2020年初頭に起きた「米国とイランの軍事的衝突」と「新型コロナウィルスの流行」は世界の株式市場に大きな影響を与えています。しかし株式市場が低迷する一方で、金が1980年以来の高値圏を付け、不動産価格もほとんど影響を受けていないようです。世界的リスクオフに向かっている状況下でもなぜ金や不動産は強い値動きを見せるのでしょうか。
本記事ではリスクオフの状況下における現物資産の優位性について検証します。
地政学リスクで世界の株式市場が低迷
まず2020年1~2月に起こった地政学リスクを振り返ってみましょう。
2020年1月2日、米国がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官をドローンによる攻撃で殺害し、中東の軍事的緊張が一気に高まりました。同年1月4日にはイラクの米国大使館がある首都バグダッドのグリーンゾーンと米軍駐留のバラド空軍基地にロケット弾を撃ち込み、1月8日にはイラクにある米軍駐留基地2ヵ所を報復攻撃し両国は一触即発の状態となります。
日本では2020年1月6日に大発会を迎えた東京株式市場は大きく反応し、日経平均株価が451円76銭安と急落、さらに翌々日も370円96銭安を記録。緊迫した状況が予想されましたが、イランの攻撃が事前予告の茶番劇だったことで米国とイランの対立が収まり安堵感へと変わりました。しかし安堵感もつかのま2019年12月ごろから中国の武漢市から発生したといわれる新型コロナウィルスが世界中で猛威をふるいます。
2020年1~3月にかけて新型コロナウィルスの感染者はまたたく間に増加し、2020年2月末からはウィルスの猛威が経済活動に大幅な影響を促すことが懸念され、一気にリスクオフムードとなり世界的な株価の大暴落の連鎖へつながりました。
ニューヨーク株式市場ではダウ平均株価が2020年2月27日に1,190米ドル95セント安と史上最大の下げ幅を記録します。これを受けた東京株式市場も同年2月28日に805円27銭安と急落したことで株式のリスクの高さが改めて意識される結果となりました。
ではこれらの地政学リスクに対し現物資産の金と不動産がどのような動きを見せたかにのでしょうか。
金が1980年以来の高値圏
金は世界的にリスクオフの流れが強まる中、頑強な動きを見せました。田中貴金属工業の税抜き参考小売価格で見るとこれまでに付けた最高値は1980年の1グラム6,495円でしたが、新型コロナウィルスの拡大が世界に広がりつつあった2020年2月25日に6,484円を付け実に40年ぶりの高値圏まで買い進まれたのです。
金は米イランが一触即発の状態になったときも買われており、かつて「有事の金」といわれた現物資産としての強みを遺憾なく発揮しています。また無金利資産の金にとっては、世界的金融緩和で超低金利が続いていることも追い風となっているようです。
大都市圏の不動産は高値で安定
もう一つの現物資産の不動産はどうでしょうか。一般社団法人不動産協会が発表した大都市圏の不動産価格で見ると2020年1月の首都圏分譲マンション平均坪単価は426万7,000円で前年比+30.5%の大幅な伸びとなりました。近畿圏も222万2,000円で前年比+3.5%、中部圏も202万6,000円で前年比+18.2%と大都市圏のマンション坪単価は高値で安定しています。
一方、東京カンテイが発表した賃貸の家賃相場では、首都圏は東京都、埼玉県の築浅事例が減少したことから前月比-2.1%と小幅に下落。しかし東京23区に限れば+0.3%と安定した数字で推移しました。このように大都市圏の不動産は1~2月の世界的株安の局面でもほとんど影響を受けていないといえるでしょう。
株式投資では1日で大暴落する大きなリスクがありますが、不動産は地政学リスクが起こったからといっていきなり家賃が下がるわけではありません。不動産が「安全資産」といわれるのはこのような理由によるところが大きいといえるでしょう。
リスクオフでは現物資産が有利な理由
リスクオフの状況下ではなぜ現物資産が有利なのでしょうか。有事の際にリセッション(景気後退)が起これば企業倒産のリスクが高まりますが、現物資産である金には倒産や破たんの恐れはありません。さらに金には発行体が存在しないため、新興国などで財政破たんがあった場合でも市場価格で売却できるという安心感があります。これが株式や債券との大きな違いです。
逆に現物不動産は株式や金のような取引市場がないため、日々の価格が変動するリスクがありません。不動産投資の基本は、購入したマンションを貸し付けて安定した家賃収入を得ることです。そのため好立地の物件を選んでいる限りは、需要が衰えるリスクは少ないといえるでしょう。
ここでは2020年1~2月に起きた世界的なリスクオフの状況を振り返ってみましたが、現物資産の金と不動産を手元に保有していることは精神的な安定感につながるでしょう。もし株式や債券、投資信託などに資産が偏っている場合は、この機会にリスクオフ時の対策としてポートフォリオを見直してみるのも投資戦略のうえでは有効といえるのではないでしょうか。(提供:Incomepress )
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