(本記事は、梅澤伸嘉氏・西野博道氏の著書「2年で10億円を突破! 5年で100億円を超える 『100億マニュアル』」日本経営合理化協会出版局の中から一部を抜粋・編集しています)
表現コンセプト【商品名】
次に、商品名を考えます。
商品名を考えるときのポイントは、顧客ターゲットを強く意識しながら、次の5つのことを考慮して決めてください。
- カテゴリーを連想できる
- 商標権がとれる
- 心に残りやすい
- ブランドを拡張できる
- 多国語に適用しやすい
この5つの中でも、とりわけ重要なのが、1の「カテゴリーを連想できる」という条件です。
なぜ、とりわけ重要かは、「カビキラー」の例でお話しましょう。
「カビキラー」は1982年に発売し、現在も「カビ取り剤」でシェアNo.1を維持しています。
ですから、お風呂の掃除をする人が「カビ取り剤が欲しい」と思ったときに真っ先に思い浮かべる商品名が「カビキラー」です。
つまり、「カビキラー」は、「カビ取り剤」というカテゴリーの代名詞となっているのです。
一般に、商品がヒットすると、後発品が参入してきて、さまざまなブランドが乱立するようになります。しかし後発品で入り乱れる状況となる前に、そのカテゴリーの代名詞となっていれば、その商品はシェアNo.1の座を奪われることなく、ロングセラーとなることが経験上わかっています。
そのため、いちはやくカテゴリーの代名詞となるように、商品名はできるだけカテゴリーを連想しやすいものにすることが秘訣なのです。
先に述べたように、商品がカテゴリーの代名詞となるまでは、パッケージや広告に新カテゴリー名を大きく記載し、商品名は小さくデザインするようにします。
このことは、商品名がカテゴリーの代名詞となるまでは、商品名には価値がないことを意味しています。商品名が価値をもつのは、カテゴリーの代名詞になる過程においてです。
ちなみに、「トイレその後に」や「塗るつけまつげ」「明治おいしい牛乳」などは、「商品名」が「新カテゴリー名」を兼ねています。
なぜ兼用が可能かといえば、「新カテゴリー名」としての3つの条件を備えているうえに、商品名に必須の「カテゴリーを連想できるもの」という条件を兼ね備えているからです。
次に、商品のキャッチコピーをつくります。
梅澤式キャッチコピーは、「ユニークで売り込みのきく主張」を元にしてつくります。
つくるにあたっては、梅澤式「聴覚メッセージング法」を使っていただきます。
「聴覚メッセージング法」は俳句をつくる要領とほぼ同じです。
ご承知のとおり、俳句は5・7・5の17音でつくる最も短い詩です。なぜ、キャッチコピーをつくるときに俳句を使うかといえば、キャッチコピーを視覚情報だけでなく聴覚情報にも残るようにするためです。
その理由を詳しくお話しましょう。
日本には、古来から5音と7音でつくる詩の文化があって、日本人にとって、5音と7音の音韻リズムがもっとも心地よく記憶にとどまります。
それは下図を見れば、理屈抜きで納得していただけると思います。
上図は、標語や企業のキャッチフレーズを列記したものです。古いものでは60年以上前のものもあります。ご覧になって、いくつ記憶に残っているでしょうか?
50歳以上の方であれば、ほとんどすべて、出だしのフレーズを見ただけで、うしろに続くフレーズが頭の中に浮かんできたのではないでしょうか。
じつは、記憶に長く残るキャッチフレーズや標語は、5音と7音でつくられたものがとても多いのです。
なぜ5音と7音のリズムが、日本人に心地よく記憶にとどまるかについては諸説ありますが、科学的にわかっていることは、視覚から得た情報と聴覚から得た情報では、脳の中での記憶方式が違っていて、音で聴いて記憶したほうが、視覚からよりも長く記憶にとどまるということです。
ですからキャッチコピーもできるだけ5音と7音でつくり、聴覚情報として長く記憶に残るようにするためにいったん俳句の形にする、というのが梅澤式「聴覚メッセージング法」です。
私(梅澤)自身もキャッチコピーの良し悪しを判断するときには、必ず目を閉じ耳だけで聴いてみて、必要なことが伝わるか、記憶に残るかをチェックするようにしています。
下図は、私がつくった梅澤式キャッチコピーです。
ご覧のとおり、多くが5音と7音でできています。
「禁煙パイポ」や「カビキラー」は、商品名も5音と7音になっています。
梅澤式「聴覚メッセージング法」では、「ユニークで売り込みのきく主張」を、まず5・7・5の俳句の形にしてみます。
俳句をつくるには、17音という短い言葉の中で、いかに商品の良さを表わし、そこに顧客に訴求する感情をいかに盛り込むかという、ギリギリの表現が求められます。
そしてその俳句の形にしたものを、さらに思い切りよく短く鋭い言葉にして、梅澤式キャッチコピーをつくります。これが梅澤式「聴覚メッセージング法」です。
ちなみに俳句には、たとえば「トニックシャンプー」の中の小さな「ッ」や「ー(長音)」はそれだけで1音として数えるとか、小さな「ャュョ」「ァィゥェォ」は前の字と合わせて1音と数えるなど、細かいルールがありますが、細かいルールに神経を使いすぎる必要はありません。では、梅澤式キャッチコピーをつくるための「聴覚メッセージング法」の手順を解説しましょう。
- 【梅澤式聴覚メッセージング法 手順1】
- 社内のメンバーで、「ユニークで売り込みのきく主張」を頭に入れて、俳句を1人4~5個つくって、ポストイットに記入します。たとえば、カビキラーの「ユニークで売り込みのきく主張」は、「こすらずにカビを根こそぎできる」です。これを俳句の形にしたものが「こすらずにカビを根こそぎカビキラー」です。このように俳句の中に商品名を入れてもいいですし、入れなくてもいいです。
- 【梅澤式聴覚メッセージング法 手順2】
- 全員のポストイットを壁に貼り、メンバーで俳句を味わいます。味わうときに、視覚だけでなく、声を出して音のリズムを味わってみます。 そのうえで、「われわれが訴えたいポイントは何だろう」「ターゲットに響く言葉は何だろう」という2点について話し合い、良い言葉に印をつけながら、候補を絞っていきます。
- 【梅澤式聴覚メッセージング法 手順3】
- 絞った候補の俳句のニュアンスを思い切りよく短く鋭い言葉にしてキャッチコピーをつくり、10個以内に候補(なるべく種類の異なるもの)を絞ります。このとき新語を発明できれば、より魅力的なキャッチコピーができます。たとえば、空腹感解消ビスケットの「ぐーぴたっ」は、「ぐーっとなる 私のお腹 ぴたっとね」という俳句から、「お腹のぐーをぴたっ」というユニークなキャッチコピーができました。
- 【梅澤式聴覚メッセージング法 手順4】
- 全メンバーで、絞られた候補を評価チェックリストを使って評価し、候補が縛られた段階で、「なぜ我々は、この候補に◎印をつけたのか」を議論して、最終候補を絞ります。
では、これらの手順を漫画で見ていただきましょう。
以上、漫画で梅澤式「聴覚メッセージング法」の手順をお伝えしました。
ところで、漫画の中にも出てきた、梅澤式キャッチコピーを評価するチェックリストが、下図です。
ご覧のとおり、チェックリストは、全部で質問が9個あります。
①から⑧までの質問には、◎、?、×のどれかで評価します。
最後の⑨の質問に対しては、自由に意見を書いてもらいます。
メンバー全員のチェックが終わりましたら、それらを集めて集計します。
基本的に、◎印の多いものを選びますが、質問の②と④の評価が良いことが条件となります。⑨のオープンアンサーの答えは、候補をさらに絞り込むときの参考にします。
ところで、なぜ質問の②と④の評価が良いことが条件となるのかについては、下図で示すとおり、梅澤式キャッチコピーは、商品がどう良いかを示す「ユニークで売り込みのきく主張」をキャッチコピー化したものであり、さらにその「ユニークで売り込みのきく主張」は、商品コンセプトの「顧客に与える効用・便益」を元につくっているからです。
商品コンセプトとの一貫性が重要なので、質問の②と④の評価が良いことが条件なのです。
一般に、広告代理店に依頼して商品のキャッチコピーをつくってもらうと、先ほどのチェックリストの③、⑦、⑧の評価が高くなり、②と④の評価が低くなるケースが多いです。
広告代理店は、顧客の興味を引くだけのキャッチコピーをつくる場合が多いので注意が必要です。
また梅澤式キャッチコピーのフレーズが長い場合は、1行でパッケージや広告紙面にデザインできないこともあります。
その際は、最終的に絞った1つの梅澤式キャッチコピーのフレーズの中で、どの言葉を優先させるかを考えてください。
実際にはこれらのプロセスを経て、最終の梅澤式キャッチコピーが決まる場合もあれば決まらない場合もあります。メンバー全員で「これしかない!」と確信できればいいのですが、意見が分かれた場合は、さらに発売ギリギリまで詰めることになります。この粘(ねば)りが大切です。
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