新型コロナウイルスの世界的な流行によって私たちの日常のさまざまなことが劇的に変わった。その中の1つに「紙」の利用がある。数年前からすでにデジタル化、ペーパーレス化で使用量が減ると言われてきた。これが外出自粛やテレワークによってそのスピードが速まった。
確かに「書く」「情報を印刷する」という目的のための新聞紙や印刷などグラフィックペーパーの需要は減少傾向にある。しかし、需要が増加しているセクターもある。
製紙業では「古紙」と「木材(パルプ)」を原料に、それぞれを単独で用いたり、または配合したりしながら各種の「紙・板紙」製品を生産している。原料の内訳は約6割が「古紙」、約4割が「木材(パルプ)」である。
「紙」ではティッシュペーパーやトイレットペーパーといった「衛生用紙」の需要が拡大した。「エリエール」ブランドで知られる大王製紙株式会社3880)は「衛生用紙」でトップシェアを誇る。商業施設や医療福祉施設などの法人向けの販売が中心だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で人々の衛生面の意識が向上し、家庭向けの需要が増えている。海外でもCOVID19の発生が病院からのティッシュペーパーといった「衛生用紙」の需要を高めている。米キンバリークラーク社(KimberlyClarkCorporationはCOVID19対策のためにトイレットペーパーの増産と寄付を行った。
「板紙」では「段ボール原紙」の需要が増加している。オンライン・ショッピングの利用増加が背景にあると考えられる。具体的には、段ボールやクラフト紙袋といった包装の需要が拡大した。さらにここ数年CO2排出量に対する懸念が加わったことで、化石由来の包装材に変わる素材として期待されている。昭和パックス株式会社3954は産業用包装資材のトップ・メーカーである。
そして「紙・板紙」と並ぶ次の柱として期待されている素材の1つがセルロースナノファイバーCNF)だ(参考記事)。木を構成する繊維をナノレベルまで細かくほぐすことで生まれる最先端のバイオマス素材である。たとえば、日本製紙株式会社(3863)はセルロースナノファイバー(CNF)の技術開発、用途開発を進めている。
植物由来の素材で鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度等の特性を有するためCO2の効果的な削減が期待されている。
今、製紙業界は続々と変わっていっている。ペーパーレス化が進み、求められる商品が変わっているのである。従来の「書く」「情報を印刷する」紙から「包装」「産業用包装資材」といった新たな用途へと移行し、石油由来に変わる新たな素材を開発しているといった条件を満たしている企業が注目される。
世界の歴史を遡れば、原初の紙はもともと「包む」ためのものであった。その後、筆記可能な紙が開発されることによって「書く」「情報を記録する」「伝達する」という用途が加わった。江戸時代には襖や和傘、扇子、提灯などといった建築・工芸材料でもあった。製紙業が衰退していると考えるのは「紙」に対する現代の私たちの認識の狭さから来ているだけであって、紙そのものの利用可能性はまだまだ思いがけないところに転がっているのかもしれない。
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
グローバル・インテリジェンス・ユニットリサーチャー
二宮美樹記す