(本記事は、長谷川高氏の著書『不動産2.0』イースト・プレスの中から一部を抜粋・編集しています)
地方銀行は生き残れるか
●金融機関の役割が大きく変わる時代
かつては、担保さえ取っていれば、最終的に金融機関は損をすることがないと信じられてきました。別の言い方をすれば、融資対象となる事業そのものの審査よりも、十分な担保を取れるかどうか、中小企業であれば、連帯保証人である社長の自宅には十分な担保余力があるか、といったことが重要視されていたのです。
実際、これがある時期まで、銀行にとっての最大のリスクヘッジでした。これがいわゆる「担保主義」と呼ばれるものです。
ところがこの担保主義が、いつのころからか地方において機能しなくなってきました。よって、現在では担保の査定より、本質的な事業自体の審査に多くの時間と労力を割くことが必要となるべきなのでしょう。その事業に持続性や成長性があるかどうか、確実に収益を生み出すビジネスモデルかどうか。まさに融資担当者本来の実力が試されるわけです。
となると、金融機関そのものの役割や戦略が、これから大きく変わっていくことは間違いなさそうです。
そもそも人口減少、高齢化が著しい地方において、地域密着の既存の事業が今までのように「成長」していくことは相当難しいと言えます。「持続」していくことすら難しくなるかもしれません。そうなりますと、融資案件の件数自体も逓減していくことになるでしょう。
結果として、ごくわずかな優良企業に、各地方銀行、信用金庫、メガバンクの支店が殺到する事態になります。くり広げられるのは、激烈な低金利競争です。金利をどれだけ安くするかで競っている状況では、現在の超低金利も相まって、銀行にとって適正な利益を得ることは到底望めません。
ここに地方の銀行が抱える、もう一つの大きな問題があるのです。
●地方金融機関が「商社」になる?
一方、ただ融資をするだけでなく、「地域商社」として地方の産業を助け、育てていくことを目指している金融機関も現れています。
頭打ちになっている地方の事業者に、適切なアドバイスを行ない、生産性を高め、販路を拡大させていく。地方においてこのような業務ができる組織が、金融機関以外にあるでしょうか?地方の行政や、農協が担っていけるとは思えません。
各地の地方銀行は、これまで優秀な人材を集めてきたわけです。これからは、その人材をどう活用するかが重要になってくるのではないでしょうか。
今後おそらく、お金を融資することは、地方の金融機関の仕事の一部でしかなくなるかもしれません。その地域に密着した、総合商社のような役割を担っていかなければ、金融機関も、地元の産業も、やがて共倒れすることになるかと思います。
地方経済をマクロな視点で見れば、人口減少問題、人口流出問題、高齢化問題は待ったなしです。その影響は、すでに地方に顕著に現れているのです。
その実態を一番よくわかっているのは、地方銀行自身でしょう。今、行動しなければ、まさにあとはありません。担保主義はすでに崩壊しているのですから、これまでのやり方では通用しません。共に産業を育て、共に生き残っていくほかないのですから。
さて次は、お金を借りる側、つまり事業者側からこの問題を見てみましょう。
その事業者が地元でしっかり利益を出していれば、「お金を借りてほしい」といった金融機関からの申し出は常にあると思います。たとえば「業績がいいので、工場を拡張してはどうですか?」といった甘い誘いです。
ところが、今現在はすべてが順調であっても、将来なんらかの経済状況の変化や、特殊な事情によって、借入金の返済が滞ることも起こりえます。そのとき、工場の一部を売却することで全額返済できると想定していたものが、実際は当初金融機関が評価した数分の一の金額でしか売ることができず、結局、共同担保として差し入れた資産のすべてを売らなければならない、という事態が起こりうるのです。
不動産の価値下落がもたらす恐ろしい落とし穴です。
次のようなことも起こりうるでしょう。無借金で経営していた物販店が、たまたま追い風に乗って、業績のよい時期がしばらく続いたとします。そして、銀行からの誘いもあり、それほど多額とは思えない融資を受けて新店舗を開設します。
ところが数年後、逆風が吹いて、返済が滞ってしまいます。そこで新店舗を売却しようとするのですが、それだけでは全額返済できず、結局、本店まで売却するはめになる。なおかつ、連帯保証人になった社長の自宅まで手放さざるをえなくなる……。
こうした思ってもいなかったことが起こりうることを、記憶にとどめておいてください。それだけ、地方の不動産の価値は、急激に下落しているのです。
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