シンカー: 日本経済の問題は、新型コロナウィルス問題が緩和に向かう中で、景気が底を這って回復のないL字型を回避できたことが確認できるかだ。注目は信用サイクルが強い状態を維持できるのかだった。グローバルに在庫・生産サイクルが多少悪化しても、日本経済は拡張を続けることができるように、強い信用サイクルに支えられた内需を中心に頑強になってきていた。信用サイクルをうまく示すのは日銀短観の中小企業金融機関貸出態度DIである。信用サイクルは雇用拡大の牽引役であるサービス業の事業拡大を左右するため、失業率に先行する指標である。信用サイクルが堅調であれば、企業のデレバレッジとリストラは加速度的に悪化せず、雇用・所得環境は底割れず、新型コロナウィルス問題が緩和に向かうなかで需要は復元し、景気には回復力が生まれる。政府・日銀は、企業向けの流動性対策を大幅に拡充し、信用サイクルの防衛に全力を尽くす方針だ。政策の下支えで、4-6月期の中小企業貸出態度DIは+19に改善した。政府・日銀の政策などに支えられて、何とか堅調な信用サイクルは維持できているとみられる。7-9月期にもDIは+20まで改善し、景気はL字型を回避した確認になった。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

シンカー: 日本経済の問題は、新型コロナウィルス問題が緩和に向かう中で、景気が底を這って回復のないL字型を回避できたことが確認できるかだ。注目は信用サイクルが強い状態を維持できるのかだった。グローバルに在庫・生産サイクルが多少悪化しても、日本経済は拡張を続けることができるように、強い信用サイクルに支えられた内需を中心に頑強になってきていた。信用サイクルをうまく示すのは日銀短観の中小企業金融機関貸出態度DIである。信用サイクルは雇用拡大の牽引役であるサービス業の事業拡大を左右するため、失業率に先行する指標である。信用サイクルが堅調であれば、企業のデレバレッジとリストラは加速度的に悪化せず、雇用・所得環境は底割れず、新型コロナウィルス問題が緩和に向かうなかで需要は復元し、景気には回復力が生まれる。政府・日銀は、企業向けの流動性対策を大幅に拡充し、信用サイクルの防衛に全力を尽くす方針だ。政策の下支えで、4-6月期の中小企業貸出態度DIは+19に改善した。政府・日銀の政策などに支えられて、何とか堅調な信用サイクルは維持できているとみられる。7-9月期にもDIは+20まで改善し、景気はL字型を回避した確認になった。

日銀の短観調査では、7-9月期の大企業製造業業況判断DIは-27と、4-6月期の-34から改善した。10-12月期の先行きDIも-17と改善の継続を示唆した。自動車や電機が大きく改善した。輸出と生産は持ち直しが確認されており、製造業の業況判断DIの結果にそれほどの驚きはないだろう。7-9月期の大企業非製造業業況判断DIも-12と、4-6月期の-17から改善した。10-12月期の先行きDIも-11と改善の継続を示唆した。小売りが個人への特別給付金の追い風を受けたようだ。9月までにはGo Toトラベルの追い風を含め宿泊を含めてサービス業にも回復の動きが始まっており、小売りからサービスへ改善モメンタムは移っていくとみられる。業況判断DIの結果に驚きはなく、それほどの情報価値はないと言える。

問題は、新型コロナウィルス問題が緩和に向かう中で、景気が底を這って回復のないL字型を回避できたことが確認できるかだ。注目は信用サイクルが強い状態を維持できるのかだった。グローバルに在庫・生産サイクルが多少悪化しても、日本経済は拡張を続けることができるように、強い信用サイクルに支えられた内需を中心に頑強になってきていた。信用サイクルをうまく示すのは日銀短観の中小企業金融機関貸出態度DIである。信用サイクルは雇用拡大の牽引役であるサービス業の事業拡大を左右するため、失業率に先行する指標である。信用サイクルが堅調であれば、企業のデレバレッジとリストラは加速度的に悪化せず、雇用・所得環境は底割れず、新型コロナウィルス問題が緩和に向かうなかで需要は復元し、景気には回復力が生まれる。

政府・日銀は、企業向けの流動性対策を大幅に拡充し、信用サイクルの防衛に全力を尽くす方針だ。政策の下支えで、4-6月期の中小企業貸出態度DIは+19に改善した。政府・日銀の政策などに支えられて、何とか堅調な信用サイクルは維持できているとみられる。7-9月期にもDIは+20まで改善し、景気はL字型を回避した確認になった。

景気の回復が、緩慢なU字型から迅速なV字型に進展するためには、需要の牽引役が必要になる。注目は設備投資サイクルが再び強さを取り戻すのかだろう。4-6月期の実質設備投資は前期比-4.7%と2四半期ぶりのマイナスになったが、実質GDP(同-7.9%)を大きくアウトパフォームし、実質設備投資の実質GDP比率が示す設備投資サイクルは堅調さを維持していることになる。4-6月期の実質設備投資の実質GDP比率は16.6%へ、1-3月期の16.1%から大きく上昇した。

企業は新型コロナウィルスの影響は一過性と判断し、金融機関からの資金調達に対する警戒感も大きくなく信用サイクルは堅調さを維持できるとみられる中、長期的な視野の投資拡大は止めるわけにはいかず、設備投資サイクルは上向きを維持できると考える。人口動態にともなう労働需給逼迫を含む生産性と収益率の向上の必要性、AI・IoT・ロボティクス・5Gを含む技術と産業の革新、遅れていた中小企業のIT投資、老朽化の進んだ構造物の建て替え、都市再生、研究開発が大きな後押しとなっているとみられる。政府の経済政策などの支援もあり、コロナショック下でのIT技術の活用の経験がイノベーションを促進するだろ。

2020年度の大企業設備投資計画は前年比+3.2%から+1.4%へ下方修正された。しかし、名目GDPに相当する2020年度の大企業全産業売上高計画は-1.9%から-5.0%へ更に下方修正された。プラスの設備投資画がマイナスの売上高計画を大きくアウトパフォームし、実質設備投資の実質GDP比率が示す設備投資サイクルは堅調さを維持していることになろう。菅政権はデジタル庁の創設の試みなど、官庁の縦割りの弊害を排し、遅れているIT環境を官民の総力で一気に整えていく方針を示し、設備投資サイクルが上向く大きな力となる可能性がある。そうなれば、新型コロナウィする問題が終息に向かうなかで、堅調な信用サイクルが生み出す景気回復の力を、強い設備投資サイクルが生み出す需要の牽引力で、景気回復は緩慢なU字型から迅速なV字型に進展し、2021年の実質成長率はマーケットの予想以上のものとなるだろう。

新型コロナウィルス問題による景気の形

I字型 (落ち続ける): 経済学よりも疫学的な問題で感染爆発により経済構造が崩壊。

L字型 (底を這って回復がない): 企業のデレバレッジとリストラが再発し、雇用所得環境が悪化しながらデフレに再突入。

U字型 (回復は緩慢): 堅調な雇用所得環境に支えられて経済の自然治癒が進むが、追加的な景気押し上げの力がない中でデフレ脱却は遠のく。

V字型 (一気に回復力を取り戻す): ITの新技術などを背景とした企業の設備投資の拡大で強い景気回復に。財政拡大・金融緩和のポリシーミックスの力で、デフレ脱却へ向かう元のパスへ。

W字型 (再発による二番底): ワクチン開発の成否や集団免疫獲得の有無、ウィルス変異のリスクなどの疫学的な問題。

三つのサイクルと景気の形

①信用サイクル(日銀短観中小企業貸出態度DI)が腰折れなければ、景気はLを回避しUに進展。

②設備投資サイクル(実質設備投資GDP比率)が再び上向けば、景気はUからVに変化。

③財政拡大でリフレサイクル(ネットの資金需要)が上振れれば(マイナスが大きくなる)、それをマネタイズする金融政策の効果も強くなりアベノミクス2.0が稼働。

図1:信用サイクルと失業率

信用サイクルと失業率
(画像=日銀、総務省、SG)

図2:設備投資サイクルと企業貯蓄率

設備投資サイクルと企業貯蓄率
(画像=内閣府、日銀、SG)

図3:ネットの国内資金需要(リフレサイクル)

ネットの国内資金需要(リフレサイクル)
(画像=日銀、内閣府、SG)

表4:4-6月期短観結果

4-6月期短観結果
(画像=日銀、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司