中国を中心に、コロナウイルスを病原菌とする新型肺炎の感染拡大が加速しています。1/31(金)には感染者9,692人、死者213人と急速に拡大してきました。日本ではインバウンド消費の減少等が懸念され、その関連銘柄のみならず株式市場全般にもリスク回避を目的とした売りが広がるようになりました。特に1/27(月)および1/30(木)の東京株式市場では、日経平均株価が400円超も下げる波乱の展開になっています。現状では、感染者数・死者数の増加はむしろ加速する兆しをみせており、株式市場の波乱は継続する可能性がありそうです。
新型肺炎の感染拡大が続き、日本経済への悪影響が懸念される中、東京株式市場では、新型肺炎の感染防御に貢献が期待される関連銘柄が買われる一方、インバウンド関連銘柄が売られる展開になっています。こうした状況はいつまで続くのでしょうか。物色傾向に変化が生じるのはいつのことになるのでしょうか。
感染拡大が加速する新型肺炎とその関連銘柄
中国を中心に、コロナウイルスを病原菌とする新型肺炎の拡大が加速しています。1/22(水)および1/27(月)の当社「銘柄・フラッシュ」でもご紹介したように、コロナウイルス自体は人や動物の間で広く感染症を引き起こすウイルスで、実は珍しいものではなく、多くの人は感染しても風邪の症状程度で終わるようです。しかし、コロナウイルスはまれに重い症状を引き起こす場合があり、その代表例が重症急性呼吸器症候群(SARS:致死率10%弱)や中東呼吸器症候群(MERS:同34%)などとなっています。今回の新型肺炎はそんなコロナウイルスが引き起こした新しいタイプの感染症であるとみられます。
今回の新型肺炎は中国・湖北省の武漢市で発生し、1/31(金)には感染者9,692人、死者213人と急速に拡大しています。中国では1/24(金)から春節の長期休暇に入り、人の移動が内外で活発化しやすい時期になったため、拡大の加速が心配されるところでしたが、中国政府は団体旅行を禁止する一方、発生源となった武漢市を実質的に「閉鎖」するなど、ここにきて対応を本格化させています。
中国政府の措置もあり、日本ではインバウンド消費の減少等が懸念され、関連銘柄(表2)のみならず株式市場全般にもリスク回避を目的とした売りが広がるようになりました。特に1/27(月)および1/30(木)の東京株式市場では、日経平均株価が400円超も下げる波乱の展開になっています。現状では、感染者数・死者数の増加はむしろ加速する兆しをみせており、株式市場の波乱は継続する可能性がありそうです。なお、SARSが流行した2002~03年にかけて、株式市場は下げていますが、当時は年金の代行返上・持ち合い解消の売り等もあり、純粋にSARSの影響だけで下げたわけではないと思います。すなわちSARS流行の経緯や株式市場の反応は、今回の参考にはなりにくい面があります。
表1は新型肺炎の感染防御に貢献が期待される関連銘柄の例で、「銘柄・フラッシュ」でもご紹介しました。日経平均株価が前日比401円安となった1/30(木)には、この表の中の多くの銘柄がストップ高を含む大幅高となっています。すでに、業績面では説明しにくい株価水準の銘柄も増えていますが、新型肺炎の感染が増加する間は、株式市場で話題になりやすく、これらの銘柄への投資家の注目が続く可能性はありそうです。図1はそれらのうち、もっとも激しい動きをしている川本産業(3604)の日足チャートです。一方、図2の日本空港ビルデング(9706)に代表されるインバウンド関連銘柄は波乱の展開になっています。
表1 新型肺炎の感染防御に貢献が期待される関連銘柄(例)とその株価推移
コード / 銘柄 / 株価(1/30) / 株価騰落率昨年末~ / 投資のポイント
<3604> / 川本産業 / 3,095 / 592.4% / 医療・衛生材料
<4364> / マナック / 2,000 / 210.6% / 抗菌化スプレー
<7980> / 重松製作所 / 2,350 / 235.2% / SARS、MERS等対策指定商品
<7963> / 興研 / 3,700 / 173.3% / 感染対策マスク
<3161> / アゼアス / 1,670 / 181.6% / 防護服。感染症防護対策キット
<3417> / 大木ヘルスケアホールディングス / 1,728 / 72.8% / ウイルス除去製品
<4465> / ニイタカ / 2,881 / 56.6% / 消毒用アルコール
<6946> / 日本アビオニクス / 1,670 / 39.4% / 発熱者スクリーニング
<4574> / 大幸薬品 / 4,065 / 24.1% / 幅広い菌から守る薬品
<4549> / 栄研化学 / 2,143 / 5.8% / 「SARS」で検出試薬
<2269> / 明治ホールディングス / 7,750 / 5.0% / うがい薬で有名
<3302> / 帝国繊維 / 2,482 / 5.0% / 新型感染症対策製品
<8113 / ユニ・チャーム / 3,726 / 0.7% / 家庭用マスクトップシェア
※Bloombergデータ、会社公表データを用いてSBI証券が作成。決算予定日は予告なく変更される場合があります。1/22(水)付「銘柄・フラッシュ」でご紹介した銘柄のうち、昨年来株価が上昇した銘柄に絞ってご紹介しています。投資のポイントは各種報道等をもとに、SBI証券が作成したもので、必ずしも、当該企業の特徴を的確に示しているとは限らないこと、また、ここに掲載された銘柄だけが新型肺炎の感染防御に貢献が期待される関連銘柄であるとは限りませんのでご注意ください。なお、掲載の順番は、昨年来の株価上昇率が大きい順としています。
図1 川本産業(3604)・日足
図2 日本空港ビルデング(9706)・日足
株式市場・関連銘柄の見通しを探る
新型肺炎の感染が広がる中、中国政府や日本政府、国際機関等による対応も進みつつあるようです。中国の政府当局は1/23(木)に新型肺炎の発生源となった武漢市を事実上封鎖する一方、1/27(月)以降は海外団体旅行を禁止。さらに本来1/30(木)までだった春節の休みを2/2(日)まで延長(上海などさらに長期化する都市も)する措置も発表しました。こうした中、日本政府はチャーター便を使って邦人の武漢市からの帰還を実施。1/30(木)にはWHO(世界保健機関)が緊急事態を宣言し、国際的な協力体制が敷かれることになりました。
今後はどうなるのでしょうか。注意すべきなのは、今回の新型肺炎は10日前後、最長で14日程度(中国衛生当局)とされる潜伏期間中にも感染する可能性があることで、潜伏期間中には感染しないSARS(重症急性呼吸器症候群)と比べても強い感染力が警戒されることです。現在報告されている患者数や死者数が実態より少ない可能性も考えられ、感染が今後も拡大する危険性があります。1/24(金)には感染者830人、死者25人でしたが、前項でご紹介したように、1/31(金)には感染者9,692人、死者213人と急速に拡大してきました。2002年以降感染が拡大したSARSと同様の展開ならば、感染のピークは3月頃となり、致死率がさらに上昇する可能性も指摘されます。WHOは緊急事態宣言をしたものの、中国との貿易や人の移動の制限は勧告しないとしましたが、実際には国際間で貿易や人の移動に広範な影響が出てきそうです。
春節休みに多くの中国人観光客を見込んでいた我が国の観光業や百貨店等への打撃は避けられないでしょう。訪日中国人はこの12年間で10倍に増え、旅行消費額は1兆7,700億円に拡大しています。中国人観光客の減少という影響が1年続いた場合、GDPの0.45%に相当する2兆5千億円あまりが押し下げられるという試算もあります。
新型肺炎の感染拡大が春節の時期と重なったため、中国人観光客向けに商品の在庫を積み増していた企業にはさらに深刻な打撃が発生するかもしれません。1/30(木)に決算発表を行ったスタンレー電気(6923)は新型肺炎の影響もあり、業績予想をいったん取り消す発表を行いましたが、今後は同様の決定を行う企業が増えてくる可能性が残ります。また、中国に店舗を展開する外食・小売等も多く、新型肺炎の影響で中国人の外出が減れば、業績に悪影響が出てくる企業も増えそうです。投資家は残念ながら、まだまだ多くの悪材料に向き合うことになると危惧されます。
ただ、ここは冷静に考えるべきでしょう。上述した最新の感染者数、死者数から計算される致死率は2.2%(今後変動する可能性は残ります)で、季節性インフルエンザの0.1%よりは高いものの、SARSの10%弱、MERS(中東呼吸症候群)の34%よりは低いようです。また死者の多くが高齢者や糖尿病患者をはじめ健康状態の悪い人が中心であり、健康な人の致死率はさらに下がると推測されます。また、潜伏期間に知らず知らずのうちに感染が拡大しているリスクが大きいことになりますが、武漢市が市民の移動禁止を始めた1/23(木)から10日後は2/2(日)で、中国政府が新たな春節休暇終了の日として定めた日になっています。したがって、2月に入ると感染が減速する可能性が出てきます。
ぴったり同じと考えることはできないかもしれませんが、新型肺炎の感染について、その季節特性については、インフルエンザの例が参考になりそうです。インフルエンザの感染は平均的に、日本では1月頃がピークになりやすいというデータがあります。やはり、寒くて乾燥しやすい冬は、ウイルスが浮遊しやすいようです。東京の1月の平均最高気温が10度、最低気温が2度なのに対し、武漢市の1月は同最高が8度、最低が0度とむしろ寒く、それでいて晴れの日が多いようで、東京よりもウイルスに感染しやすいと言えるかもしれません。
中国中央部のやや内陸に入った土地柄か、2月以降の平均気温は東京よりも高くなる傾向があります。すなわち、新型肺炎も、仮に武漢市を中心に考えるならば、1月頃がピークになりやすく、2月以降は季節的に小康状態に向かいやすいと推測されます。したがって、今回の新型肺炎騒動は中国の春節休暇の間がピークになるかもしれません。
ちなみに、中国市場にリスクを取っている投資家が、これだけ騒ぎが大きくなっている春節休暇中、何もリスクヘッジをしないでしょうか。むしろ、多くの投資手段を有しているほど、様々な方法でリスクヘッジを取っていると考えるべきでしょう。このため、東京株式市場がそのリスクヘッジの対象となり、株価の下げが加速した可能性はゼロではないと思います。世界中、ボーダレスに、常に取引できる為替市場はすでに落ち着きを取り戻しています。このため、東京株式市場も2月第1週を陰の極として反発しやすくなるように思われます。
さらに、感染者数の増加ペースの減速等、目立った数字の変化が出てくれば、株式市場も落ち着きを取り戻しそうです。その場合、表1でご紹介した銘柄について利益確定売りが増え、株価下落が目立つ表2の銘柄に押し目買いが優勢となる可能性があります。投資家としては、感染者数等のデータを常日頃しっかりと把握しておきたいものです。
表2 おもなインバウンド関連銘柄の値動き
コード / 銘柄 / 株価(1/30) / 株価騰落率1/20~ / 株価騰落率昨年末~
<9706> / 日本空港ビルデング / 5,030 / -9.2% / -17.4%
<3086> / J.フロント リテイリング / 1,329 / -11.3% / -13.1%
<2222> / 寿スピリッツ / 7,020 / -19.9% / -12.8%
<3099> / 三越伊勢丹ホールディングス / 862 / -10.7% / -12.4%
<4911> / 資生堂 / 7,050 / -9.6% / -9.4%
<9044> / 南海電気鉄道 / 2,849 / -4.5% / -3.9%
<7532> / パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス / 1,744 / -6.4% / -3.7%
<4452> / 花王 / 8,740 / -3.3% / -3.2%
<4921> / ファンケル / 2,835 / -7.7% / -2.6%
<9021> / JR西日本 / 9,312 / -1.3% / -1.4%
<3088> / マツモトキヨシホールディングス / 4,345 / -3.0% / 2.6%
※当社のテーマ株投資ツール「テーマキラー!」や各種報道等で「インバウンド関連銘柄」と紹介されている銘柄の一部をご紹介しています。なお、掲載の順番は、昨年来の株価下落率が大きい順となっています。
※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部
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