先月(8月)下旬、ワイヤレスで外部の電気を使わずに太陽光、二酸化炭素、水を「クリーン・エネルギー」に変換する独立型の装置を英ケンブリッジ大学が開発した旨「Nature Energy」誌に掲載された。「カーボン・ニュートラルな(二酸化炭素を排出しない)燃料」を生産できるこの新しい装置は「人工光合成(artificial photosynthesis)」実現への大きな突破口になるのだろうか。
「光合成(photosynthesis)」とは植物など光合成色素をもつ生物が光エネルギーを化学エネルギーに変換する生化学反応のことであり、これを人工的に行うことを目指しているのが「人工光合成」だ。化石燃料からの脱却の鍵とされている。
夢のクリーン・エネルギーとも呼ばれる「人工光合成」の研究を巡っては我が国と米国がトップランナーと言われている。米国政府は「人工光合成」研究におよそ130億円以上($122M)の予算を投じ「人工光合成ジョイントセンター(Joint Center for Artificial Photosynthesis、JCAP)」を作った。我が国でも「人口光合成」は「国家プロジェクト」となっている。地球温暖化対策と経済成長を両立させながら2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減の達成に「人口光合成」が大きく貢献すると期待されているのだ。
実現に向けた鍵となっているのが「太陽光エネルギー変換効率」だ。いかに効率良く太陽エネルギーによって水から水素と酸素を作り出すことができるか。低コストで効率的に大量生産が可能な技術であることが求められる。
また実際に実用化に向けた動きも加速している。去る5月下旬、英国科学誌「Nature」オンライン速報版に新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と人工光合成化学プロセス技術研究組合(ARPChem)が諸大学・研究機関と行った共同研究が掲載された。紫外光領域ながら世界で初めて100%に近い量子収率(光子の利用効率)で水を水素と酸素に分解する粉末状の半導体光触媒を開発したのだ。これまでに開発された光触媒では量子収率が50%に達するものはほとんど報告されておらず画期的な成果である。同研究には信州大学、山口大学、東京大学、産業技術総合研究所も参加しており、さらなる「太陽光エネルギー変換効率」の向上が期待される。
私たち人類は衣食住のすべてにおいて植物が「光合成」によって生成した有機物に頼っている。無尽蔵の太陽光からエネルギーを生み出す「人口光合成」は化学燃料や植物や酸素を一方的に消費するだけでなく再生産するシステムとして注目される。果たして人類にとって「夢の技術」としての「人口光合成」は実現・実用化されるのだろうか。注目して行きたい。
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
二宮 美樹 記す