新型コロナウイルスの感染拡大で、人々の消費行動は劇的に変わった。外出自粛やテレワークの推進などで自宅にいる時間が増え、消費は「巣ごもり」が前提となった。こうした変化は、一部は一時的なものだが、中長期的にみても人々の消費行動を大きく変えると考えられている。
新型コロナウイルスが人々の「当たり前」を変えていく
この記事を読んでいる人は、いま自宅にいるという人も多いはずだ。安倍総理は5月14日に緊急事態宣言を39県で解除すると発表したが、予断を許さない状況は続いており、テレワーク体制を継続する民間企業も多い。引き続き自主的に外出を控えている人も一定数いる。
このような「巣ごもり」の状態は新型コロナウイルスが終息に向かうにつれてその度合いが低くなっている。だが巣ごもりせざるを得ない状況だったことで人々は新たな体験をし、自分が知らなかった利便性の高いサービスに気が付いた。この点は特筆すべきことだ。
例えばEC(電子商取引)で使う電子決済。「買い物は現金で」と決めこんでいた人でも、外出自粛によって利用せざるを得ない状況になった。いざ電子決済を利用してみたことで、その利便性に気付いた人も多いはずだ。何度も使えば支払い方法にも慣れ、電子決済がその人にとっての「当たり前」となっていく。
このように、新型コロナウイルスが人々の消費行動に与える影響は、決して全てが一時的なものだけとは言えないのだ。
人々の消費行動はどのように変わっていく?
では具体的に人々の消費行動はどのように変わっていくのだろうか。調査会社が実施した市場リサーチの結果なども踏まえ考えてみよう。
ECでの買い物が活発になる
アメリカの調査会社ニールセンが3月に発表した調査内容によれば、日本人の中でEC取引の頻度が増えたと回答した人は全体の3割に上っている。外出自粛の中では当然の結果とも言えるが、注目すべきは全体の9割近くが「コロナ終息後もECの頻度を減らさない」と答えていることだ。
こうした消費行動の変化は小売市場に大きなインパクトを与える。これまで店舗だけで商品を販売していた企業は、早急にオンラインショッピングへの対応が必要になった。こうした流れに乗り遅れた企業は、人々のニーズを取り込むのが難しくなってくる可能性がある。
電子決済サービスを提供する企業にとっては追い風だ。電子決済サービス大手の米PayPalは最近の決算発表で、決済額が大幅に伸び、ユーザー会員数も4月だけで740万人の純増を記録したことを発表している。
宅配・テイクアウトの需要も伸びる
宅配やテイクアウト(持ち帰り)を頻繁に利用するようになった消費者も多い。そしてそれぞれの利便性を改めて感じた人も多いだろう。宅配は飲食店に出向く時間を節約できる。お店より安いテイクアウト価格で設定されているレストランの場合は、お財布にも優しい。
宅配やテイクアウトを利用すると、自宅で食卓を家族で囲み、両親や配偶者、子供との時間も大切にしやすい。テレワークが推進されたことで家族との時間を作る大切さに気付いた人も多く、時間やお金の節約以外の理由で宅配やテイクアウトを利用する人も一定程度増えていくだろう。
レストラン側としても、宅配やテイクアウトを今後充実させることは新たな販売チャネルによる売上増につながる。宅配代行サービスなども活用して積極的に取り組みを進めるべきだと言えそうだ。
余暇時間の楽しみ方が変化する
新型コロナウイルスの感染拡大が起きる前の「ビフォーコロナ」においては、「自宅で楽しめること」をあまり追求してこなかった人も多いはずだ。それも当然だ。外出は自由にでき、世の中にはさまざまな体験型コンテンツが溢れていた。
ただ人々はコロナ下で「自宅で楽しめること」を予期せず追求することになった。代表的な巣ごもりコンテンツとしては「映画見放題」「オンライン飲み会」などが挙げられるが、遠出せずに自宅の庭でキャンプをするだけでも充実感を感じた人もいるだろう。
こうした自宅にいながらでも楽しめる方法を知った人は、結果として消費に伴う移動が以前より少なくなる可能性もある。もちろん完全に移動がゼロとなるわけではないが、店舗型でコンテンツを提供している企業は、業績が徐々に厳しくなっていくかもしれない。
「元に戻ること」と「元に戻らないこと」を見極めよう
飲食、決済、エンターテインメント…。新型コロナウイルスはさまざまな業界にインパクトを与えている。重要なことは、コロナ終息後に「元に戻ること」と「元に戻らないこと」が何かをそれぞれ見極めることだ。人々の消費行動について分析するときも同じことが言える。
経営者には将来を見据える力が求められる。ウィズコロナ・アフターコロナのビジネスモデルを考えるときには、こうした視点をぜひ持ってほしい。(提供:THE OWNER)
文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)