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同時多発の上昇要因で2,000ドルが射程に入った金相場

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト / 吉田 哲
週刊金融財政事情 2020年8月3日号

 7月27日、国際的な金価格の指標であるドル建て金市場で、1トロイオンス=1,940ドル台に達し、約9年ぶりに過去最高値を更新した。国内外の金相場が騰勢を強めており、米大手金融機関などからは、1年以内に2,000ドルに達するとの見通しも出ている。

 金価格の上昇は、「リスクオフの逃避先」として金が選好されることが要因であるとの報道をしばしば目にする。しかし現在は、①新型コロナウイルスの感染拡大などで有事のムードが強まり、資金の逃避先としての需要が増加している、②実態を反映していない可能性がある株価が不安定化する懸念があり、代替資産としての需要が増加している、③コロナ対策のために行われている金融緩和策でドルの価値が希薄化する懸念があり、代替資産としての需要が増加している、④新型コロナ第1波を乗り越えた中国の宝飾需要の回復期待が高まりつつある、⑤新型コロナの影響で信用不安が拡大している国々の中央銀行による保有需要が増加しているとみられる─など、少なくとも五つの上昇要因が同時に発生している。

 「上昇要因が少なくとも五つある」という視点は、今後の金価格の動向を考える上で大きな助けになる。今のところ、これらが束になって金相場を押し上げているとみられるが、今後、コロナが終息しない、米中関係がさらに悪化する、実態を反映しない株高が目立つ、市場が欧米の金融当局にさらなる緩和措置を催促する、第1波を乗り超えた中国が世界経済の回復を主導する、中央銀行が保有高を拡大させる、などの事象が同時に起きた場合、五つの上昇要因の結束はさらに強固なものになるだろう。

 逆に、新型コロナのワクチン開発が進む、感染者の増加が鈍化する、経済指標の回復と株価上昇が同時発生する、などの事態になれば、五つの上昇要因の結束が緩む可能性が出てくる。この場合、有事のムードが後退して、資金の逃避先として、あるいは代替資産としての金需要が減少していくだろう。

 まずは目先、金相場は2,000ドルを目指す展開になるとみている。金相場が上昇すれば、同じ貴金属の銀、プラチナ、パラジウムも連れ高となる可能性があろう。

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