リーマントラベラーに聞く「多忙でも旅に出る理由」
旅を趣味にしている人は多いが、東松寛文氏の旅の楽しみ方は並大抵ではない。平日は激務の広告代理店に勤めながら、週末を利用して世界中を旅し続け、渡航した先は、7年間でなんと67カ国143都市。2016年には3カ月で5大陸18カ国を制覇して、「日本でトランジット」をしながらの世界1周を達成した。そこまで東松氏を惹きつける旅の魅力とは?
旅先での「小さな成功」で自己肯定感が高まる
多くの人が感じている旅の魅力の一つは、日常から離れた場所で過ごすことで、心身をリフレッシュさせられることだろう。東松氏も、最初に旅にハマった理由はそこにあったそうだ。
「身体だけなら、週末に自宅でゆっくりしていれば回復するのかもしれませんが、心のほうは、なかなかそうはいきません。非日常を過ごすほうが回復するように感じますね」
さらに東松氏は、海外への旅を繰り返すうちに、旅は仕事にもポジティブな効果をもたらすことに気がついたという。
「日常の仕事では、失敗をすると会社やクライアントに損害を与えたりして、大変なことになってしまいます。ですから、できるだけ失敗しないように、安全策を取りがちです。
一方で、勝手がわからない海外に行けば、どうしても失敗をしてしまいます。目的地にたどり着けないかもしれませんし、レジで会計をしてもらうのもスムーズにいかないかもしれません。旅の間に1度も失敗をしないで過ごすのは不可能でしょう。
だからこそ、失敗を恐れずに、チャレンジをしやすい。一人での旅なら、失敗したところで、自分以外に大した迷惑はかかりませんし。
そして、旅先では失敗ばかりですから、成功のハードルが格段に低くなります。知らない人に道を尋ねることができた。一緒に写真を撮れた。勇気を出して注文した料理が美味しかった。ホテルに自力でたどり着けた。そんな程度のことで、自己肯定感を高めることができます。
旅先で小さな失敗と成功の経験を繰り返すと、普段は気がつかない自分を見つけることができ、新しい視点で仕事に臨めるようになるのです」
旅でも失敗をしたくないからと、入念に計画を立てて、その通りに進めようとする人もいるが、東松氏は、事前に調べた情報を確認しに行くようなことはしないという。
「それは、『旅』ではなく、『旅行』です。私は、両者を分けて捉えています。
家族や友人たちと楽しむには『旅行』のほうがいいのですが、気づきや成長があるのは、不確実性の高い『旅』です。
私は旅をするとき、絶対に行きたい1軍の場所と、できれば行きたい2軍の場所を決めて、グーグルマップにピンを立てます。
現地では、『Could you take a picture?』と人に話しかけ、写真を撮ってくれた人にお勧めのレストランを聞いて食べに行ったりして、不確実性を楽しみます。そして、次にすることがなくなったら、グーグルマップを開いて、最寄りのピンが立っている場所に足を運んでいます」
旅先で必ずお洒落なノートを買う理由とは
旅先でせっかく色々な経験をしても、それを振り返ることなく、そのまま日常に戻ってしまう――。旅をしている最中は、予想外のことが続いたり、テンションが上がりすぎたりして、どうしてもそうなりがちだ。
「『ああ、楽しかった』だけでもいいのですが、それで終わらせないためには、ひと工夫必要です。
私は旅先で、必ずと言っていいほど、普段は買わないようなお洒落なノートを購入するようにしています。また、綺麗な風景などだけでなく、看板でも店でもなんでも、街で見かけてちょっと気になったものも撮影します。それはすべて、帰りの機内で作業をするためです。
飛行機の中というのは案外暇で、時間を持て余す人が多いのではないでしょうか。その時間を使って、旅の振り返りをするのです。
撮影した写真を見直しながら、『なぜ、自分はこの看板が気になったのだろうか?』『ランチのとき、なぜこちらの店を選んだのだろうか?』というように、自分が気になった理由や、無意識にした選択の理由を自問して、その答えを考え、ノートに書いていきます。そうやって言語化することで、日常では気づけない自分の特性や強みに出合うことができます。
よく『自分探しの旅』と言いますが、自分探しに適しているのは、旅の最中ではなく、帰りの機内なんです。
私の場合は、誰もが行くような場所ではなく、地元の人が行くようなレストランやバーに行ったり、まだガイドブックには載っていない最新の名所に行ったりと、他の観光客がやっていないことをするのが好きだということに気づくことができました。
その結果、仕事でも誰もやったことのないプロジェクトに対してモチベーションが高まることを自覚するようになり、そういう仕事に手を上げるようにしています。
逆に、『これはモチベーションが上がりにくい仕事だな』という判断もできるようになり、その場合は早めに周囲に相談し、アドバイスをもらったりして、リスクを減らす工夫ができるようになりました」