新しいことを言うのが当たり前のコミュニティをつくる
尾原: 日本が進化していくために、会社の仕組みを変えることが大事なカギだとしたら、何が最初の着手ポイントになりますか?
冨山: 自分はガバナンス改革をやりましょうと言ってきた。とくにリーダーの決め方が大事です。いわゆるボトムアップ型の昇進プロセスで、ボトムアッププロセスのマネジメントが上手な人をリーダーにすると、自分がリーダーになったときも、またボトムアップで物事を決めようとするから、結局、経路依存のワナにハマってしまう。
尾原: 「ノー」や失敗を嫌う人たちが上に行くような構造になっていると、必然的に、トップになった人がそういう意思決定構造の人しか生き残らない進化の袋小路にハマってしまうから、そもそもどういう人を上に上げていくのかというところから変える必要がある。
冨山: 政策的意思決定も同じです。大きな戦略ピボットがなかった時代には、護送船団行政で、経済団体や業界団体をつくって、そこでコンセンサスをつくらせて、通産省(現在は経産省)がそれを取り入れる、というボトムアップ型の政策形成で、産業政策もつくれたんです。でも、いまどきはその意味では業界団体なんて百害あって一利なしです。だって、いま求められているのは、電機メーカーというビジネスモデルを根本から変えなければ未来はないという話なのに、電機メーカーの団体が電機メーカーを辞めようという政策を出せるわけがない。
尾原: 自己矛盾しちゃいます。
冨山: だから、そんなものいちいち意見を聞かないで、勝手に決めればいいんです。
尾原: ないしは、意見を聞かないということをルール形成してしまうとか、隔離してしまうとか。いまはインターネットという高速でつながる仕組みがあるわけだから、いままでの経路はいったん脇に置いといて、まったく別の進化経路を置くようすれば。
冨山: ネットで意見聴取すればいい。メーカー側に反対意見があるなら、SNSでロビイングすればいいんです。もしそれで空気が変わるなら、その政策は止めるかもしれない。それが民主主義でもある。
尾原: 本の中でインフルエンサーの章に書いたんですけれども、日本人はみんなと一緒にやるのが好きだから、「みんなをハックする」というやり方があって、学校のクラスやプロジェクトのメンバーが保守的だと新しいことを言い出すのはむずかしいけど、新しもの好きのインフルエンサーがコミュニティをつくって、新しいことを言うことが「みんなの当たり前」になると、日本人はみんな急にイノベーティブなことを言うようになる。
冨山: その場の空気に流されるからね。
尾原: だから、空気の違う別の空間をつくっちゃえばいいわけです。
冨山: ネットの世界のツイッター的なゲームも、空気の形成合戦です。そこは世界共通で、人間は空気の生き物だから。
尾原: 同調圧力はどの国にもある。
冨山: ただ、空気の多様性は欧米のほうがある。多様性があるから空気と空気の激突があるけど、日本の場合はその空気が同質的になってしまうので、そこがイノベーションを阻害している面がある。イノベーションは違うものの組み合わせだから。
(#3へつづく)