旅行に関するビジネスを始める場合は、旅行業の登録が必要になる可能性が高い。行政庁の認可を得ずに、法で定められた業務に該当するサービスを提供した場合、旅行業法違反を指摘されるおそれがあるため注意が必要だ。

世間を騒がせたツアー事故などにより法改正が行われ、業界内で従来のルールが通用しなくなっている部分もある。旅行業の種類や登録の条件、登録後に注意すべきポイントなどを理解し、正しく手続きを進められる知識を身につけておこう。

旅行業の定義

旅行業登録
(画像=akira-photo/stock.adobe.com)

代金や販売手数料などの報酬を得て、旅行業務や相談業務を継続的に事業として行うことを、旅行業という。対象となる業務は、以下の4つに大別できる。

  • 旅行会社が旅行計画を作成・実施する「企画旅行」
  • 宿泊施設や運送機関などを個別に手配・実施する「手配旅行」
  • ガイドや添乗といった案内業務や、各種手続きの代行
  • 旅行全般についての相談

4つ目の相談業務も、報酬を得る場合は該当する。これらの行為を、報酬を得ながら継続的に事業として行う場合は、旅行業登録を受ける必要がある。

一方、以下に挙げる業務は旅行業にあたらないため、事業化して報酬を得たとしても、登録は必要ない。

  • 入場券やチケット販売、査証取得代行、旅行者の案内などを単独で行う
  • 旅行会社の依頼による添乗員派遣
  • 回数券や乗船券の販売など、運送機関の代理販売のみを行う
  • 運送・宿泊事業者が、自らの事業範囲内で提供するサービス

旅行業の種類

旅行業は、事業形態や企画・募集の種類により、以下で解説する5つの種別に分類されている。

第1種旅行業

海外と国内の募集型企画旅行、受注型企画旅行、手配旅行、他社募集型企画旅行の代理販売など、すべての旅行業務を取り扱うことができる種別だ。

・募集型企画旅行
旅行業者があらかじめ旅行計画を作成し、参加者を募集するタイプの旅行をいう。パッケージツアーなどが該当する。

・受注型企画旅行
旅行を希望する者からの依頼により、行き先などの要望を反映して計画を作成するタイプの旅行を指す。オーダーメイド型の旅行とも言い換えられるだろう。

・手配旅行
旅行を希望する者からの依頼により、宿泊施設や乗車券などのサービスを手配するタイプの旅行である。予約が完了した時点で、旅行会社と旅行者の契約は終了し、旅行会社がその後のトラブルなどに関与する必要はない。

・他社募集型企画旅行の代理販売
自社以外の旅行会社が企画した募集型企画旅行を、自社で代理販売することをいう。

第2種旅行業

第1種旅行業で取り扱える業務のうち、海外の募集型企画旅行を除くすべての業務を取り扱うことができる種別である。

第3種旅行業

海外・国内の募集型企画旅行を除く、すべての旅行業務を取り扱うことができる種別。ただし、一定の条件を満たす場合に限り、国内の募集型企画旅行も取り扱うことができる。一定の条件については後述する。

地域限定旅行業

一定の条件を満たす場合に限り、国内の募集型企画旅行、受注型企画旅行、手配旅行を実施できる種別である。一定の条件とは、旅行業者の営業所が存在する場所や隣接する市町村に、旅行の出発地・目的地・宿泊地などがあることだ。旅行先で参加するオプショナルツアーなどがあてはまる。

旅行業者代理業

他社が企画した旅行商品を代理販売する種別である。代理契約を締結した旅行会社からの販売手数料が、収入となる。締結した契約内容の範囲内で、事業を行うことができる。ただし、2社以上の代理はできない。

旅行サービス手配業

2018年に施行された改正旅行業法により、それまで法律の規制を受けていなかったランドオペレーターを「旅行サービス手配業者」と定め、旅行業登録の義務を課している。

ランドオペレーターとは、旅行会社の依頼を受け、宿泊施設や交通機関などの手配・予約を専門に行う業者のことだ。よりスムーズに観光の手配できる一方で、旅行者の安全性や取引の公正さを損なうおそれがあるとの理由から、旅行業の種別に追加された。

旅行業登録とは?

ここまで解説してきたような旅行業を経営する場合は、営業ライセンスである旅行業登録を、法律に基づき行政庁から受けなければならない。旅行業法では、旅行業を営む際に登録を受ける必要がある旨を定めているほか、各種規則を定めて業者にこれらを遵守させることで、消費者の安全やトラブルからの保護を図っている。

旅行会社が提供する商品は物品などと異なり、形のないサービスだ。実体のない商品であるがゆえに、商品ごとの価格差が大きく、中には非常に高額なものもある。代金を支払ったにも関わらず、旅行が実施されないなどのケースも少なくない。旅行業法は、このようなトラブルから消費者を守る役割も担っている。

なお登録先の行政機関は、種別によって異なる。第1種旅行業の登録先は「観光庁長官」であり、その他の種別の場合は「主たる営業所の所在地を管轄する都道府県知事」である。

旅行業登録の条件は?

旅行業登録では、以下に挙げる条件を満たす必要がある。

管理者の選任

旅行業法では、最低1人以上の旅行業務取扱管理者を、営業所ごとに選任しなければならない。海外旅行業務を取り扱う場合は『総合旅行業務取扱管理者』を、国内旅行業務のみを取り扱う場合は『国内旅行業務取扱管理者』を、それぞれ営業所の責任者として選ぶ必要がある。

地域限定旅行業務のみの場合は『地域限定旅行業務取扱管理者』の資格所有者を、旅行サービス手配業務のみの場合は『旅行サービス手配業務取扱管理者』の資格所有者を選任する。なお、総合・国内旅行業務取扱管理者は、これら2種類の管理者に選任することができる。

1人で旅行会社を立ち上げる場合は、自身が試験を受け、事業内容に合った資格を取得する必要がある。総合旅行業務取扱管理者の資格を保有していればすべての種別に対応できるが、試験の難易度は最も高い。

基準資産額

旅行業を継続して営むために必要とされる財政的基礎が『基準資産額』だ。登録種別によって、クリアすべき基準資産額は異なる。詳細は以下のとおりだ。

  • 第1種旅行業:3,000万円
  • 第2種旅行業:700万円
  • 第3種旅行業:300万円
  • 地域限定旅行業:100万円

基準資産額は、「資産総額-(創業資金や繰延資産+営業権+不良債権+負債+営業保証金または弁済業務保証金分担金)」の計算式で算出される。

保証金

消費者が代金を支払ったにもかかわらず、旅行が実施されずに会社が倒産してしまった場合などのために、消費者を保護する観点から保証金制度が設けられている。営業保証金と弁済業務保証金分担金の2種類があり、日本旅行業協会や全国旅行業協会の保証社員となることで、弁済業務保証金制度の対象になる。

それぞれの金額は、基準資産額などによって決定される。営業保証金は高額であるため、多くの会社が旅行業協会に加入し、保証金が安くなる分担金制度を利用している。

登録の手順

申請方法は、種別によって若干の違いがある。まずは観光庁長官登録となる、第1種旅行業の登録手順を確認しよう。

  1. 申請書類の準備
  2. 観光庁での申請前ヒアリング
  3. 所轄運輸局などへの申請書提出
  4. 観光庁による審査
  5. 所轄運輸局などからの登録通知
  6. 営業保証金の供託、または弁済業務保証金分担金の納付
  7. 弁済業務保証金分担金の供託書の写しを登録行政庁へ送付
  8. 登録免許税の納付
  9. 登録票・約款・料金表の店頭への掲示後営業開始

第2種・第3種・旅行業者代理業の場合は、2~5を観光庁ではなく都道府県担当窓口で行うことになる。旅行業者代理業を始める際は、所属する旅行業者との間で業務委託契約を締結しておかなければならない。

1で準備する申請書類は、法人の場合は以下のようなものがある。

  • 新規登録申請書
  • 定款の写し
  • 履歴事項全部証明書
  • 役員の宣誓書
  • 旅行業務に係る事業計画・組織概要
  • 直近の法人税の確定申告書と添付書類の写し
  • 旅行業務取扱管理者の選任一覧
  • 事故処理体制に関する説明書
  • 標準旅行業約款

登録後の注意点

行政庁から登録通知書が届いても、すぐに営業を開始することはできない。各種書類の提出、営業所内での登録票や料金表の掲示、旅行業務取扱管理者証や外務員証の発行、取引条件説明書や契約書の交付準備などを済ませておく必要がある。

旅行業登録は、5年ごとに更新を行わなければならない。登録時と同様、更新時も基準資産額の条件をクリアすることが求められる。事業を進めているうちに不良債権や負債などが増え、基準資産額を満たせなくなっている場合は、更新ができず登録が抹消される。

更新時に資産額の条件をクリアできそうにない場合は、増資を行ったり、債務免除や贈与を受けたりして、不足額を補う必要があるだろう。

事業年度ごとに取引額を報告する義務があることも覚えておこう。営業保証金や弁済業務保証金分担金の金額は、取引額に基づいて決定されるため、取引額が増えた場合は追加納付を求められることがある。

会社情報などの登録事項や旅行業務取扱管理者について変更が生じた場合も、その旨を届け出なければならない。旅行業務取扱管理者が営業所に1人もいなくなった場合、新たに選任するまでは旅行業に関する契約の締結ができなくなる。

正しい知識と手順で旅行業を始めよう

継続的な事業として旅行業をスタートする際は、自社で展開しようとしている事業がどの種別に属するのか、旅行業協会に加入するのかどうかなどを、最初に決めておくことが重要である。

営業所ごとに、事業内容に則した資格者を置かなければならないことにも注意したい。スタッフを雇わずに自分1人で始める場合は、自ら試験を受けて資格を取得する必要がある。

観光庁や都道府県、各旅行業協会など、関わりを持つことになる関係各所にも相談しながら、正しい手続きで登録を行おう。(提供:THE OWNER

文・八木真琴(ダリコーポレーション ライター)