会社を継ぐ際には相続税などの税金がかかる。事業承継にあたっては、税負担の考慮が必須だ。ここでは会社を継ぐ際の贈与税などの税金に関する詳細や、税負担を減らすための相続時精算課税制度や事業承継税制などについて説明する。会社を継ぐときの税金対策の参考とされたい。
会社を継ぐときに課される相続税の計算方法は?
会社はオーナーの個人財産である。オーナーに相続が発生すると会社は相続財産となって相続税が課される。ここでは、会社を継いだ相続人に課される相続税の計算方法を説明する。
相続税には、税金の総額を先に計算し、それを相続人で按分するという特徴がある。正味の相続財産(=資産-非課税財産-債務控除)から基礎控除額を差し引き、その金額(課税遺産総額)を、民法の法定相続分で分けたと仮定してうえで超過累進税率を適用する。
相続税総額を実際の相続割合で按分して各相続人の負担額が決定されるため、相続税の金額は相続財産の大きさによって決まる。相続財産の評価が大きければ大きいほど、相続税の負担が重くなるのだ。
会社オーナーは、相続税の負担を軽減させる方法、すなわち、会社を継ぐときの相続税の節税対策を検討することとなる。
相続税の負担を軽くする方法とは?
会社を継ぐときの相続税対策の具体的な方法として、相続税の課税対象となる株式の評価額を引き下げることは、今も昔も重要なテーマである。同じ収益性の会社であっても、株式の相続税評価によって税金の負担が変わるため、株式の評価額を下げることで、会社を継ぐときの相続税を軽減できるのだ。
例えば、会社が不動産を所有することが有効な方法の一つである。評価額の高い金融資産を、評価額の小さくなる不動産に組み替えることで、会社の事業価値を維持しながら、会社を継ぐときの株式の相続税評価を下げることが可能となる。
しかし、会社オーナーが株式の保有を続けながら、その評価額だけを引き下げる方法には限界がある。先に考えるべきことは、そもそも相続税の課税対象となる株式を失くしてしまうこと、つまり、相続発生前の段階で株式を贈与によって移転して減らしておくことである。
会社を継ぐときに課される贈与税
会社オーナーが存命のうちに会社を受け継ぐ場合、株式が後継者へ贈与されることになる。その際に課される税金が贈与税である。
贈与には、暦年課税制度と相続時精算課税制度の2つがあるが、ここでは暦年課税制度を理解しよう。
贈与税の詳細と税負担を軽くする方法
贈与税の暦年課税制度(暦年贈与)とは、1年間(暦年)に贈与を受けた金額が基礎控除額である110万円以下なら非課税、110万円を超える贈与を受けた場合には累進税率によって課税される制度である。
贈与税の一般税率は、基礎控除後の課税価格が3,000万年を超えれば55パーセントと高税率である。株式の評価額次第では、多額の贈与税負担が生じてしまうため、会社を継ぐためには会社オーナーの持株のすべてを後継者に移す必要があるものの、多額の暦年贈与はあまり実行されない。
ただ、暦年贈与は、何人でも何度でも使うことできるため、後継者はもちろん後継者ではない子供や親族に対しても贈与することができる。
贈与を受ける人を増やして、複数年度にわたって少しずつ贈与を続けていけば、相続税の負担を軽減することが可能となる。ただし、相続開始前3年以内の相続人等への贈与は、相続税の計算に含まれるので注意が必要である。
いくらか税負担を伴うとしても、相続税よりも税率が低いのであれば、結果的に会社を継ぐための税負担を下げることができる。
また、後継者一人に相続を集約するとしても、贈与税の負担を支払いながら、時間をかけて少しずつ後継者に株式を移転していくことで、会社を継ぐための税負担を軽減させることができるのだ。
暦年贈与による節税対策は、110万円控除の枠内に縛られる必要はない。仮に110万円控除を超えて贈与税を支払う場合であったとしても、贈与税の税率が相続税の税率を下回っているかぎり、贈与税を支払ってでも株式を生前に移転するほうが税負担が軽くなるというわけだ。
会社を継ぐときに株式の贈与を行った事例
例えば、相続税評価額が1株5万円の非上場株式が1,000株あったとしよう。すなわち、発行済み株式100パーセント合計で5,000万円の個人財産である。
子供2人に、毎年20株ずつ暦年贈与していくとすれば「5万円×20株=100万円」となるため110万円控除の範囲内となる。「2人×20株=40株」なので、25年かければ非課税で全株式1,000株を移転することができる。
極端なケースを想定するならば、2人の子供および彼らの配偶者、そして4人の孫、合計8人に対して毎年20株ずつ暦年贈与していくとする。「5万円×20株=100万円」なので基礎控除額の範囲であり、「8人×20株=160株」であるため、たったの7年で1,000株全ての株式移転が完了してしまう。
もちろん、事業承継の原則は後継者に株式を集約することなので、いたずらに株式を分散させることは好ましくない。
生前贈与の注意点は、口約束だけで贈与を行って証拠が何も残っていない場合、生前贈与が否定されてしまう怖れがあることだ。
対策としては、正式な贈与契約書を作成したり、基礎控除額を僅かに超える贈与を行なって贈与税申告をしておくことによって、株式を贈与した証拠を明確に残しておくという方法もある。
相続時精算課税制度とは?
暦年贈与は、長期にわたって計画的に株式の贈与を継続することができれば、税金の負担は大幅に軽減されるため、生前に会社を継ぐために効果的な方法となる。しかし、自社株式の評価額が将来的に上昇する見込みがある場合は、暦年贈与の効果継続にも限界がある。株式評価額が上昇すればするほど、課される贈与税が増加していくからだ。
暦年贈与の効果が期待できない場合には、相続時精算課税制度による贈与を利用して、株式評価額の低いうちに、後継者に対して一気に自社株式を移転してしまうことが効果的な方法となる。相続時精算課税制度とは、60歳以上の親から20歳以上の子供または孫への贈与に限り、2,500万円までは贈与税がかからないという制度である。
ただし、2,500万円を超える部分については20パーセントの贈与税が課税され、その贈与者が亡くなった場合には、贈与資産の贈与時の価額と相続財産の価額を合算して、相続税として精算することになる。なお、納付した贈与税額については、相続税額から控除される。
相続時精算課税制度は、税金の負担自体が無くなるわけではない。贈与税負担を軽くする代わりに、相続税負担が発生することとなるのだ。つまり、税金の支払いを先送りする制度なのである。
相続時精算課税制度は選択制である。例えば、父からの贈与については相続時積算課税制度を選択し、母からの贈与には暦年贈与を適用することもできる。ただし、一度選択した場合は中止することはできない。
この制度は、会社を継ぐための事業承継に活用されることが多い。親の株式を子供の世代に円滑に承継させるための制度なのである。
生前に会社を継ぐ時に相続時精算課税制度が有効とされる理由
相続時精算課税制度では、生前贈与の対象となる自社株式であれば、その株価を贈与時の評価額に固定されるため、株価上昇時には、税負担の増加を贈与時の水準に止めることができる。
相続発生後には贈与時点での相続税評価額がプラスされるので、贈与時から相続発生時の間に評価額が上がったとしても、相続財産に加算される金額が相続時の株式評価額ではなく贈与時の評価額になるということだ。
つまり、会社を継ぐために株式を贈与した後の株式評価額の上昇は、相続税額に影響しないのである。これが、相続時精算課税制度の最も大きなメリットといえよう。
相続時精算課税の適用を決めた場合、贈与を行うタイミングにおいて株式評価額を引下げる。例えば、類似業種比準価額を適用できる場合であれば、直前期に赤字の決算を行って株式評価額を引下げた上で生前贈与を実行するとよい。
また、企業オーナーが社長から引退する事業年度に多額の退職金を支払い、その費用計上によって一時的に株価を引き下げたうえで、株式をまとめて贈与する方法もある。
会社オーナーが所有する個人財産のなかでも、自社株式は価値上昇が起こりやすく、最も大きな税負担をもたらす可能性がある。会社を継ぐ際には、株式の生前贈与を受けることが税負担を軽減する方法として有効となる。
これに加えて、株式を生前贈与することによって、株式から発生するキャッシュ・フローまでも後継者に移転させることができる。つまり、配当金を子供や孫の世代に対して支払うことによって、会社オーナーの個人財産を早期に次世代へ受け継がせることができるのだ。
現物の自社株式に加えて、派生的に発生する個人財産や将来のキャッシュ・フローをまとめて贈与することできる。これは、会社を継ぐための税金負担を軽減させるだけでなく、子供や孫に相続税の納税資金を準備させる対策としても有効である。
暦年課税と相続時精算課税の比較検討
暦年課税と相続時精算課税の最大の違いは、暦年贈与が死ぬまで生前贈与を続けることができるのに対して、相続時精算課税は2,500万円の非課税枠までしか使えないという点である。
相続時精算課税によって負担する当面の税金は暦年課税よりも軽くなるが、会社オーナーは相続発生時に相続税を支払わなくてはならない。すなわち、相続時精算課税制度を利用した生前贈与を行った場合であっても、相続のときには贈与した財産も相続財産に含めなければならない。
生前贈与の際に支払った贈与税は、相続のときの相続税から控除することができるので、税金を二重に支払うようなことはないが、注意すべき点がある。
暦年贈与は、非課税枠が「受贈者」が贈与を受ける資産が1年間で110万円という制約があるのに対して、相続時精算課税は、「贈与者」が贈与を行う資産がそれぞれ2,500万円までという制約がある。
例えば、父と母がそれぞれ2,500万円を相続時精算課税で贈与する場合、会社を継いだ一人の子供に合計5,000万円の資産が非課税で移転されることになる。
しかし、暦年贈与で父と母がそれぞれ110万円ずつ贈与しても、会社を継いだ一人の子供に合計220万円の基礎控除が与えられるわけではない。あくまでも受贈者には1人当たり110万円の非課税枠しか与えられない。
以上をまとめる、相続時精算課税制度は、会社の株式の先渡し・税金の後払い制度だといえよう。相続税対策と納税資金対策に大きな効果を享受できる制度ではあるが、贈与に伴う2,500万円の控除額は贈与税の非課税枠ではなく、生前に資産を早期移転できる特別な控除額にしかすぎない点には注意しておくべきだろう。
会社を継ぐ時の税金がゼロになる「事業承継税制」とは?
事業承継税制とは、中小企業経営承継円滑化法に規定される非上場株式に係る贈与税・相続税の納税猶予制度のことをいう。会社オーナーが相続発生時まで自社株式を持ち続けることは少なく、生前贈与することが一般的であるため、通常は贈与税の納税猶予制度が適用される。
事業承継税制を適用すれば、会社オーナーが会社を継ぐ後継者に対して贈与した非上場株式に係る贈与税の100パーセント相当額の納税が猶予される。
会社オーナーが死亡した際には、相続税の納税猶予制度の適用に切り替えられるため、その自社株式の贈与時の価額で相続財産に加算して相続税が計算される。ただし、相続開始の時点において事業承継税制を適用する義務はなく、適用を止めて相続税を支払っても構わない。
この事業承継税制はやや複雑ではあるが、会社を継ぐ後継者の贈与税および相続税がゼロになる点が最大のメリットである。
先代経営者である会社オーナーの相続時には、相続時精算課税制度と同じく、贈与された自社株式にも相続税が課されることになるが、相続税の納税猶予制度を利用すれば税金を支払う必要はない。
つまり、贈与税の納税猶予制度と相続税の納税猶予制度の適用を繰り返すことにより、自社株式に係る贈与税および相続税をゼロとすることが可能となる。
事業承継税制の適用に係る注意点とは
事業承継税制の適用を受けるには、経済産業大臣の認定を受けた後、5年間は雇用確保などの事業継続要件を満たさなければならない。要件を満たした後も、基本的に後継者が株式を保有し続けなければならない。
また、後継者が自社株式を第三者に売却する場合には、贈与税の納付が必要になるだけでなく、利子税もかかってくる。将来的にM&Aによる会社売却を行う場合には、猶予されていた税金の負担が発生するということだ。
ただし、2015年および2018年に二度にわたって事業承継税制の適用要件が緩和され、使いやすい制度に変更された。
雇用の8割以上を5年間毎年維持しなければならないという要件は、5年間平均でよいこととされた。要件の緩和によって、景況が悪化して企業経営に窮した際にはリストラの実施が可能となるだろう。
また、先代経営者である会社オーナーが株式を贈与する際に、「役員を退任しなければならない」とされていた点が、「代表権を有していなければよい」と変更され、継続して役員として残ることが可能となった。これにより、後継者をサポートするために先代経営者が経営に従事することも可能となった。
相続税の納税猶予制度の適用を受けた後は、会社を継いだ後継者が経営を続けなければいけない。M&Aで会社を売却したり、社長職を辞職すれば、納税猶予措置が取消となって猶予されていた税金を支払わなければいけない。
承継した会社を次の後継者に会社を継ぐことができれば、その時点において納税猶予されていた税金は免除される。100億円の企業でも税金はゼロだ。ぜひ事業承継税制の適用を検討していただきたい。(提供:THE OWNER)
文・古尾谷 裕昭(税理士)