要旨

● 民間エコノミストのGDP予測を集計したJCERのESPフォーキャスト調査では、5月時点では2022年1-3月期時点でもコロナショック前の2019年末の水準に戻らず、+130万人以上の失業者が発生する計算になる。日本のGDPギャップを延長しても、2020年4-6月期時点でリーマン時の最大年換算30兆円超を上回る40兆円以上の需要不足となり、2022年1-3月時点でも20兆円以上の需要不足となる。

● 今回の第二次補正予算は31.9兆円の「真水」もかなり広めにとられた概念であり、景気押上げ効果に関しては、総額から資金繰り対応強化と予備費を除いた10.2兆円である程度の目星をつけることができる。内閣府の最新マクロ計量モデルに基づけば、実際に今回の対策の直接的な実質GDP押上げ効果は1年目が+4.1兆円(GDP比+0.8%)、2年目がそこから+4.1兆円上乗せの累計+8.2兆円(GDP比+1.6%)程度にとどまり、来年度末でも20兆円存在するとされるデフレギャップの半分も埋めきれない。失業に換算すると、1年目に20.8万人、2年目に21.2万人程度上乗せの累計42.0万人程度の失業抑制効果となるが、先に示した2020年の経済落ち込みに伴う130万人以上の失業増の1/3も埋めきれない。

● 米国の緊急経済対策と比較すると、米国ではGDP比1.5%もの医療関連支出が組み込まれているのに対し、日本では第一次補正予算の「感染拡大防止・医療供体制整備・治療薬開発」のGDP比0.3%分を加えても、トータルでGDP比0.8%と米国の半分強しか配分されていない。新しい生活様式の導入等により人の移動が元に戻らなければ、労働需要も元に戻らない可能性があり、雇用調整助成金による雇用の維持だけでは失業者を支えきれない可能性がある。失業増に伴う経済の悪化を最小限に食い止めるためにも、政府は今回の予備費を有効活用して、迅速で大胆な更なるワクチン・治療薬開発や雇用創出に対する追加の対策が求められる。

コロナショック
(画像=PIXTA)

コロナショックに伴う経済へのダメージ

新型コロナウィルスの感染拡大に対応する緊急事態宣言は5月25日に解除になった。しかし、経済活動は7月末までの移行期間中に徐々に緩和されることに加え、8月以降の移行期間後も「新しい生活様式」を余儀なくされるため、ワクチンや特効薬の普及なしに経済活動が短期間でV字回復する可能性は低いだろう。

実際、民間エコノミストのGDP予測を集計したJCERのESPフォーキャスト調査でも、5月時点では2022年1-3月期時点でもコロナショック前の2019年末の水準に戻らないコンセンサスとなっている。そして、より重要な雇用環境に照らしても、民間エコノミストの5月時点でのコンセンサス通りに2020年のGDPが25兆円以上減ることになれば、近年のGDPと失業者数の関係に基づき+130万人以上の失業者が発生する計算になる。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

そこで、民間エコノミストのコンセンサスを基に、日本のGDPギャップを延長すると、2020年4-6月期時点でリーマン時の最大年換算30兆円超を上回る40兆円以上の需要不足となり、2022年1-3月時点でも20兆円以上の需要不足となる。

第一生命経済研究所
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第二次補正予算による直接的な景気下支え効果は限定的

こうした中、政府は事業規模117.1兆円の第二次補正予算を閣議決定した。民間融資の増加等を除く財政支出額で見ても72.7兆円となる。ここから財政投融資等を除いて政府の直接支出となるいわゆる「真水」に絞っても31.9兆円となる。

しかし、今回はこの「真水」もかなり広めにとられた概念であり、直接GDP押上げにつながるとは限らない点には注意が必要だろう。今回の経済対策によるGDP押上げ効果も相当控えめに見ておいた方がいい。

第一生命経済研究所
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事実、資金繰り対応の強化については企業向け融資の利子補給分や資本注入額が計上されているため、GDP押上げに直接効くわけではない。また、予備費については使い道が決まっていないため、追加的な支出につながるか不透明な部分が多い。

このため、景気押上げ効果に関しては、総額から資金繰り対応強化と予備費を除いた10.2兆円である程度の目星をつけることができる。この中で、雇用調整助成金拡充等と低所得ひとり親世帯への追加的給付を合わせた約0.6兆円を家計向けの支援、それ以外の支出が企業向け中心の支援ととらえることができる。このため、ここに家計や企業の限界支出性向を乗じれば、大まかな支出の押し上げ効果を算出することができる。

一方で、内閣府の最新マクロ計量モデルに基づけば、家計向け支援に近い所得減税と企業向け支援に近い法人減税の1~2年目の乗数それぞれは0.23~0.25、0.41~0.84となる。これに基づけば、実際に今回の対策の直接的な実質GDP押上げ効果は1年目が+4.1兆円(GDP比+0.8%)、2年目がそこから+4.1兆円上乗せの累計+8.2兆円(GDP比+1.6%)程度にとどまり、来年度末でも20兆円存在するとされるデフレギャップの半分も埋めきれないと見込まれる。

これを失業に換算すると、1年目に20.8万人、2年目に21.2万人程度上乗せの累計42.0万人程度の失業抑制効果となるが、先に示した通り2020年の経済落ち込みに伴う130万人以上の失業増の1/3も埋めきれないと見込まれる。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

求められるワクチン・特効薬開発と雇用創出

ただし、単純にGDP押上効果が足りないというだけで今回の財政政策が好ましくないという結論にはならないだろう。なぜなら、今回の対策もどちらかというと需要喚起というより保障的な側面が強いメニューとなっているためである。というのも、雇用調整助成金の拡充は雇用維持のため、資金繰り対応や家賃支援は企業倒産の抑制、医療提供体制強化は感染拡大の抑制を目的としているためである。

しかし、米国の緊急経済対策と比較すると、米国ではGDP比1.5%もの医療関連支出が組み込まれているのに対し、日本では第一次補正予算の「感染拡大防止・医療供給体制整備・治療薬開発」のGDP比0.3%分を加えても、トータルでGDP比0.8%と米国の半分強しか配分されておらず、この状況下で生活保障と並んで最も重要な医療関連支出の規模が圧倒的に異なることは変わっていない。

また、新しい生活様式の導入を受けて経済構造の変化を余儀なくされるという面で評価すれば、あくまで予想の域を超えないが、リモート活動の拡大等により人の移動が元に戻ることがなければ、人の移動に伴う労働需要も元に戻らない可能性があり、雇用調整助成金による雇用の維持だけでは失業者を支えきれない可能性がある。

なお、1年間で失業者が110万人以上増加したリーマンショック時の雇用対策には、「雇用調整助成金や中小企業緊急雇用安定助成金」(0.6兆円)以外にも「緊急人材育成・就業支援基金」(0.7兆円)や「ふるさと雇用再生特別交付金」(0.25兆円)「緊急雇用創出事業」(0.45兆円)等、雇用の下支えだけでなく、新たな雇用の創出も図られた。

したがって、失業増に伴う経済の悪化を最小限に食い止めるためにも、政府は今回の予備費を有効活用して、迅速で大胆な更なるワクチン・治療薬開発や雇用創出に対する追加の対策が求められるといえよう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所
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第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣