税金を納めることは、個人ならずとも法人であったとしても国民の義務である。しかし、税金が未納の状態を続けると、国や地方自治体から何らかのアクションを起こされる。ここでは、その具体例について説明する。
税金未納を続けると差し押さえへ
税金の未納を続けると、国や地方自治体は何らかのアクションを起こす。ただ、いきなり差し押さえなどになるのではなく、きちんと手順を踏んで一つずつ段階を追ってアクションをかける。
滞納
税金を規定の日までに納めていないと、滞納の状態となる。期限は法人税、消費税、事業税などの地方税については、原則として決算日から2ヵ月以内である。源泉徴収税は原則、支払った日の属する月の翌月の10日までであるが、給料などについて納期の特例を受けている場合は、7月10日または1月20日までとなる。給与から徴収される住民税についても給与を支払った翌月10日となっている。督促状
納税がなされないときは、税務署や地方自治体から督促状が送られる。場合によっては電話がかかってくることもある。延滞税
税金が未納の場合、未納の期間に応じて追加で税金が支払う必要がある。差し押さえ
督促を行っても税金が納められない場合は、国や地方自治体は最後の手段として、差し押さえをすることができる。これが実行された後は、差し押さえられたものは競売にかけられ、それを滞納分に充てることとなる。
STEP1……督促状が送られる
納税がなされなかった場合、税務署や地方自治体から督促状が送られてくる。いつになったら送られるかという点について、国税の場合ははっきりした規定はないが、地方税の場合は期限の日から20日以内に督促状を送らなければならないと決まっている。ただし、条例によってこの期間が延長されていることもある(例えば、さいたま市は30日)。
STEP2……延滞税を支払うことになる
納税が遅れた場合は、延滞税を支払う。延滞税は、納付期限の翌日から納付した日までの日割りで計算されることとなる。そのため、延滞税は本来納める税金を納めた後で請求されることになる。
延滞税はどうやって計算するのか(国税)
延滞税の計算方法は以下の式で計算される。
税金の額 × 延滞税の割合 × 日数 ÷ 365(1円未満切り捨て)
ただし、延滞税の割合は2ヵ月以内の部分と2ヵ月超の部分で異なる。そのため、期限の翌日から2ヵ月以内と2ヵ月超で区切って計算して、後で合算することとなる。
延滞金はどうやって計算するのか(地方税)
国税の延滞税に相当する地方税の延滞金の計算式は、国税の場合と同じである。
税金の額 × 延滞税の割合 × 日数 ÷ 365(1円未満切り捨て)
ただし、延滞税の割合は1ヵ月以内の部分と1ヵ月超の部分で異なる。そのため、期限の翌日から1ヵ月以内と1ヵ月超で区切って計算して、後で合算することとなる。
延滞税率
延滞税率は毎年、前年の12月15日までに財務大臣が告示する割合をもとにして算出される。ここ5年間の割合は以下のとおりである。
国税:2ヵ月以内の部分 地方税:1ヵ月以内の部分 | 国税:2ヵ月超の部分 地方税:1ヵ月超の部分 | |
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2020年 | 年2.6% | 年8.9% |
2019年 | 年2.6% | 年8.9% |
2018年 | 年2.6% | 年8.9% |
2017年 | 年2.7% | 年9.0% |
2016年 | 年2.8% | 年9.1% |
延滞税は経費にできない!
延滞税で注意しなければならないことは、経費にすることができない点である。すなわち、経費にできない分だけ、利益をもとに算出される法人税や地方税の金額がそれだけ上がる。
STEP3……それでも払わないと差し押さえへ
財産調査
差し押さえに先立ち、税務署や地方自治体は調査のために本人や関係者に質問や調査ができる。この質問については、本人に対して無断で行ってもよいことになっている。その対象は、預貯金、不動産などすべての財産に対して行われることになっている。
差し押さえ処分
法律では「督促状が送られてから、10日以内に納税ができない場合は差し押さえができる」ことになっている。実際には10日たったら即、差し押さえが行われるわけではないものの、財産調査の結果を踏まえ、税務署や地方自治体は差し押さえを行うことになる。
差し押さえできないものもある
何でも差し押さえができるかといえばそうではなく、法律上、差し押さえができないものもある。会社の場合は、主に以下のものについて差し押さえることができない。
・会社印
・技術者、職人などが業務で使う器具およびその他のもの。ただし、商品は除く
・発明などでまだ公表されていないもの
資産を差し押さえたときは公売(換価)へ
まず、差し押さえがあった場合、差し押さえをした本人のみならず、その関係者(金融機関、不動産の抵当権者など)に対して「差押通知書」の通知がなされ、差し押さえの事実が知られることとなる。
差し押さえられたものは、その後で以下の措置が取られる。預金については、取り立てをした後に滞納した税金に充てられる。不動産が差し押さえられた場合は、差し押さえがあった旨の登記がなされ、売買や贈与などができなくなる。差し押さえられても、しばらくは納付を待ってもらえる場合もあるが、納付がない場合は公売にかけられ、滞納した税金に充てられる。他の資産も同様に差し押さえられた後に公売にかけられ、滞納した税金に充てられる。
支払えないときはどうすべき?
まずは税務署や地方自治体などに相談を
税金が未納であるものの、未納の状態が解消できそうもない場合はまず、税務署や地方自治体に相談されることをおすすめする。督促状などには、問い合わせ先が書かれており、そこに連絡を取ることによって何らかの対応をしてもらえる可能性はある。納付期限の前であっても、納付できないことが予見される場合は相談することもできる。
支払えないときは手続きを進める
税金の支払いができない場合に相談すること以外にも、法律で認められた手続きがある。
国税の場合、納税が難しい場合に「納税の猶予」を受けることができる。これが認められると新たな差し押さえが行われなくなる、差し押さえの解除がなされることがある、延滞税の一部または全部が免除されるなどの効果がある。その要件は以下のとおりである。
- 次のうちいずれかの事実があること。なお、これはほんの一例であり、その原因が法人自身の責めに帰することができないものとなっている。
・財産について、災害を受けたり盗難にあったりしたこと
・事業について著しい損失を受けたこと
・納税者や家族が病気にかかったり負傷したりしたこと
・事業を廃業したり休業したりしたこと
・上記4つに類する事実があったこと
・本来の期限から1年以上経過した後に、修正申告などにより納付すべき税額が確定したこと - 納税者がその納付すべき国税を一時に納付することができないと認められること
- 申告書が提出されていること
- 担保の提供がされていること(金額が100万円以下の場合などは免除されることもある)
なお、地方税の場合は、同様の制度が「徴収猶予」などの名前で設けられている。
国税について一度に納税ができない場合に、救済措置として設けられている制度には他に「換価の猶予」がある。換価の猶予が認められると、差し押さえの解除か猶予、差し押さえられた物件の公売の延期、猶予期間中の延滞税の一部免除などの効果がある。要件は以下のすべてを満たすことが条件である。
- 国税を一時に納付した場合、事業の継続などを困難にするおそれがあると認められること
- 納税について誠実な意思を有すると認められること
- 換価の猶予を受けようとする国税以外の国税の滞納がないこと
- 納付すべき国税の納期限から6ヵ月以内に申請書が提出されていること
- 担保が提供されていること(金額が100万円以下の場合などは免除されることもある)
なお、地方税にも同様の制度がある。この場合、申請書の締め切りが納期限の3ヵ月以内(東京都の場合)など短縮されている場合があるので注意を要する。
逃げ得はできない!
支払えないとなったら、会社を解散させて逃げ切ればいいと考える方も多いだろう。しかし、法律上、それはできないことになっている。国税庁は、形式上、解散登記をして解散したとしても税金を支払っていない限り、解散登記は無効であるとして、なおも存続しているものと捉える。そのうえで、法律の規定では解散したときに、その会社の残余財産を受け取った方について、税金を納めるよう要求できるように規定されている。
これは地方自治体でも一緒で、滞納分があったまま解散した場合は、残余財産を受け取った人に対して税金を納めるように要求できるように規定されている。
未納のデメリットは意外なところにもある!
税金の未納があると、先ほど述べたとおり、延滞税や差し押さえといったペナルティーが科せられることがある。しかし、中にはそれ以上のペナルティーが科せられるケースもある。
自動車税の場合
自動車を車検に出す際は納税をしているかどうか、確認することになっている。つまり、自動車税を滞納すると、車検を受けられなくなり、公道で車を走らせることができなくなる。もし走らせた場合、道路交通法違反となり、さらなる罰則が科せられることとなる。この場合、自賠責保険が切れている場合もあり、この点についても罰則が科せられる。
車検が切れた自動車を検査場に持っていく方法もあるが、仮ナンバーを取得したり、車を何らかの方法で輸送したりすることなどが必要となり、延滞税などの他にコストがかかる。
未納のままにせずに対応を
税金を納められない事情は多く発生している。ただ、未納のままでいると税務署や地方自治体はさまざまな手順を踏んで納税を促し、最悪の場合は差し押さえを行った後、公売をする事態になる。一方で、税金が納められない事情を抱えている場合には、申し出れば何らかの対応を取ってもらえる可能性はある。納められないからといって、諦めずに、まずは相談されることをおすすめする。(提供:THE OWNER)
文・中川崇(公認会計士・税理士)