(本記事は、田口智隆氏の著書『おカネは、貯金に頼らずに守りなさい。』きずな出版の中から一部を抜粋・編集しています)
貯金はしていても、一向に豊かにならない日本人
貯金はお金の価値を下げる
長い目で見れば日本は物価が上昇を続けるインフレ経済であり、相対的にお金の価値が下がっていく、といえます。
そうした状況で、銀行にお金を預けていたらどうなるでしょうか。
インフレになればなるほど、お金の価値は下がっていきます。
たとえば、500万円の高級車を購入するために10年前からコツコツと貯金に励んできたとします。そして、いざお目当ての高級車を買おうと思ったら、同じ車種が550万円に値上がりしていた……ということが起きるのです。
もちろん、銀行に貯金しておけば利子がつきます。
しかし、ご存じのとおり、超低金利時代の現在、銀行の金利はすずめの涙です。
大手都市銀行の普通預金の金利は0.001%。100万円を1年間預けていても、たった10円しかお金は増えません。
物価が下がっていくデフレ経済では、銀行にお金を寝かせておくだけでお金の価値は上がっていきます。
しかし、戦後の日本経済の歴史において、そのようなデフレ期はほんのわずか。実際には、ずっとインフレ傾向にあり、お金の価値は相対的に下がり続けてきたのです。これからも、その傾向は続くと考えたほうがいいでしょう。
仮に100万円を金利0.025%で銀行の普通預金に預けたとします(これでもかなり高い金利設定です)。このとき、インフレで消費者物価指数が毎年2%アップしていくとすれば、将来、100万円はどのくらい増えるでしょうか。
額面は10年後に100万2502円となりますが、お金の価値が減じることによって実質は82万円相当の価値しかなくなります。
20年後はもっと悲惨です。
額面は100万5011円に増えますが、実質は67万円相当の価値になっています(図4参照)。
近年の日本で2%のインフレ率は現実的ではありませんが、インフレ率が毎年1%だとしても10年で10%、毎年0.5%の物価上昇でも10年で5%、お金の価値が下がっていくことになります。
ということは、銀行に貯金をしているだけでは、じりじりとお金の価値は下がっていくということです。
インフレに対抗するための知恵と方策が必要となるのです。
日本人の金融資産の半分が「貯金」
ところが、日本人の多くは貯金が大好きです。
大切な資産の多くを銀行に預けています。
日本銀行「資金循環統計」(2019年3月)によると、約1900兆円の個人金融資産のうち53.3%を現金・預金が占めています。ちなみに保険・年金が28.6%、株式が10.0%、投資信託が3.9%となっています(図5参照)。
アメリカの現金・預金の割合が12.9%、EUが34.0%であるのと比較すると、日本人がいかに貯金に頼っているかがわかります。
保険については、終身保険など貯蓄性が高いものが多いのが現実です。
満期になれば毎月払っていた保険金が返ってきますが、自分が積み立てていたお金が戻ってくるという意味では、貯金と大差はありません。
個人年金も自ら積み立てていたお金が老後に戻ってくるわけですから、やはり貯金と同じような性格のものです。
しかも、保険や年金は、保険会社などの利益が差し引かれているわけですから、文字通り万が一に備えた〝保険〟でしかなく、もちろんお金を増やすという役割は期待できません。
アメリカでは、個人の金融資産のうち株式が34.3%、投資信託が12.0%を占めています。それだけリスクをとっているということです。
もちろん、株式や投資信託は元本割れ(金融商品の価格が、投資金額を下回ること)をする可能性がありますが、投資した金融商品が値上がりし、インフレの上昇幅を上回る可能性もあります。
アメリカ人全体の傾向として、少なくとも預金のまま寝かせておくことを大きなリスクと考えているのです。
給料は上がらず、負担ばかりが増していく……
もちろん、インフレに連動するかたちで給料が上がっていけば家計が受けるダメージを吸収することができます。
しかし、国税庁の民間給与実態統計調査によると、日本人の平均年収はバブル時代の1997年の467万円をピークに減少し、リーマン・ショック後の2009年には406万円まで下がりました。その後、アベノミクスなどによって持ち直し、2018年は441万円でした(図6参照)。
ここ何年かは数字上の給与は上昇していますが、多くの人が暮らしがラクになっているという実感はもてないようです。
私が運営するオンラインサロンや講演会などで若手会社員の人と交流する機会も多くありますが、彼ら彼女らから聞こえてくるのは「全然、給料が上がらない」という声ばかり。だからこそ、自分でお金を増やしたいと、私のもとを訪ねてくるのです。
なぜ、給与上昇を実感できないのでしょうか。
その理由のひとつは、年金や健康保険、介護保険などの社会保険料がじわじわと上昇しているからです。
2009年度と2019年度を比較すると、社会保険料負担が20%程度増加したといわれています。それらが給与から天引きされるので、多少給与が上がっても可処分所得は増えません。ひどい場合、社会保険料が上昇した結果、手取り額が減るというケースもあります。
さらに物価もじわじわと上がる傾向にありますから、なおさら多くの人は「家計が苦しくなっていく」と実感する結果になるのです。
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