誰にでも消費欲求はあるもので、欲しい物を買ったり、やりたいコトを実現したりするためにお金を稼ぐという人も多いでしょう。一方で、収入と物欲は永遠に比例してくわけではなく、ある程度の収入を超えると物欲は減退するといわれています。今回は、その「年収分岐点」はいくらになるのかについて説明します。

物欲で満たされる満足感は一瞬で消える?

お金の使い方
(画像=Николай Крапивин/stock.adobe.com)

欲しい物を手に入れたときは誰でもうれしい気持ちで満たされるでしょう。そのためにがんばってお金を稼いだり貯金をしたりしていたのであれば、喜びもひとしおです。しかし、欲しい物を手に入れて満足してもすぐに別の物が欲しくなる……といった経験もあるのではないでしょうか。物欲で得ることができる満足感は一瞬で終わるものです。

「金銭による幸せは長続きしない」「幸せはお金では買えない」といわれるのはそのためかもしれません。米プリンストン大学の心理学者、ダニエル・カーネマン名誉教授の研究によると感情的幸福は、頭打ちになる年収の「分岐点」があるといわれています。つまり、年収が一定額に達すればそれ以上は年収が増えても感情的幸福は増えていかないということです。

この研究は、カーネマン教授が2008~2009年に米国で45万人を対象に収入や生活満足度、ストレスについての電話調査を実施し年収と幸福度の関係を分析したものです。その結果、年収と幸福度の分岐点は年収7万5,000ドルであると発表。1ドル106円で換算すると約800万円となります(2020年7月24日時点)。つまり、この研究結果によると、物欲は年収の増加に比例し大きくなる一方で、年収約800万円以上になると増えていかないことになるのです。

年収800万円以上の幸福感が薄れるのはなぜか

専門的な言葉でいえば物欲を満たすということは「承認欲求」を満たすことになります。承認欲求とは、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した「欲求4段階説」のなかに出てくる人間の欲求の一つで、段階的にエスカレートしていく欲求のうち4番目に訪れる欲求のことです。ここで「マズローの欲求5段階説」について簡単に説明しておきましょう。

人間は皆、次の5つに階層化された欲求を持っており、一つの欲求が満たされると次の欲求を満たそうと行動していくというものです。5段階の「欲求」は次のように上がっていきます。

・1段階:生理的欲求
「食欲」「排せつ欲」「睡眠欲」など、生命維持に必要な基本的欲求

・2段階:安全欲求
病気やケガ、災害などに対する備えなど、安心、安全に暮らしたい欲求

・3段階:社会的欲求
友人や家庭、会社などの共同体の一員として加わりたいという欲求

・4段階:承認欲求
「他者から認められたい」「他者より優れていたい」など自尊心に関わる欲求

・5段階:自己実現欲求
自己の潜在的可能性を探求し、より自分らしく生きたいという欲求

前述した承認欲求は「他者から認められたい」という自尊心に関わる欲求であり、仕事での評価や昇進など自分の努力で実現できる場合もあります。しかし、例えば出入りする店の格、スーツ、腕時計、車など身の回りのアイテムのクオリティを高めることは、お金の力で実現できる欲求でもあります。衣食住といった生活の基礎となる欲求から、他者を意識し認めてもらいたいという欲求まで、次の欲求に移行するためには年収アップも必要になります。

カーネマン教授の研究で実証されているように年収と欲求は比例関係です。しかし、物欲もある程度まで満たすことができれば次の欲求段階である自己実現欲求へと移っていきます。ただ、自己実現欲求は物を買いそろえて満足する物欲とは異なるものです。「ある程度年収が上がると物欲がなくなる」というのは、この第5段階目の欲求を求めるステージにきているからだということができるでしょう。

つまり、カーネマン教授の研究による「約800万円」という年収が自己実現欲求への移行点、ということになります。

自己実現欲求を満たすために必要なことは?

心の充足には5つの欲求を順番に満たしていくことが大切です。しかし、年収が増えてお金に余裕ができると欲しい物は必要なときに購入することができるため、物欲はなくなっていくと考えられます。5段階目にある、より自分らしく生きたいという自己実現欲求はお金で買うことができないからです。

人間にとっての欲求の頂点は自己実現欲求となるため、これを満たすことが本当の意味での幸福といえるでしょう。では、自己実現欲求を満たすためにはどうすればいいのでしょうか?

例えば、仕事で顧客や社会に喜んでもらうためには「どんな商品・サービスを提供するのが良いか」について考えて行動し、常に貢献の姿勢を崩さないよう努めることに自分らしさを感じる人もいるでしょう。また、物を買わなくても「欲しくなればいつでも買える」状態を保ち続ける自分の姿に満足し、幸せを感じ続けられる人もいるかもしれません。

自己実現欲求はそもそも「より自分らしく生きる」という欲求です。そのため、自己実現欲求を満たすための正解は自分自身で見つけていくべきものといえるでしょう。そのことに気づくことができれば幸福に生きていくために「自分がどうあるべきか」「どう毎日を生きていくか」について考えたうえで行動していくことができるはずです。

日ごろから消費活動で欲求を満たそうとしている人は、お金では満たすことができない自己実現欲求にも目を向けてみましょう。お金が幸せをもたらすのではなく、自分自身を向上させ続けることが何よりも幸せにつながることだと認識することが大切です。(提供:Wealth Road