ZUU onlineでは新連載として特集「プロに聴く、Withコロナでの資産運用」というテーマで金融・経済・不動産などの投資の専門家にインタビューを実施する。第1回は、資産運用会社GCIアセット・マネジメントの山内英貴代表取締役・最高経営責任者(CEO)に6月19日、新型コロナウイルス感染が広がる情勢下での金融市場の動向や運用戦略について聴いた。

山内英貴氏
(画像=山内英貴氏)

中央銀行とは戦うな、短期的には先進国の株などリスク資産に分散投資

GCIアセット・マネジメントの山内英貴氏は、Zoomインタビューで、新型コロナウイルス対策として、各国の政府・中央銀行が大規模な財政出動や金融緩和政策を打ち出したことを受けて、短期的には先進国の株・REIT(不動産投資信託)などリスク資産への分散投資が有望との見方を示した。

今回のコロナショック相場は、長期低迷に陥った米国のITバブル崩壊やリーマンショックに比べ、早期に回復したブラックマンデーの局面よりも早く戻している。こうした背景に、山内氏は、「世界中で中銀が非常に速いスピードで政策を実行した。市場への影響は、実体経済の低迷よりも、金融政策・財政政策の方が効いている」と説明した。

「中銀が積極財政を実質的にファイナンスする場合、通常なら副作用がいずれ出てくるので批判されることが多い。リーマン時は税金を投入して金融機関を救うのはとんでもないという話だった。しかし今回は、敵が金融業界ではなく、人類の共通の敵なので、異論が出ようがない。特殊な環境の中、思い切った政策が矢継ぎ早に出て、市場が反応している」と述べた。

同社は、新興国へは積極的には投資しておらず、主要国・先進国かつ流動性のある市場で、株・債券・為替を中心にした投資姿勢を取る。

同氏は、「コロナバブルといった株がさらに上がる可能性があるという見方もあり、短期的には、そのような展開となっている」と指摘。「奇をてらわないのであれば、先進国の株やREITをオーソドックスに分散して持ち続ける。その中で株のようなリスク資産への配分を自分のリスク選好度合いに応じて調整するのが王道だ。今般の政策発動によって、短期的にはリスクオフ状況が回避され、恐る恐る上値を追い続けるような展開が十分あり得る」と語った。

逆張りが成功への道、アクティブ運用を見直す機会

米国市場でナスダック総合指数は6月10日、終値で10000ポイントの大台に乗せ、過去最高値を更新。その後22、23日にも最高値更新を続けている。ダウ30種平均株価は6月8日、27572ドルと2月24日以来の高値で引けた。米株式相場は、新型コロナウイルス感染拡大が本格化する前の水準に戻しつつある。

山内氏は、新型コロナによる実体経済への影響は、業種や業界によって大きく異なり、アクティブ運用を見直す機会と見る。敢えて不人気な銘柄を選別する逆張りだけでなく、時間や手法による分散投資も選択肢と言う。

同氏は、IT関連やAfterコロナ銘柄に集中している面はあるものの、米国株が史上最高値圏に戻したことに言及し、「アクティブにやろうとすれば逆張りが成功する道だと思う。皆が売っている時に逆の発想をしてみる。皆が手放している銘柄を見直し、逆に皆が飛びついているものは少し疑ってみる」と解説。「Before・After・Withコロナで優勝劣敗が出てくると思う。グローバル化の帰趨(すう)次第でも勝ち負けが明確になってくるだろう」と述べた。

過去十数年、運用業界のトレンドで最も良かったのは、インデックス(指数)運用だったことを挙げ、「コストの安いパッシブ運用が1番良く、アクティブはコストが高くて駄目だった」としながらも、「インデックス運用が米国ではリテール(個人向け)の過半を占めるに至った。今まで少数派だったのが多数派になると、これまで通りにはなかなかうまくいかないと思う。アクティブ運用で有能な運用者のいるファンドを保有し、勉強しながら株を買っても良いと思う。アクティブ運用を少し見直す契機になるのではないか」と述べた。

また、「バフェット氏ではないが、会社を信じて持ち続ける株を見つけられるなら、一定の部分は信頼して、タンスにしまって置く、長期保有型の投資もあると思う」と語った。

航空・宿泊・旅行・観光業界などには慎重

もっとも新型コロナ感染動向の不透明感が根強い中、世界的なロックダウン(都市封鎖)や経済活動の自粛による打撃が深刻だった航空・宿泊・旅行・観光業界などには、引き続き慎重な見方を維持している。

山内氏は、「観光・宿泊・飲食などの業界がなくなる訳ではないし、むしろ応援しなければいけない面もあるが、投資行動は別。今、買いなのかは何とも言えない。特に運輸などの規制業種は、政府からの支援も含め、政策・環境の変化に応じて、大きな影響を受けるので見通しづらい」と述べた。

山内英貴氏
(画像=山内英貴氏)

「エンダウメント型投資」や「ヘッジファンド運用」を活用

GCIアセット・マネジメントでは、米名門大学のハーバード大学やイェール大学が行っている運用方法「エンダウメント型投資戦略」や、絶対収益を狙う「ヘッジファンド戦略」に加え、リスクヘッジなどのサービスを提供している。

資産運用が盛んな米国では、大学で資産運用の研究も盛んだ。また、寄付金を原資に資産運用に取り組む米名門大学では、安定したパフォーマンスを長期で実現しており、こうした基金は「エンダウメント」と呼ばれている。

山内氏は、「機関投資家は、高いリターンよりも、リスクを管理して長期的に安定的に運用する姿勢。投資家という立場から見ると、リスクを意識することが大事。高いリターンを目指すというより、どの程度のリスクを許容できるかということに基づいてポートフォリオを作成している。こうしたことを踏まえ、想定リスクの異なるプロダクトを2つ提供している」と説明した。

金融の世界でリスクは時価の振れ具合い(標準偏差)を指すが、リスクが高めの成長型のプロダクト(年率リスクは8%程度)は、1年に1回、基準価額8%程度の下落が起こることを前提にしているという。同氏は、「今回のコロナショックと似たような下落が起きる場合、数年に一度くらいの頻度で、20―25%程度の時価上の基準価額下落が起こり得ることを前提にポートフォリオを設計している。これを許容できるかどうかが重要で、仮にそうした事態が発生しても、当初想定の範囲内なので淡々と続けましょうという姿勢」と説明した。半面、「もう少し安定的に投資したい方には、年率リスクが5%程度の安定型のプロダクトが適している可能性がある」とも語った。

金融機関は運用難で多様な投資戦略を模索

内外の金利水準が低下し、経済成長率や期待リターンが下がっている中、金融機関も運用難に陥っており、多様な投資戦略を模索している。具体的な手法では、年金基金による流動性の低い資産への投資、金融機関による機動的な国際マルチアセット戦略などを挙げた。

山内氏は、「世界中の投資家が収益機会、リターンの源泉を必死で探しており、特別に美味しいものは残っていない。金利がゼロ%へ下がっているので、バリュエーション次第で株価は安くない状況」と分析。「流動性プレミアムが取れるため、年金などは流動性の低いアセットクラスへ投資対象を広げている。ただ銀行など金融機関は、流動性がある市場で伝統的な投資以外になく、例えばグローバルなマルチアセット戦略などの手法を活用して、投資対象というより投資手法の分散を図っている」と語った。

昨年はレバレッジをかける方法が流行ったことにも触れ、「リテール向けにレバレッジ型バランスファンドが開発され、地方銀行などを通じて一気に数千億円集まった。各期待リターンは低下しているものの、レバレッジを3倍や5.5倍に高めており、市場が落ち着いている限りは、より高いリターンが取れる。リターンを取りたいとなると、よりリスクを取る投資行動になるが、2―3月のようなショックが来た時にはダメージを受けやすい」と述べた。

中長期は財政リスクによる資金の逆回転に要警戒

足元は世界的な財政・金融政策が経済や市場を支えているが、中長期的には市場機能を脆弱(ぜいじゃく)化させるという。景気刺激策からの出口戦略が困難なことに加え、財政リスクにも警鐘を鳴らす。債券・株・通貨など全ての資産が売られる可能性に備え、先物やオプションなどの活用を含めたリスク管理が重要という。

山内氏は、「新型コロナショックは予想外のできごとだったが、もっと長い目で見ると、財政・金融政策が出動している状況は、実はリーマンショック以降、ずっと変わらない。その間、一貫して金利は下がり続けている。中央銀行は前例のない規模で金融緩和を続けてきたところに、今回ウルトラスーパー規模でとどめの一撃が来た」と説明した。

投資は本来、経済が良好で株価が上昇する時、金融は引き締め気味になり、債券は売られる。逆に、景気が悪化し株価が下落する時は、金融緩和により債券が買われる。株と債券を分散してポートフォリオを構築すれば、こうした補完機能が働き、リスクヘッジになって安定することが、20世紀の経済学での常識だ。

しかし同氏は、「過去10年間はこれが機能していない。株・REIT・債券など全てが値上がりする状況が続いてきた。このため財政の持続性などへの警戒感が高まれば、資金フローの逆回転が起きるリスクがある」と懸念を示した。

日本経済新聞によると、金融情報会社リフィニティブのデータを基に世界主要62か国の6月12日時点での10年債利回りを調べたところ48%に相当する30か国が1%未満だった。マイナスが10か国、0%台が20か国。

同氏は、「世界中の国債の金利はマイナスに沈みつつある。財政再建は棚上げで、財政出動で支えている。ただ長い目で見て、3年〜5年を見通した時に、現在の異常な政策をどうやってEXIT(出口戦略)するのか、区切りをつけて次の平常状態に戻っていくのは簡単ではない。予想外の材料が出てきた時に、今の政策を含めて試される可能性は結構あると思う」と語り、短期的には楽観とまでは言わないが、それほど悲観していないものの、中長期的には慎重に構えた方が良いとの見方を示した。

万一に備えた保険として先物・オプションでリスク管理

山内氏は、債券が高くなり過ぎ、金利が下がりきったことを、中長期的な問題として提起し、「今後、コロナ第2波か、新たなショックか、大きな調整が起きる時に、債券はこれ以上買えないところまですでに値上がりした。教科書的には株のマイナスを債券のプラスがある程度相殺してくれるはずだが、今はそれが期待できない。リスクを分散して粛々と運用し続けるための保険が効くものが見当たらなくなっている」と警戒感を示した。

「世界中で財政を吹かしている現状、いずれ米国の1980年代のように双子の赤字など持続性の問題が出てくる可能性が十分あると思う。インフレではないが、ソブリン(国の信用)リスクで債券が売られ、2012年頃の欧州危機のようなことが起きれば、債券が売られて株も売られることになる。分散しているはずなのに、全部売られる。長期分散投資では、過去10 年間の動きの逆回転が最悪のリスク」と述べた。

対応策としては、先物をショート(売り持ち)にするか、プットオプション(売る権利)を買っておくことぐらいしかないと指摘。「米大学エンダウメントを手本に、オルタナティブと言われるヘッジファンド運用を戦略として一部組み入れることで、仮に株・債券など全売りになる場合、ショートポジションやプットオプションが、一定の保険としてリスクヘッジ効果を発揮してくれる」と述べた。

もっとも、「保険料に相当するコストが払い放しになることが問題。そのコストに耐えられず、止めた途端にマーケットが大崩れすることも良くあること。現実の運用では、そのコストをいかに抑制できるかの工夫が重要」とも語った。

長期の資産形成は継続が鍵、パニックになり慌てて解約はNG

最後に資産運用で鍵となるのは継続性という。リスク許容度は投資家ごとに異なるものの、危機が起きて市場が乱高下した時に、投資を止めてしまうことへ否定的な見方を示した。

山内氏は、「最もやってはいけないことは、2―3月の暴落局面に解約して止めてしまうことだと改めて確認した。ぶれずに続けた人は良かったとなり、慌てて売った人は残念な結果になっている。今後も予想外のことが繰り返し来るだろう。だがパニックになり売ってしまうことが、長期の資産形成には、最悪のNG行動」と語った。

GCIアセット・マネジメントのグループ全体の運用資産残高は2020年4月末時点で2746億円(一部は想定元本ベース)。基本的な投資戦略は、先物やETF(上場投資信託)を使ったトップダウン型のマクロ運用だが、運用チームの人間の判断では行わず、運用モデルや予め定めた枠組みに基づいて淡々とシステマティックに長期投資するのが特徴。株の個別銘柄投資(ストックピック)もしない。

山内氏は、「株式運用をアクティブに行う運用会社ではないので、個別銘柄や業種など、いわゆるストックピックはやらない。アクティブ運用といっても、人間がうまくやるのは難しい。もちろん市場は見ているが、どんな天才がやっても永遠に勝ち続けることはない」と説明。「米大学エンダウメントの運用方法を手本にした公募投信は今年9月で丸5年になり、ひとまずトラックレコードで求められる区切り。その間うまくいった部分もあるが、今回のコロナ相場のように低迷した部分もある。ただリスク管理を中心に据えたコンセプトは一定の成果が上がっていると思う。他社があまり取り扱っていない特徴があり、少しずつこつこつと育てて行きたい」と、成長戦略を語った。

山内英貴氏
(画像=山内英貴氏)