ZUU onlineでは特集「プロに聴く、Withコロナでの資産運用」というテーマで金融・経済・不動産などの投資の専門家にインタビューを実施している。新連載の第3回は、資産運用会社いちよしアセットマネジメント運用部運用課の大川恒ファンドマネージャーに6月24日、新型コロナウイルス感染が広がる情勢下、株式市場で成長期待が大きい業種や銘柄選別のポイントについて聴いた。

大川恒氏
(画像=大川恒氏)

オンラインサービスや5G情報通信銘柄が有望

いちよしアセットマネジメント運用部運用課の大川恒ファンドマネージャーは、Zoomインタビューで、今後、成長が期待できる業種として、オンライン化支援や5G(第5世代移動通信システム)など情報通信関連を挙げた。

同氏は、「新型コロナ禍により、非接触ニーズが高まっている中、オンライン関連銘柄が注目される。足元では、オンライン教育、オンライン診療、オンラインで買い物するEC(電子商取引)など、オンラインによるサービスを提供する企業や、そのシステムを構築する会社が買われている」と説明した。また5G関連は、「3月の下落局面では一時的な需給要因で大きく値下がりしたが、冷静に考えれば5Gの普及や情報通信速度の向上という大きな潮流は変わらない」とも語った。

いちよしグループの中で銘柄選別の基準として重視していることは、「あると便利、ないと困る」「日本一、世界一」をテーマに掲げ、「皆が求める製品・サービスはなくならない。高い技術で製品を作る、または皆が求めるサービスを提供し、日本・世界でのシェアが高い、あるいは今後高シェアを獲得していける会社を銘柄選びで勧める」と述べた。

現在の投資を推奨するものではないとしながらも、市場で実際に評価され、上昇した銘柄の例としては、チエル社などを挙げた。「もともと子どもたちが教科書をパソコンで学べる電子教材コンテンツを国内の小・中・高・大の国内教育機関へ提供し、高いシェア持っていた。加えて、近年はオンライン授業をワンストップで完結するシステムプラットフォームを構築・販売して、業績を大きく伸ばしており、コロナ禍に伴うオンライン授業の拡大や政府の進めるGIGA(Global and Innovation Gateway for All)スクール構想も追い風となり存在感を高めるだろう」と分析した。

5G関連では、モバイル端末向けの通信計測器・試験器などを作っているアンリツという会社を挙げ、「通信計測器において世界トップ3の地位にあり、4G拡大期にも業績を大きく伸ばしたが、5G拡大期に入ろうとしている現在においても5G通信網構築になくてはならない会社として存在感が増し再評価されている」と述べた。

米国でZoomの株価が急騰していることにも言及し、「コロナ禍によって需要が高まっているだけでなく、もともとオンライン教育やオンライン診療などの需要はあったと思う。テレワークもそうだが、すでに需要があったところに、コロナ禍によって新しい生活様式に変わり、一段と需要が加速する」と見込んでいる。

オンライン関連で飛躍する会社については、2つのパターンを示した。同氏は、「1つは、新しいプレーヤーが、今までの技術を使って、医療・教育といったオンライン化が進展していなかった業界向けに参入してくるパターン。オンラインのプラットフォームを持っている会社がその技術を使って参入してくる。医療、教育関係でない会社がいきなり変身するということで見つけるのは難しい。業界の門外漢であるため参入障壁は高いが、入り込んでしまえば、大きく伸びる可能性がある」と説明した。

もう1つは、「これまで医療・教育といった業界でサービスを行っていたプレーヤーがノウハウをベースにオンライン化に乗り出すパターン。業界で事業を行っている会社であるため『オンラインサービスを始める』という変化はすぐにニュースとなり、比較的見つけるのは簡単。ただシステムの知見がなかった会社が果たして完成度の高いオンラインシステム・サービスの構築に成功するのかを慎重に見極める必要がある」と述べた。

工場自動化・自動車自動化やESG・SDGsなども投資対象

大川氏は、コロナによって変わる世界から恩恵を受ける業種と併せて、コロナがあろうとなかろうと変わらず成長していく業種からも選択していく姿勢を示す。「世界的に工場を自動化するニーズがあり、その流れは変えられない。今後Withコロナの中で感染リスク抑制のため、工場はなるべく人手を省いて自動化しなければいけないので、コロナによって追い風を受けるという側面もある。また自動車の電子化・自動化の流れも変えられない。コロナウイルスの影響によって短期的に何が流行るか、廃れるかという視点ではなく、不可逆的な分野は未来を見据えた投資対象」との見方を示した。

さらに、今後の投資としてESG(環境Environment、社会Social、企業統治Governance)も重視している。目下の目標として、SDGs(持続可能な開発目標Sustainable Development Goals)とも言い換えることができるが、運用業界においても、この世界的な潮流を無視することはできなくなっているという。

「あると便利、ないと困る」との観点で銘柄を選定することは、同時にSDGs達成に貢献できる企業を選別することにつながると同氏は考えている。「『あると便利、ないと困る』企業は、これまでも人々から必要とされ、継続的に社会に貢献し続けたと言えるからだ。これからも社会的責任を果たす安定的な成長銘柄に注目したい」と語った。

その上で、「中小型銘柄の中には一気に業績拡大して大化けして1か月で株価が何倍にも急騰する会社もあるが、それが短期間でもとの水準近くまで戻ってしまうのも良くある話。マネーゲームの要領で皆で飛びつくとそうなることがある。投資家に保有して頂くファンドとして保有するのに相応しいのは、短期間に相場が終了する会社ではなく中長期的に継続可能な形で成長していく恒久的な会社」と強調した。

同氏は、「ファーストリテイリング(ユニクロの親会社)、ソフトバンクなど、今やだれもが知っている大企業も20年前には現在とは比べ物にならないほど小さな会社だった」と指摘。

両社は上場当時と比較して株価を大きく伸ばし、特にファーストリテイリングは上場時と比較して時価総額が数十倍になったことに触れ、「そういった企業の成長ポテンシャルをいかに早く見極められるかに面白さがある。ファーストリテイリングのように株価が数十倍、数百倍になる企業はほんの一握りだが、そこまでいかずとも2-3年間で株価が数倍になるような企業は中小型株では珍しくない。企業の成長ポテンシャルを丹念に調査し投資することによって大きく利益をあげられる機会が多くあるのが中小型株の魅力。そういった魅力的な銘柄を一つでも多く発掘することに注力している」と述べた。

収益機会があるのは大型株より中小型株

株式市場で大きく利益をあげる機会が多いのは、大型株よりも中小型株だという。主な理由として①既に時価総額(≒企業規模)がある程度大きくなってしまった大型株と比べて今後の成長余地が大きいこと➁大型株と比べて知名度が低いため、その成長ポテンシャルにいち早く気付けば、それが株価に反映される前に投資することが可能であるーーの2点を挙げた。

時価総額による定義・分類には諸説あるものの、中小型株の定義を時価総額で3000億円以下とすれば、国内株式市場における中小型株の割合は全体の約90%と大部分を占める。数が多いと、大きく成長する銘柄を見つけるチャンスも多い。

しかし、大手証券会社は、時価総額が大きい大型株中心の調査になる傾向がある。このため時価総額の小さい中小型株にはなかなか手が回らない面があるようだ。

大川氏は、「収益機会があると考えているのは、大型株より中小型株で、当社の強みがあるところ」と強調し、「中小型株は、市場がまだその価値に気づいていない会社を見つけていち早く投資するところに、大きな収益機会がある。膨大な数の上場企業の中からキラリと光る原石を見つけ出すことこそ、いちよしグループが得意とする分野。丹念に調査を行い、多くの人がまだ気づいていない価値をいかに適正かつ迅速に見つけられるかが、投資の肝になってくる」と語った。

大川恒氏
(画像=大川恒氏)

いちよしグループの強み

いちよしグループは、いちよし証券、いちよしアセットマネジメント、いちよし経済研究所、いちよしビジネスサービスなどで構成される。

いちよしアセットマネジメントは20年以上にわたり中小型株の調査・運用を行っている。いちよし経済研究所とも協力体制を構築し、広範な調査を実施。中小型成長株で長期的に大きな収益を目指すスタイルを得意としている。投信は、いちよし証券が主な販売会社となっており、店頭購入が可能。提携販売会社の地方銀行、証券会社でも購入できる。

いちよし経済研究所は現在、中小型株調査に特化したアナリストが17人在籍し、国内最大規模を誇る。J-MONEY誌 日本語版「ベストリサーチハウス・ランキング(新興市場部門)」で 2004 年から 2019 年まで 16 年連続第 1位を維持する。

大川氏は、「昨今は、中小型株投資の魅力が認識され始めたこともあり大手証券会社もリサーチを強化してきているが、その中にあってなお、いちよし経済研究所の中小型株リサーチの人員体制は国内でトップクラスと認識している。いちよし経済研究所のリサーチに対しては、国内にとどまらず、海外の長期投資家からヘッジファンドまで幅広いタイプの投資家から支持が厚く、高い評価を得ている」と解説した。

いちよし経済研究所は、広範な中小型株をリサーチする体制を整えており、アナリスト1人あたり数十銘柄をウオッチし、デイリーで適宜コメントを配信する銘柄数は800を超える。「ウオッチ銘柄の総数はそれをさらに上回るだろう。国内上場銘柄約4000社のうち中小型株(便宜上時価総額3000億円未満の企業)は約90%の3400銘柄程度であるため、いちよし経済研究所のウオッチ銘柄だけでその20-30%をカバーできている」と述べた。

その中から中長期投資に値する候補銘柄を選別してトップ500程度まで絞り込む。いちよしアセットマネジメントが独自にウオッチしている銘柄も併せればさらに候補銘柄の数は豊富になる。「こうしたグループをあげた広範な銘柄数の調査力を売りにしており、市場がその価値や成長ポテンシャルに気づいていない銘柄を発掘することにより、収益機会を得ている」と述べた。

中小型株は綿密な調査が必要

もっとも中小型株は、大型株に比べて大きな収益機会を得られる可能性がある半面、大型株投資とは異なるリスクにも注意する必要がある。

同氏は、「例えば、大型株に比べて開示情報が十分でないために業績予想がより困難であることや、企業規模が小さいために思わぬ事業リスクに対して脆弱であることなど」に言及。「そういった要因で成長への見込みが外れた場合には株価が大きく値下がりすることもある。大型株に比べて取引量が少ないことによる『流動性リスク』が値下がりの幅をさらに助長することもある。リスクを低減するためにも、大型株よりも綿密に調査をする必要がある。そのためには、可能な限り頻繁に企業のIR担当者や社長にインタビューを行い、事業環境や会社自身の変化を敏感に感じ取り、収益機会につながるかを常に吟味する必要がある」と述べた。

「チエル社の場合でも、電子教育コンテンツに続く中核事業候補として、オンライン・プラットフォームの存在を萌芽の時から頭に留めておくだけでも、それが花開く瞬間には皆に先んじることができる」と語った。

ただ会社側が取材で語ったことだけを鵜呑みにはせず、多角的な面から検証する必要がある。「会社が説明したことについての裏取り、会社が属する業界全体についての動向調査を行い、会社の将来的な成長についての判断材料を少しでも多く補強しなければならない」とも指摘する。

例えば学校でのオンライン授業ツールを提供する会社であれば、顧客となる教育現場での同社製品・サービスへの評判はどうか、同社の製品の技術的優位性は本当に覆すのが困難なのか、競合他社の動向はどうか、オンライン教育市場全体の規模は今後どのようなペースで拡大するのか、オンライン授業に対する国からの規制または補助の動向はどうかなど、可能な限りつぶさに調査していく必要があると言う。

株式市場は未曽有の量的緩和によって下支えられ底堅い状況続く

大川氏は、最近の株式市場の動向について、「全体としては世界の主要中央銀行による史上最大規模の量的緩和政策によって、リスク資産を含む資産価格全体が下支えされており、株式市場も比較的底堅い状況が続く」と予想。「3月は新型コロナウィルスによる経済混乱とそれに伴う金融システム崩壊危機への懸念から株式市場は大きく値下がりしたが、大規模な量的緩和政策によって金融システム崩壊への懸念は遠のいたため、少なくとも3月安値の水準まで下げるのは難しいだろう」と見込んでいる。

もっとも、「3月ほどの大崩れはないが、どこかで二番底を試す時も来る」と考えている。「足元の株式相場は、量的緩和によって供給された大量の『緩和マネー』によって支えられているが、実体経済は新型コロナウィルスによる混乱からの回復への道筋を十分に描けないままであるため、非常に脆弱な状態」と分析した。

「株式市場を支えている『緩和マネー』が何らかのきっかけで逃避を始めれば、比較的簡単に大幅な下落につながってしまう。きっかけとなりうる要素としては、新型コロナウィルス感染拡大の第二波、上場企業の業績予想下方修正、実体経済悪化による企業の倒産件数の増加など、あらゆる可能性が考えられる」と語った。

依然、新型コロナウイルスの終息が見通せない環境下では波乱要因が多く、上下の振れに注意する必要がある。しかし、「市場全体が大きく下振れする時は、チャンス到来の時でもある。新型コロナウイルスによる経済的な混乱の中にあっても、独自の成長要因を持ち、大きな業績成長を遂げていける銘柄はたくさんある。そうした銘柄が市場全体の下落につられて値下がりした時こそが投資に動く時」と述べ、Withコロナ環境下では安値拾いの投資機会があるとの見方を示した。

大川恒氏
(画像=大川恒氏)