自分の「好き嫌い」が知識の軸となる
ほとんどの人は、アウトプットというゴールを持たずに本などの情報に接する機会のほうが多いだろう。ただ、自分なりの仮説や見解を携えて本に向かったほうが、インプットの効率も上がるという。
「良いインプットは、『知識7割、経験3割』だと思います。書かれたことをただ頭に入れるのではなく、自分の経験や感覚と照らし合わせて読むことが、理解を深めます」
そうした感覚を持つには、日頃からあらゆる事象に対し、自分なりの見解を持っておくことが欠かせない。いわば「自分の軸」を作っておくということだ。
「難しそうに思えるかもしれませんが、決してそんなことはありません。そのためにはまず、自分自身の『好き嫌い』の感情に敏感になることです。食べ物、小説、人物など、誰しも好みがあると思います。では、なぜ自分はそれが好きで、これは嫌いなのか、その理由を考えてみるのです。『なぜか好き』『なぜか嫌い』のままで放置しない、ということですね」
なぜか気になるニュースなども、自分の軸を見つける良いきっかけになるという。
「気になるニュースについて、友人やパートナーなど、身近な人と話し合ってみるのもお勧めです。こうして好き嫌いの理由を明らかにしていくと、一定の法則性が見つかるはず。それがその人の軸になります」
軸が明確になればなるほど、インプットも楽になる。
「ここが自分の軸だとわかれば、読書の際にも関心の濃淡に合わせ、ある部分は精読し、ある部分は流して読んだりと、緩急がつけられます。軸がなければ、全編『べったり』読むことになるため時間もかかり、効率も悪くなります。軸がある人ほど、知識を効率的に頭に入れていくことができるのです」
つい「イラッとする」相手の話を聞いてみよう
一方で、好みや関心のみに基づく情報収集は、偏った価値観へと流されてしまう危険も伴う。山口氏はそれを避けるため、「自分と意見の合わない人の話」を重視しているという。
「話を聞いていて、どうしても自分には理解できない意見を言う方がいます。ただ、そのときに『この人は私と違う』とシャットアウトするのではなく、『なぜそう考えるのか、この人の眼から見てみよう』と想像するようにしているのです」
とはいえ、なかなか心穏やかでいるのが難しい場面もある。
「『この人、何言ってるんだろう!?』といらだったり怒ったり、それは仕方のないことです。こういう場合のコミュニケーションのコツは、『なぜ』を聞いていくこと。なぜそう考えるのかの理由を根気よく聞き出していくと、ある時点で、賛成はできないにせよ、『なるほど、だからそう思うのか』という理解や発見にたどり着きます。そして『つまり、こういうことなのですね』とこちらが理解したことを伝えると、相手も態度を軟化してくれます」
人からのインプットは「広さ」より「深さ」
本だけでなく、人から得られる情報も、もちろん大事だ。だが、その情報源は「広く浅く」よりも、「狭く深く」のほうがいいという。
「私も以前は情報を得るためには人脈を広げるべきだと考え、苦手な異業種交流会や立食パーティに頑張って参加していたこともありますが、正直、あまり意味はなかったと感じます。何人もの初対面の方々と接したところで、しょせん、深い話はできないからです。
私の交友関係は決して広いわけではありませんが、財務省時代の親しい先輩や友人など、信頼できる人たちとはしばしば会い、意見交換や情報交換をするようにしています。そこから得られる情報や指摘のほうが、ずっと役に立っています。
アメリカに住んでいる友人とは、しばしばメールで情報交換をしていますが、いつも示唆に富んだ見解や指摘に刺激を受けます。信頼できる相手なら、必ずしも会って話さなくてもいいと思います」
では、相手を信頼できるかどうかの基準は、どこに置いているのだろうか。
「基本は直感ですが、客観的な事実や知識だけでなく、そこに自身の経験や見解を交えて語る人は信頼できると感じます。その人が単に知識を出し入れしているだけではなく、自らの軸を持って咀嚼したということ──つまり、真の意味でのインプットを経ている証だからです」
(「THE21」2019年10月号掲載インタビューより 取材・構成:林加愛 写真撮影:長谷川博一)
思い通りに伝わるアウトプット術
山口真由(ニューヨーク州弁護士) 発売日: 2020年02月18日
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