1886年にガソリン四輪乗用車が誕生してから130年以上が経ち、今や輸送・交通手段として生活に欠かせないインフラとなっている。「空飛ぶクルマ」の登場は、そのさらなる大変革になるかもしれない。言葉の響きからは、まるでSF映画の『フィフス・エレメント』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で描かれるような近未来の風景が想像される。しかし、決して荒唐無稽な話ではない。すでに経済産業省は2023年の実用化をめどに、ロードマップを策定している。生活や経済に与える影響にはどのようなものが考えられるだろうか。
「空飛ぶクルマ」とは ? どのように役立つのか
「空飛ぶクルマ」とは何か。ここでは人や物資の輸送が可能な、巨大なドローンを想像していただくとわかりやすい。「電動垂直離着陸型無操縦者航空機」、略してeVTOL (イーブイトール) とも呼ばれる。経済産業省が2018年後半に開催した「空の移動革命に向けた官民協議会」の中心に据えた概念だ。
その名のとおり、垂直飛行が可能なため、滑走路は不要。熟練したパイロットの飛行技術もいらない。実現すれば、空の航行が自動車の運転のように身近になる。「自由に空を飛べたら」という夢が現実になるのだ。
空飛ぶクルマには、次のような活用シーンが想定されている。
- 渋滞が起こりやすい都市部などの交通をスムーズにすること
- 離島や山あいの集落など、交通手段が限られる地域において移動や輸送の利便性を向上させること
- 災害時における負傷者の搬送や救援物資を補給すること
都市や地方の交通・輸送を迅速にするだけでなく、移動の範囲を拡大する。さらには人命を救うことにもなるかもしれないのだ。もちろん注目しているのは経済産業省だけではない。空飛ぶクルマの開発に数多くの民間企業が参画している。
ベンチャーから大手までが挑む「空飛ぶクルマ」の実証実験
2019年8月5日、パソコンや通信機器で知られる大手電気メーカーNEC (日本電気) が、その事業内容からすると意外ともいえる動画を公開した。約1分の映像の中には、空飛ぶクルマの実証実験の様子が映っている。主役は4つのプロペラをつけた、人がひとり乗れそうな大きさの曲線的なマシンだ。ゆっくりと3メートルほど宙に浮いている。
NECが開発に携わったのは機体だけではない。この試作機には、自社で制作した飛行制御ソフトウェアや推進装置が搭載されている。交通整理や通信に使われる管理基盤の構築をビジネスにする狙いだ。
この他にも、空飛ぶクルマの実証実験は世界中で行われている。2019年6月の「パリ航空ショー」には、米国ボーイングと欧州エアバスの2大航空機メーカーが試作機を出展した。実験だけでなく、すでに一般消費者向けに予約を受け付けている海外のベンチャー企業もある。規模の大小を問わず、多くの団体がこぞって市場に参入しようとしているのだ。
「空飛ぶクルマ」はどのような産業に影響を与えるのか ?
空飛ぶクルマの開発費用は1機あたり100億円から300億円と見られる。金属加工や自動運転の研究などを手がける企業の中には、このような「特需」の恩恵を受けるところも出てくるだろう。量産化が開始されてからも、部品メーカーや通信会社などの業績にプラス材料となりうる。開発に意欲的な企業を探してみるのも面白い。
実用化後には、自由な空の交通という新しい市場ができるだろう。参入する大手メーカーにとっては、収益構造が変わる可能性がある。広がる新市場の覇権をどこが握るのかは、注目に値する。
空飛ぶクルマが普及して大量生産が可能になれば、1キロあたりの運賃はタクシー並みになると考えられている。自動車にとって代わるとはいわないまでも、魅力的な選択肢だ。デロイトトーマツの試算では、東京・博多間を2時間と、新幹線の半分以下の時間で、値段は同程度になると予想している。都心部においても、電車を乗り継ぐよりも早い移動が可能だ。
移動手段に革命が起きれば、我々の働き方にも影響するかもしれない。例えば普段は離島に住んでリモートワークをしており、必要に応じて都心での会議も日帰りで参加するといった居住や就業の選択肢も広がるだろう。人の流れが変わり、今までは考えられなかった立地に商業施設や物流施設ができる可能性もある。
前述の官民協議会が発表した「空の移動革命に向けたロードマップ」によると、実用化は2023年頃から2030年代にかけて、段階的に行うとしている。まず物の移動からはじめ、次いで地方での人の移動、そして都市部での人の移動と範囲を広げていく。映画や小説で描かれた近未来の世界は、そう遠くないのかもしれない。(提供:大和ネクスト銀行)
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