足元の東京株式市場は一時に比べれば落ち着きを取り戻しているように見受けられます。新型コロナウイルスの感染拡大にピークアウトの兆しが見え、我が国では5/14(木)に39県で緊急事態宣言の解除が、5/21(木)に関西3府県の解除が実現しました。ただ、景気・企業業績はかなり悪化しており、そこからの回復を見通すことは、まだまだ困難であると考えられます。

株式市場では次第に経済再開への期待が高まっていることになりますが、景気実態そのものはまだまだ厳しい状態が続きそうです。上場企業ではレナウン(3606)の民事再生手続きというニュースがありましたが、企業の破綻が続く可能性も小さくありません。そこで今回の「日本株投資戦略」では、実質無借金経営となっており、財務が堅固とみられるにもかかわらず、株価が割安に放置されていると考えられる銘柄をスクリーニングにより、抽出してみました。

実質無借金で、しかも割安感の強い銘柄はコチラ!?

日本株投資戦略
(画像=PIXTA)

それではさっそく、スクリーニングを行ってみたいと思います。スクリーニング条件は以下の通りです。

(1)東証1部上場銘柄であること。
(2)広義の金融を除く業種に属している銘柄であること。
(3)時価総額1千億円以上の銘柄であること。
(4)PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っている銘柄であること。
(5)流動比率が150%を上回っている銘柄であること。
(6)ネットキャッシュ(現預金等から有利子負債等を引いた数値)の時価総額に占める比率が20%以上の銘柄であること。
(7)5月中に決算発表を控えている銘柄でないこと

上記のすべての条件を満たす銘柄を(4)のPBRが低い順に並べたものが表1になります。これらの銘柄は、PBRという側面からみて割安に映っているとの評価ができる上、仮に不況が長引いても耐久力が高い財務堅固な銘柄であると考えられます。

ちなみに、日経平均株価のPBRは5/21(木)現在で1.01倍です。日経平均株価のBPS(1株純資産)は20,204円38銭であり、この日の終値は20,552円31銭で、BPSの1.01倍に買われているという意味になります。PBR1倍割れになると、日経平均株価が「解散価値割れ」という評価になり、割安感が強い状態であると考えられます。

なお、日経平均株価は3/16(月)にPBRで0.82倍まで低下し、3/19(木)に16,552円83銭の安値を示現しました。日経平均株価は、リーマンショックの後遺症に株式市場が苦しむ中で2009年3月に3回、PBR0.81倍の水準まで株価が下落しました。今回の株価下落局面では、PBRがリーマンショック時とほぼ同水準まで低下した所でボトムを打ったとみなすことができます。このように、PBRは企業の純資産と株価を比べて、今の株価が割高なのか、割安なのか、判断する重要な手掛かりになります。

ご存知の通り、現在も発表が続いている3月決算企業の決算発表では、今期(2021年3月期)の業績予想の公表を見送るところが多くなっています。このため、企業の業績予想を重要な参考数値にしている日経平均株価の予想EPS(1株利益)や、予想PER(株価収益率)、予想配当利回りは「異常値」になっているとみられ、投資指標としては参考にしづらくなっています。

本来、予想PERや予想配当利回り、PBR等でみて割安な銘柄を「割安株」と言ったり、「バリュー株」と呼んだりします。しかし、上記したように予想PERや予想配当利回りを、会社予想数値をベースに計算しにくくなっているため、PBRがもつ重要性はいつも以上に大きくなっていると考えられます。

純資産は、総資産から負債を引いて計算されます。会社が持っている土地や工場・営業所、現金、株券等すべての資産を売り払った後に、負債を返済して残った部分が純資産という考え方であり「解散価値」と言われる理由はそこにあり、普通に考えれば「解散価値割れ」であるPBR1倍割れの銘柄は買いチャンスの銘柄であると考えられます。逆に、PBRが大きく1倍を割れている銘柄とは、「解散価値割れ」でもその銘柄を買えない何か悪材料が潜んでいるがために、そのような低水準に放置されていると疑うことができます。

ただ、表1の銘柄は、流動比率やネットキャッシュの比率が高く、信用リスクも非常に低くなっています。投資家がこれらの銘柄に抱いている懸念が杞憂に終われば、将来、「解散価値割れ」の状態を解消すべく、大きく水準訂正される可能性もありそうです。

割安感の強い銘柄
(画像=SBI証券)

表1 逆実質無借金で、しかも割安感の強い銘柄はコチラ!?
コード / 銘柄 / 株価(5/21) / PBR / 流動比率 / ネットキャッシュ比率
<1662> / 石油資源開発 / 2,078 / 0.27 / 596% / 38.1%
<9404> / 日本テレビホールディングス / 1,200 / 0.42 / 273% / 39.2%
<5444> / 大和工業 / 2,165 / 0.43 / 708% / 68.4%
<9401> / 東京放送ホールディングス / 1,660 / 0.49 / 196% / 29.1%
<9409> / テレビ朝日ホールディングス / 1,613 / 0.50 / 244% / 32.5%
<7762> / シチズン時計 / 369 / 0.50 / 331% / 21.6%
<6995> / 東海理化電機製作所 / 1,477 / 0.58 / 196% / 43.8%
<1941> / 中電工 / 2,238 / 0.61 / 213% / 22.9%
<9076> / セイノーホールディングス / 1,347 / 0.65 / 213% / 34.2%
<4547> / キッセイ薬品工業 / 2,486 / 0.67 / 568% / 45.0%

※各社公表データ等およびBloombergデータをもとにSBI証券が作成。純資産や流動資産、流動負債、現金預金、長短借入金等など、ここで用いた財務数値は、2020年3月末の数字になっています。ちなみに、流動資産とネットキャッシュ比率は以下の定義により計算しています。 (1)流動比率・・・・流動資産を流動負債で割った数字を「%」単位で表示しています。 (2)ネットキャッシュ比率・・・・現金預金と有価証券(短期保有)の合計金額から長短借入金(社債を含む)を引いた金額を「ネットキャッシュ」とし、それが時価総額に占める比率を「%」単位で表示しています。

掲載銘柄とその投資ポイント

石油資源開発(1662)は内外で原油・天然ガス等の開発から採掘・販売までを行っています。2020年3月期末の現金預金は1,608億円で、それを含む流動資産全体では2,131億円、それに対し流動負債は357億円となっています。装置産業であり、固定資産は4,141億円と大きく、長期借入金が1,187億円となっています。純資産は4,402億円となっています。

時価総額は1,188億円(5/21)で、純資産4,402億円の0.27倍と計算されます。上記の流動資産を流動負債で割った「流動比率」は596%(5.96倍)です。返済までの期間が短い流動負債に対し、流動性の高い流動資産の比率は高いほど良く、その意味で同社の財務安定性は堅固であると言えます。ネットキャッシュもが正の値を取る銘柄を「実質無借金銘柄」と定義するのであれば、この銘柄もそれに該当すると考えられます。

株価が割安圏に放置されている理由は、米中対立、新型コロナウイルスの感染拡大等で世界経済が大きく打撃を受ける中、WTI先物価格が一時マイナスになるといった波乱もあり、マイナス材料が幾重にも重なったことが大きいと思われます。今後、これらのマイナス材料が次第に後退していけば、割安感が認識され、株価が回復する場面もありそうです。

なお、表1には大手テレビ局が3社も掲載されています。例えば日本テレビ(9404)は流動比率が273%もあることに加え、現金預金と有価証券を合計して1,242億円もあり、有利子負債は27億円に過ぎず、名目的にも無借金企業に近い存在です。

ただ、テレビ局3社は、今後もあるかどうか想像できない程に、現在の収益環境が厳しくなっています。新型コロナウイルスの影響で広告収入の低迷長期化が予想される上、東京五輪開催もいまだ不透明で、大型イベント等の再開までには時間を要するとみられます。ある意味、新型コロナウイルス感染拡大の影響を最も真正面から受けている業種のひとつと言えるかもしれません。新型コロナウイルスからの経済回復が本格化すれば、逆に割安感が評価される可能性があります。

なお、大和工業(5444)は流動比率、ネットキャッシュ比率等、表1の銘柄の中でも高い方ですが、株式の価値は「解散価値」の半分にも達していないという形です。現金預金が1,000億円弱ある一方、有利子負債はゼロで安全度は高い方です。同じ鉄鋼業の日本製鉄(5401)やJFEホールディングス(5411)が前期に巨額の赤字を計上する中で、業界全般の不透明感を嫌気された形になっています。ただ、この会社は業績予想を公表できている数少ない会社のひとつで、過去も毎年着実に利益を積み重ねる堅実な経営となっています。市場が落ち着けば、当社に対する評価が回復しても不思議でないとみられます。

図1 石油資源開発(1662)・日足

石油資源開発(1662)・日足
(画像=当社チャートツールをもとにSBI証券が作成)

図2 大和工業(5444)・日足

大和工業(5444)・日足
(画像=当社チャートツールをもとにSBI証券が作成)

※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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鈴木英之
SBI証券 投資調査部

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