(本記事は、テンダイ・ヴィキ氏、ダン・トマ氏、エスター・ゴンス氏の著書『イノベーションの攻略書 ビジネスモデルを創出する組織とスキルのつくり方』翔泳社の中から一部を抜粋・編集しています)

ビジネスモデル分析に必要な4つの視点

ビジネスモデル
(画像=Michal Chmurski/Shutterstock.com)

ビジネスモデルが期限切れになる脅威が常に存在するという条件下では、優れたアイデアを継続的に見直し続けることがイノベーションの重要テーマである。アイデアを見直す際の最初のステップは、自分たちがイノベーション工程のどこにいるかを分析すること、すなわちビジネスモデルの分析である。この分析で確認すべき大命題は、いままさに起こっている事業環境の変化に、既存のビジネスモデルが適応可能かどうかだ。分析を実施するためには、まずイノベーション・チームが既存のビジネスモデルをキャンバス上に記述しなければならない。そのうえで、成功の継続に影響を与えかねない以下の4つの外的要因を検討する。


●事業環境

9-4
(画像=『イノベーションの攻略書 ビジネスモデルを創出する組織とスキルのつくり方』より)

アレックス・オスターワルダーと彼が代表を務めるストラテジャイザーのチームは、事業環境キャンバスを開発した(図9-4)。このキャンバスでは、自社のビジネスモデルを中心に配置し、自社の事業に影響を与える可能性のある4種の主要な外的要因をマッピングする。具体的には市場動向(例:顧客層の拡大もしくは縮小)、主要トレンド(例:技術の変化)、業界動向(例:競合状況)、マクロ経済要因(例:為替相場)に分類される。自社のビジネスモデルの周囲に事業環境をマッピングしたら、次のステップとして、事業環境への適応性を高めるために自社のビジネスモデルに変更を加える必要があるかどうかの判断を下さなければならない。

●価値提供ネットワークとパートナー企業

9-5
(画像=『イノベーションの攻略書 ビジネスモデルを創出する組織とスキルのつくり方』より)

ほとんどのビジネスモデル・キャンバス上には、価値提供のために協業する主要パートナーの一覧があるはずだ。最初に分析することは、個々のパートナーとの関係が良好かどうかである。そのパートナーは信頼に足る価値を提供しているだろうか。加えて、自社のビジネスモデルにおいてそのパートナーにどの程度依存しているかを再確認してもよいだろう。最後に、仮にパートナーの置き換えが必要になった場合に、それがどの程度難しいかを確認しておく。最高のパートナーは、十分な信頼性があり、しかしながら自社チームはそれほど依存しておらず、簡単に置き換え可能なパートナーである。最悪なパートナーは、信頼性がないにもかかわらず自社チームが深く依存しており、簡単に置き換えのできないパートナーだ。この分析を通して、自社のビジネスモデルの価値提供ネットワークに存在するリスクを洗い出すことができる。

●顧客の目的

9-6
(画像=『イノベーションの攻略書 ビジネスモデルを創出する組織とスキルのつくり方』より)

この分析では、ビジネスモデルの提供価値の部分を深掘りする。私たちの経験上、自社製品が顧客のどんな目的を達成するために役立っているのかを、明確に説明できない企業が多い。製品の拡大とともにイノベーション・チームが肥大化した場合に、特にそのような傾向がある。多くの企業は、顧客のニーズを知るために新規顧客とのコミュニケーションを図るといった努力をほとんど行っていない。提供価値キャンバスを使用して、自社の顧客の目的について再度話し合う必要がある。また、顧客が目的達成のために取っている行動が、以前と異なっているかについても話し合うべきだ。顧客の目的達成を自社よりもうまく支援している、新たな競合企業がいないか。製品が通常と異なる予想外の使われ方をしていないか。自社製品の1つ1つの機能が価値を提供できているか。顧客の目的達成を妨げている機能はないだろうか。

●自社戦略に対する自問自答

リスクについても考え直そう。ここでは私たちが顧客のプロジェクトを支援する際に、顧客のイノベーション・チームに実施してもらう内容を紹介する。まず、ゲイリー・クラインが開発したプレモータム・シンキング(訳注:事前に失敗したときのことを明確にイメージすることで、本番での失敗を未然に防ぐ考え方)を使い、自社のビジネスモデルが完全に失敗した将来の姿をイメージすることから始める。次にビジネスモデル・キャンバスと事業環境キャンバスの中から、最も失敗の原因となりそうな要素を特定する。分析作業が終了したら、そのような失敗の可能性を排除するために、ビジネスモデルにどのような変更をすべきか話し合う。


既存のビジネスモデルを分析するためにイノベーション・チームが利用可能な手法はいろいろある。もちろん、ここで紹介したものがすべてではない。自分たちのビジネスモデルのリスクや脅威を分析するために、さらに創造的な方法を思いつくかもしれない。分析のステップでは、既存の販売チャネル、カスタマー・リレーション、収益源、コスト構造、成長エンジン、主たる事業活動、主たるリソースといった、ビジネスモデルのあらゆる要素がレビューの対象となる。重要なことは、ビジネスモデルを見直し、再設計する方法を見出すために、ビジネスモデル全般を顕微鏡で見るように詳細に観察することだ。

心機一転

分析が完了したら、発見したことを整理して「ビジネスモデルの再設計」を開始する。ブレインストーミングを実施して、自社のビジネスモデルを改善し、より高い適応力を持たせるための方法を検討していく。例えば、事業環境を分析した後に、イノベーション・チームを2つか3つの小グループに分け、各グループでビジネスモデルを再設計する。そのうえで、各グループのビジネスモデルから最も優れた要素を抜き出して、最終版を作成するのだ。

これまでの経験から、ビジネスモデル設計の「仮説」アプローチは、非常に有効である。この手法を使うことで、分析で得られた発見を仮説シナリオに転換できる。例えば、事業環境分析の後で、現在は顧客に有償でサービスを提供しているチームが、以下のような仮説シナリオを作るかもしれない。

競合企業がサービスの無料提供を開始し、自社も追随せざるをえないとする。利益を上げ続けるためには、既存のビジネスモデルをどのように適応させればよいだろうか?

いったんシナリオを作成すれば、それをビジネスモデル再設計のベースとして利用し、さまざまな側面から検討できる(例:新たな収益モデル、新たな流通チャネル、新たな顧客セグメント、新たな技術)。ビジネスモデル・プロトタイピング手法を用いることで、イノベーション・チームは1つのシナリオに対する複数の異なるビジネスモデル案を作成可能だ。そのうえでビジネスモデルを1つに絞り、次の検証と実証のプロセスに進むことができるようになる。お気づきかもしれないが、ビジネスモデルの再設計は、先に説明した「アイデア創造」とほぼ同じである。いずれにしても最終目的は、仮説を構築し検証することなのだ。唯一の違いは、対象が既存のビジネスモデルということだ。

イノベーションの攻略書 ビジネスモデルを創出する組織とスキルのつくり方
テンダイ・ヴィキ
イノベーション戦略コンサルティング会社であるベネリ・ジェイコブスの創業者兼主席コンサルタントとして、企業がスタートアップ同様にイノベーションを起こすための社内エコシステム構築を支援。博士号(心理学)とMBAを取得している。フォーブス誌にも寄稿を行う。プロダクト・ライフサイクル手法は2015年にニューヨークで行われたコーポレート・アントレプレナー・アワードにおいてベスト・イノベーション・アワードを受賞した。
ダン・トマ
世界各国のハイテクおよびインターネット関連スタートアップに起業家として関与した経験を持つ、欧州のアントレプレーナー・コミュニティのリーダー的存在。ドイツテレコム、ボッシュ、ジャガー、ランドローバー、アリアンツといった企業を顧客に持つ。エコシステムを通じたイノベーション実現アプローチの主要な提唱者として、アジアや欧州の各国政府に対する国策イノベーション・エコシステム構築や国策イノベーション戦略立案の支援も行う。
エスター・ゴンス
ネクスト・アムステルダムの共同創業者兼出資者として、アイデア段階から有効なビジネスモデル構築までのスタートアップ支援を行う。アムステルダム応用科学大学のコミュニケーションおよびマルチメディア・デザイン学科においてアントレプレナーシップ講座を開設。さらに、国際的な講演者として2011年に最初のスタートアップ・バス・ヨーロッパ・ツアーを主催するとともに、過去6年にわたってロックスタート・アクセラレーターの主席メンターを務める。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます