなりません。この2つの条件を満たす国はどこかと考えると、相当限られてきます。私は日本が一番よいのではと考えました。
この国は、旅人に対するホスピタリティの面でも優れており、特に地方にはまだまだ人の「情」がしっかりと残っています。実際、彼女たちと訪れた八百屋さんでは、ご主人が彼女たちにフルーツなどをプレゼントしていました。
彼女たちの自転車旅行は、風光明媚な九州の風景と、そこに住まう人々のおもてなしの心によって、きっと素晴らしいものになったと思います。
ほかにも熊本県では、こんな光景を目撃しました。滞在していた小さな漁港の沖に、巨大な豪華客船が現れたのです。
なんでも近年、中国や台湾からの豪華客船が、熊本県の八代港にたびたび乗りつけているのだそうです。観光客はそこを拠点にして、熊本、鹿児島などの観光地をバスでまわるのです。たしかに鹿児島県を訪れたときも、桜島の写真を撮る中国人観光客が大勢いました。
韓国からの観光客も増えています。長崎にある有名な商店街の売上の2割は、今や高速艇に乗ってやってくる韓国人観光客によるものだそうです。
中国、台湾、韓国などのアジアの国々にとって、東シナ海をはさんですぐそばにある九州は、まさに日本の「玄関口」です。今は飛行機ばかりでなく、船によっても多くの観光客が訪れているのです。
●観光関連事業と不動産
こうした経験をふまえ、私は2018年、熊本県に民泊施設をオープンしました。ある種の実験でもあったのですが、想像よりも順調なすべり出しで、有名な観光地ではないのに、たくさんのお客さんが来てくださっています。
中国、台湾、韓国など、アジア圏のお客さんだけではありません。ドイツ、イギリス、フランスなど、ヨーロッパからのお客さんも増えています。
「この場所で、これだけのお客さんが来てくれるのなら、日本全国どこでもやっていけるのでは?」
そんな手応えを感じています。
実際、海外からの旅行者の数は、私たちが想像する以上に増加しています。2013年には年間1000万人だったのが、5年後の2018年には年間3000万人を突破したのです。
世界で一番、海外からの旅行者が多い国はフランスで、年間約8000万人が訪れます。近い将来、日本はそのフランスを抜くのではないか?そんな大胆な予測をする人もいます。私は、その可能性は十分にあると考えています。
じつは日本には、私たちが気づいていない、しかし外国人旅行者にとっては非常に魅力的なスポットがまだまだたくさんにあります。伸びしろがあるということです。日本の産業の中で、数少ない伸びしろがある、つまりさらなる成長を見込める産業こそが、観光関連業なのではないでしょうか。
すでに銀座の有名百貨店では、日本語の案内表示より、中国語の案内表示のほうがはるかに大きく目立っています。それだけ見ると、どこの国の百貨店かと思うほどです。
しかし、それでよいのです。私たちの誰もが、経済に関わらずして生きていくことはできません。「イデオロギー」や「霞」を食べて生きていくことはできないのです。
とくに地方では、経済を復興するために、インバウンドをメインターゲットとした観光関連業を盛り上げることが不可欠です。それは熊本県の中でもとくに人口減少と高齢化が著しいエリアで民泊施設を運営している、私の実感でもあります。
インバウンドによって、その土地で多少なりとも「お金」がまわるようになり、経済が活性化していけば、ほかの産業の売上も増え、新たな雇用も生まれます。結果として、不動産の価値も上がっていくかもしれません。
私たち日本人は、まだまだ外国へのアピールが足りていません。民間も、地方自治体も、政府も、もっと外に向けてのPRを活発にしていく必要があるのではないでしょうか。
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