マンション経営においては、毎月の家賃収入によってローンの返済をまかなうのが一般的です。しかし、将来のことを考えると、なるべく早くローンを返したくなるのも心情でしょう。繰り上げ返済にはメリット・デメリットがあります。そこで本稿では、マンション経営において、繰り上げ返済をするべきなのかどうか、シミュレーションの結果を紹介しながら判断のポイントを解説します。
1.繰り上げ返済の種類と効果
ローンの繰り上げ返済には、その全額を返済する方法と、一部の元金だけを返済する方法があります。
ここでは一部の元金だけを返済する「一部繰り上げ返済」の効果について考えます。一部繰り上げ返済には、下記の2種類があります。
期間短縮型 | 返済額軽減型 |
---|---|
繰り上げ後の返済期間を短縮 | 返済期間は変わらず毎月のローンの負担を減らす |
期間短縮型は、繰り上げ後の返済期間を短くする方式です。返済額軽減型は、返済期間はそのままに毎月のローン返済額の負担を減らす方式です。
2.繰り上げ返済をシミュレーション
同じ額を繰り上げ返済したとしても、それぞれの方式によって効果が異なります。
例えば、借入額2,000万円・金利2%・返済期間30年のローンを3年後に100万円・150万円・200万円の3つのケースで一部繰り上げ返済したとして、2つの方式の効果を比べてみましょう。
当初の借入額
借入額:2,000万円
金利:2%・元利均等返済
返済期間:30年
毎月の返済額:73,923円
繰り上げ返済前(3年0ヵ月目)の状況
元金残高:1,849万5,317円
残り返済期間:27年0ヵ月
2-1.100万円を繰り上げ返済した場合のシミュレーション結果
3年0ヵ月後に、100万円を一部繰り上げ返済した場合、毎月返済額、残り返済期間、減少する利息額は「期間短縮型」「返済額軽減型」に分けると以下のようになります。
期間短縮型 | 返済額軽減型 | |
---|---|---|
毎月返済額 | 73,923円(変化なし) | 69,917円(減少) |
残り返済期間 | 25年2ヵ月(22ヵ月短縮される) | 27年0ヵ月(変化なし) |
減少する利息額 | 681,541円(大きい) | 294,043円(小さい) |
返済額軽減型は毎月の支払いが4,006円減少しますが、減少する利息額は期間短縮型よりも38万7,498円少なくなり損をします。期間短縮型は返済回数が22回減り、利息額が約68万円減少します。
2-2.150万円を繰り上げ返済した場合のシミュレーション結果
次に、150万円を一部繰り上げ返済した場合は以下のようになります。
期間短縮型 | 返済額軽減型 | |
---|---|---|
毎月返済額 | 73,923円(変化なし) | 67,914円(減少) |
残り返済期間 | 24年3ヵ月(33ヵ月短縮される) | 27年0ヵ月(変化なし) |
減少する利息額 | 999,022円(大きい) | 441,067円(小さい) |
返済額軽減型は毎月の支払いが6,009円減少しますが、減少する利息額は期間短縮型よりも55万7,955円少なくなり損をします。期間短縮型は返済回数が33回減り、利息額が約100万円減少します。
2-3.200万円を繰り上げ返済した場合のシミュレーション結果
そして、200万円を一部繰り上げ返済した場合は以下のようになります。
期間短縮型 | 返済額軽減型 | |
---|---|---|
毎月返済額 | 73,923円(変化なし) | 65,911円(減少) |
残り返済期間 | 23年4ヵ月(44ヵ月短縮される) | 27年0ヵ月(変化なし) |
減少する利息額 | 1,301,708円(大きい) | 58万8,083円(小さい) |
返済額軽減型は毎月の支払いが8,012円減少しますが、減少する利息額は期間短縮型よりも71万3,625円少なくなり損をします。期間短縮型は返済回数が44回減り、利息額が約130万円減少します。
シミュレーションの結果を見て、どのようなことがいえるでしょうか。返済額軽減型は200万円繰り上げ返済したとしても月々の支払額は8,000円程度しか減少しません。
やはり返済期間を短縮して支払利息を多く減らしたほうがメリットは大きいでしょう。
ただし、月々の収支がぎりぎりで返済額を減らすことで黒字を確保できるということであれば、返済額軽減型を選択する意味もあります。
どちらの返済方法を選択するかは状況を見ながら判断するとよいでしょう。
3.繰り上げ返済のメリット
ローンを繰り上げ返済する目的は返済額を減らしたいということにほかなりません。しかし、返済方法にも種類があり、それぞれメリットが異なります。事情に合わせて有利な方法を選ぶようにしましょう。
2.返済額軽減型は毎月の返済額が減少する
3.返済期間の短縮は金利上昇のリスクを避けられる
4.返済額軽減型ならキャッシュフローを生む効果がある
3-1.期間短縮型は返済期間が短縮される
100万円を繰り上げ返済する場合のシミュレーションでは、期間短縮型では残りの返済期間が27年から25年2ヵ月に短縮されました。その結果、総返済額は約68万円減少することになりました。
3-2.返済額軽減型は毎月の返済額が減少する
一方、同じく100万円を繰り上げ返済した場合、返済額軽減型では、返済期間は同じですが、毎月の返済額が約7.4万円から約7万円に減り、総返済額は約29万円減少することになりました。
このように、同じ金額を一部繰り上げ返済したとき、期間短縮型を選んだ場合には、返済期間が短くなり、総返済額を大きく減らすことができるというメリットがあります。
3-3.返済期間の短縮は金利上昇のリスクを避けられる
返済期間が短ければ、それだけ金利上昇リスクにさらされる心配もなくなるので、精神的な負担を軽減できるというメリットも生じるでしょう。
さらに、返済期間が短くなれば出口戦略(売却)のスタートも早くなることにつながります。
3-4.返済額軽減型ならキャッシュフローを生む効果がある
一方、返済額軽減型を選んだ場合には、毎月の返済負担を減らせるというメリットがあります。毎月の返済額が少なくなるということは、その分だけ収入が増えることを意味します。
家賃収入が一定額で変わらないとするならば、一部繰り上げ返済によりキャッシュフローが改善されることで、現金がより早く貯まるようになるわけです。
繰り上げ返済で毎月浮いたお金を積立投資に回して利息収入を得ることも可能になります。
手持ち資金に余裕がある際は繰り上げ返済にあてるのも一つの手です。 繰り上げ返済はトータルでのコストを抑える方法として効果的ですが、無理のない範囲で行うことが大切です。
4.繰り上げ返済のデメリット
繰り上げ返済は、良いことづくめのようですが、デメリットがないわけではありません。
一時的に手持ちの現金が減るなど、以下のようなデメリットが考えられるので、プラスマイナス両面を比較して慎重に判断する必要があります。
2.繰り上げ返済に手数料がかかる
3.金融機関の審査で不利になる
4.団信の効果を減少させてしまう
4-1.手持ち資金が少なくなる
1つは、繰り上げ返済することで手持ち資金が少なくなることです。
10万円程度繰り上げ返済してもあまり効果はないので、最低でも100万円以上は返済することになります。
しかし、マンション経営では急な修繕やその他の費用が発生することがあります。空室期間が生じれば、その間は家賃収入でローンを返済することができなくなります。
手元に300万円があったとしても、すべて繰り上げ返済に回すのは得策ではありません。半分の150万円を繰り上げ返済し、残りは急な出費に備えて残しておいたほうがいいでしょう。
4-2.繰り上げ返済に手数料がかかる場合がある
繰り上げ返済する際に、金融機関によって手数料を支払わなければならない場合があります。手数料は金融機関のローンプランによって異なります。
一部繰り上げ返済の場合は、繰り上げ返済する元金に対して2.00%などの「期限前返済違約金」(料率や名称は金融機関によって異なる)という名目の手数料をとられます。
なかには固定金利を選択している場合は原則繰り上げ返済できない銀行もあるので注意が必要です。
4-3.金融機関の審査で不利になる
繰り上げ返済をして手持ちの現金が少なくなると、次の物件を購入する際に金融機関の融資審査で不利になる場合があります。
金融機関の審査では手持ち現金が多いほうが、評価が高い傾向にあるからです。したがって、繰り上げ返済に回さず次の物件購入の頭金にしたほうが有利になる場合があることも考慮したほうがよいでしょう。
4-4.団信の効果を減少させてしまう
さらに、繰り上げ返済のデメリットといえるのが、団体信用生命保険(団信)の効果を減少させてしまうことです。
賃貸物件用のローンを組む場合、通常は団信に加入することが多いでしょう。団信は一般的な生命保険と比べて、割安な保険料で手厚い保障が得られる商品といえます。
一部繰り上げ返済をするということは、この有利な団信の効果を低減させてしてしまうことを意味します。いつ何時、自分の身に万が一のことが起こらないとも限りません。
もしものときに、家族のためにより多くの資産を残すことを考えるなら、繰り上げ返済をせずに現金を温存しておくほうが得策といえます。
5.繰り上げ返済の見極めポイント
繰り上げ返済は、実行してプラスになるかどうかよく見極めて行う必要があります。以下の4つのポイントについて考えてみましょう。
2.修繕費などの出費に備えて手持ち資金を残す
3.所得税・住民税とのバランスを考える
4.有利な返済方法を選ぶ
5-1.金利で繰り上げ返済を判断する
不動産は高額な商品なので、わずかな金利の差でも返済総額に大きな差が出る場合があります。
複数物件を保有している場合は、金利が高い物件から繰り上げ返済することで、より多く返済利息を減らすことができます。
5-2.修繕費などの出費に備えて手持ち資金を残す
マンションは経年とともに修繕費が発生する可能性が高くなります。したがって、手元にはある程度の費用をストックしておく必要があります。
手持ち資金から予想される修繕費の金額を差し引いた余裕資金で繰り上げ返済するようにしましょう。
また、次の物件を購入する計画がある場合、繰り上げ返済するよりも頭金にして銀行融資を有利な条件にしたほうがよいケースもあります。
5-3.所得税・住民税とのバランスを考える
繰り上げ返済をすると、利息が減る一方で経費に計上できる金額が減り、課税額が増える場合があります。繰り上げ返済は、所得税や住民税とのバランスを考えて行うことが大切です。
5-4.有利な返済方法を選ぶ
ローンの金利には「固定金利」「変動金利」「固定金利期間選択型」があります。
固定金利は、金利が上昇しても借入時の金利が変わらないメリットがある半面、金利が下がっても恩恵を受けることができません。
・変動金利
変動金利は、借入後に金利が低下すると返済額が減少する半面、金利が上昇すると返済額が増えるため、返済計画が不安定になるデメリットがあります。
・固定金利期間選択型
固定金利期間選択型は、固定金利期間中は返済が安定するものの、固定期間終了後に金利が上昇すると返済額が増えるデメリットをあわせ持った返済方法です。
3つのなかで、少しでも有利な返済方法を選ぶようにしましょう。
6.マンション経営の方針や状況によって判断を
今後も事業拡大を進めていこうとしているなら、貯まった現金を繰り上げ返済に使うのではなく、次の物件購入の頭金に充てるほうが賢明な選択といえるでしょう。
逆に、もう買い進める予定はなく、現金の使い道がないのなら、すぐにでも繰り上げ返済したほうがいいでしょう。
期間短縮型を選ぶか、返済額軽減型を選ぶかは、その時々の状況に応じて、あるいは自分のマンション経営の方針に応じて決めるべきといえます。
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講演で不動産投資に関する知識を学べるほか、個別面談で相談すれば経営状況に応じたアドバイスを受けられるので、判断の参考にすることができます。
センチュリー21レイシャス不動産投資セミナー
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(提供:Dear Reicious Online)
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