ピップ〔株〕代表取締役社長 松浦由治

ピップ,松浦由治
(画像=THE21オンライン)

「エレキバン」などの商品で広く知られるピップ〔株〕だが、実は、ドラッグストアなどへの卸売りが売上げのほとんどを占めており、メーカー機能は会社のごく一部でしかない。ところが、今年11月に組織再編を行ない、メーカー機能の強化に本格的に乗り出した。いったい、なぜなのか? 同社社長の松浦由治氏に話を聞いた。

ブランドマネージャーを置き、広報宣伝も強化

――御社は「エレキバン」などを作っているメーカーというイメージが強いですが、会社としては卸売業が中心だとか。

松浦 もともと当社は、1908年に、医療用品の卸売業者として創業したんです。

メーカーを始めたきっかけは、東京大学の林周二先生が書かれた『流通革命』(中公新書)でした。1962年に出版されて、大いに評判になった本です。その中で林先生は、「問屋無用論」を説かれています。これからの卸売業は付加価値をつけないと成立しなくなるという話なのですが、文字通り、卸売業はなくなるのではないかという危機感を当時の経営陣が抱き、メーカーと小売りにも進出することにしたのです。

1967年に、ベテランの営業マンと新人の2人で立ち上げた企画室が、当社のメーカー機能の始まりです。今、卸売りとメーカーとの売上げの比率は、95対5くらいですね。

――卸売りというのは、具体的には?

松浦 医療用品や衛生用品、ベビー用品、介護用品などを、ドラッグストアやネットショップ、ベビー用品専門店などに卸しています。もともとは薬局・薬店に卸していたのですが、近年はドラッグストアが急伸していて、売上げの7割ほどを占めるようになりました。ドラッグストアの中心的な商材である医薬品や化粧品は扱っていないのですが、全国にある約2万店のうち、9割以上と取引きがあります。

――メーカーとしてもすでに50年以上の歴史があるわけですが、どのような方針で商品開発をしてきたのでしょう?

松浦 卸売業者として取引きのある他のメーカーと競合する商品を作るわけにはいかないので、ニッチな商品やアイデア商品を中心に作ってきました。また、以前は薬局・薬店、今はドラッグストアなどに販売しているので、健康関連の商品ですね。初期には、海外を視察して、日本に合う商品を探したりもしていたようです。

最初に作ったのは携帯用ビデだったのですが、思ったほどは売れなかったと聞いています。次に作ったのが、社員が子供の頭を洗うときに発想したシャンプーハットでした。

当社は、一部の商品は自社生産しているのですが、基本的には自社で技術も工場も持っていないので、他のメーカーと協力してモノ作りをしています。

――そのメーカー機能を、なぜ今、拡大しようとしているのでしょう?

松浦 国内市場が縮小していく中で、現状の卸売りの拡大は難しいでしょう。すると、会社を維持し、さらに成長させていくためには、メーカー機能を拡大する必要があります。

――どのようにして拡大するのでしょうか?

松浦 2019年11月からの新年度から、メーカー部分の組織を再編しました。

具体的には、まず、「エレキバン」などの磁気を使った商品と「スリムウォーク」などのビューティーヘルスの商品、そして、サポーターやテーピングなど、スポーツ関係の商品、加えて新規商品の四つに商品カテゴリーを分けて、それぞれにブランドマネージャーを置くことにしました。既存の商品をどう売り伸ばすか、どんな新商品を作るかなどを、それぞれのブランドマネージャーが包括的に管理します。ただ、現在はビューティーヘルスのブランドマネージャーは空席で、外部からの招聘も含めて検討しているところです。

スポーツ関係の商品には、「プロ・フィッツ」というブランド名をつけています。これは、従来はサポーターのブランド名だったのですが、伸縮テープも統合して、リブランディングしました。

――他社が作らないニッチな商品を作るという方針は変わりませんか?

松浦 世の中にある商品の種類が非常に多くなっているので、まったく競合しないようにするのは、現実的に難しいと思っています。ただ、当社独自の特長を持った商品を作っていきたいですね。

実は、プロダクトマネージャーを置いたことは、過去にも2度あるんです。そのときにうまくいかなかった要因は、マーケティング担当の部署とプロダクト担当の部署との間のコミュニケーションが不足していたことにありました。マーケティングは東京、プロダクトは大阪と、物理的にも離れた場所にあるのですが、いつでもテレビ会議ができる環境を整えるなどして、今回はコミュニケーション不足にならないように気をつけています。