革新的なテクノロジーの採用や消費者と企業のコミュニケーションの変化に加え、Google、Facebook、Amazonの激戦により、デジタル広告市場の勢力図が大きく変わる可能性も浮上しており、5G時代のデジタル広告は大きな変革期を迎えています。

2020年にはデジタルが広告市場の過半数に?

5G
(画像=tierney/stock.adobe.com)

過去数年にわたり、TV、ラジオ、新聞、雑誌といった従来型の広告とデジタル広告の逆転が予想されていましたが、変革はすでに現実となりつつあります。

総合コンサル大手アクセンチュアが、広告市場の未来を予想するレポート『Future Of Advertising』を発表した2016年の時点で、調査に回答した大手企業による広告予算の割り当ては、デジタル広告とTVコマーシャルが各41%と同レベルに達していました。紙媒体が10%、その他が12%です。

英広告メディアのGroupMは、その後消費者と企業間のデジタルコミュニケーションがさらに加速したことにより、従来型の広告需要が縮小し、2020年の国際広告市場のデジタル広告のシェアが、前年から4ポイント増の52%に達すると予想しています。

デジタル広告3大IT企業の激戦

デジタル広告市場が拡大する中、圧倒的なシェアを占める3大IT企業(Google、Facebook、Amazon)の激戦が注目されています。

米デジタルマーケティング大手eMarketerの2019年の推計によると、3社は米国のデジタル市場のほぼ7割を牛耳っており、そのうちGoogleが約4割、Facebookが約2割を占めています。

Amazonのデジタル広告市場におけるシェアは1割にも満たず、両社に大きく引き離されていますが、EC広告の需要が急激に伸びていることから、未知の可能性を秘めた「ダークホース」となり得るかもしれません。

EC広告とはAmazonや楽天といった、ECサイト内の広告です。近年は独自の顧客データを分析し、検索と関連性のあるバナーやテキスト広告、推奨商品リストなど、よりパーソナライズされたコンテンツへと進化しています。

Facebook、相次ぐトラブルで信用低下?

勢力図の変化を予感させるもう一つの要因は、Facebookをめぐる数々のトラブルです。

同社はユーザープライバシーの侵害問題で、2019年7月に米連邦取引委員会(FTC)から50億ドルの制裁金を課されました。2020年6月以降はFacebookがヘイトスピーチや人種差別的な投稿を放置しているとして、広告の出稿を一時的に取りやめる企業が増えています。
7月3日の時点で、コカ・コーラ、スターバックス、フォードなどの大企業のほか、アディダス、プーマ、パタゴニアなど、ファッション業界からも多数の企業が「Stop Hate for Profit=利益のためにヘイトを許すな」というキャンペーンに賛同し、280社以上が少なくとも7月一杯はフェイスブックへの出稿を取りやめることを宣言しています。

このような事態が続けば、消費者だけではなくクライアント企業からの信用が著しく低下し、収益源の9割以上にも上る広告収入にも深刻な影響を与える可能性があります。

5G時代のデジタル広告 ゲームチェンジャーとキーポイント

スマホの普及とともに著しい進化を遂げたデジタル・コンテンツは、5G 時代の到来により、さらなる変革期に突入しつつあります。

AI(人工知能)や機械学習といったテクノロジーに続き、5Gネットワークを最大限に活かした、新たなデジタル広告の可能性を予感させる注目ポイントをご紹介しましょう。

1 音声・視覚

「Googleアシスタント」や「Googleレンズ」など、音声認識技術や視覚認識技術を利用した検索の需要が高まっていることから、今後は音声・視覚検索に対応可能なデジタル広告が加速しそうです。

音声検索はキーワードを入力する代わりにスピーカーに発声することで、知りたい情報を検索する技術です。すでに検索の20%が音声機能というGoogleは、2022年までに55%の世帯がスマートスピーカーなど音声認識技術対応のデバイスを所有するようになると予想しています。

視覚検索は入力したキーワードに関連する画像やイメージ(写真・イラストなど)を検索するシンプルなものから、写真をアップロードしたり、写真が掲載されたサイトのURLを入力したりすることで、関連情報を検索するもの、あるいはGoogleレンズなどの技術を利用して、レンズに映したテキストやイメージから関連情報を検索できるものまで、多岐にわたります。

音声検索に比べると普及が遅れているものの、写真共有サイトPinterest(ピンタレスト)の視覚検索件数は、月間6億件(2018年、前年比140%増)を超えているほか、Google レンズの利用件数はGoogle検索全体の19%に達しています。

5Gの特徴である「超高速通信」「超多数同時接続」「超低延滞」を活かした5Gネットワークでは、発音や延滞が原因の検索間違いやエラーといった音声検索の短所が改善されることで、広告内における商品・サービスの情報検索がより快適で正確になるほか、高解像度画像の視覚検索や広告配信も可能となるなど、デジタル広告のバラエティーも広がると期待されています。

2 XR対応コンテンツ

VR(仮想現実)・AR(拡張現実)・MR(複合現実)などの総称である「XR」 は5Gの普及で飛躍的に拡大すると期待されている分野であることから、今後デジタル広告にもさまざまなXR技術が採用されると予想されます。

例えばVerizonのメディア部門であるVerizon Mediaは、VR・AR・MRを取り入れたデジタル広告やブランドコンテンツを作成できる、XRプラットフォーム「Verizon Media Immersive(VMI)」を開発しました。

同社のパートナー企業や子会社、クライアントはプラットフォーム上のコンテンツライブラリやオーサリングツールなどコンテンツ作成に必要なツールのほか、検索機能やeコマース機能(購入動向などウェブサイトのパフォーマンスを分析する機能)を利用できます。
消費者はアプリをダウンロードする必要がなく、ブラウザから直接VMIで作成されたコンテンツにアクセスできるため、スマホの容量やプライバシー侵害のリスクに対する懸念など、様々な理由でアプリをダウンロードすることに抵抗がある消費者にもアピールできると期待されています。

テクノロジーと創造力の融合で進化し続けるデジタル広告

以上の例からも予想されるように、5G時代のデジタル広告はテクノロジーと創造力の融合により、よりパーソナライズされた利便性とエンターテイメント性の高いコンテンツを、ユーザーに最適なタイミングで提供することが可能になるでしょう。

それと同時に、企業側には消費者の求めているものや未来のトレンドを、迅速かつ的確に分析・予想する敏捷性と共に、消費者を飽きさせない広告を提供し続けるための創造力やマーケティング力が必須となりそうです。

このような潮流から、従来の商品やサービスを売り込むことに焦点を置いた広告から、「ブランド力を強化することで売上につなげるための広告」へと、デジタル広告のコンセプトが一新すると予想されます。

これらのポイントを抑えておくことは、投資判断にも役立つかもしれません。(提供:Wealth Road