シンカー: 9月の雇用統計は、前月比の伸びはコンセンサスを下回る一方、失業率は7.9%と8.4%から低下が続いた。ただ、平均時給の伸びは弱い状態が続いており、財政支援の効果が薄れてきている中で個人消費の弱さにつながる可能性が懸念される。国勢調査のために一時的に雇用されていた政府部門の職員が減少する見通しであることや、これまで雇用を維持してきた企業もリストラの動きが出てきており、企業部門に疲弊の兆しがみられる。大統領選が近づいてきている中で、トランプ大統領とバイデン前副大統領のどちらが新型コロナからの回復をもたらすのにふさわしいかが問われているといえるだろう。ただ、短期的には雇用回復を第一優先とするという点で両者の政策に大きな違いは生まれないとみられ、税制、規制、通商政策などの違いによる経済的な影響は何年かにわたって表れてくると考えられる。大統領選第一回候補者討論会で、トランプ氏は新型コロナからの急速な雇用回復を強調し、バイデン氏が唱える増税による悪影響を指摘する一方で、バイデン氏は経済格差の増加を批判するとともにバイ・アメリカンといった政策による雇用創出を唱えている。トランプ氏が新型コロナに感染するなどさらなる混迷が予想される中での大統領選の行方が注目される。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・経済指標・クイックコメント集

●米NFP (10/2): 661k (予想859k / 前回1490k)

●米失業率 (10/2): 7.9% (予想8.2% / 前回8.4%)

●米平均時給 (10/2): MoM 0.1% (予想0.2% / 前回0.4% -> 0.3%) / YoY 4.7% (予想4.8% / 前回4.7% -> 4.6%)

・9月の非農業部門雇用者数は前月比661kの増加とコンセンサスを下回ったが、失業率は7.9%と予想以上に低下。

・娯楽・ホスピタリティといった部門で雇用者数の増加が続いているものの、回復のペースは低下してきているようだ。

・平均時給の伸びも弱く、財政支援の効果が薄れてきつつある中で、個人消費が悪影響を受けることが懸念される。

・次回の雇用統計では、国勢調査のために一時的に雇用されていた政府職員分が減少するため、政府部門の雇用者に影響があるだろう。

・これまで雇用を維持してきた企業からもリストラの動きが出てきており、問題の長期化につれて企業の体力が削られてきている恐れがある。

●仏製造業PMI (9/23): 50.9 (予想50.6 / 前回49.8)・サービス業PMI: 47.5 (予想51.5 / 前回51.5)・総合PMI: 48.5 (予想51.9 / 前回51.6)

●独製造業PMI (9/23): 56.6 (予想52.5 / 前回52.2)・サービス業PMI: 49.1 (予想53.0 / 前回52.5)・総合PMI: 53.7 (予想54.0 / 前回54.4)

●ユーロ圏製造業PMI (9/23): 53.7 (予想51.9 / 前回51.7)・サービス業PMI: 47.6 (予想50.6 / 前回50.5)・総合PMI: 50.1 (予想51.9 / 前回50.5)

・9月のユーロ圏の総合PMIは2か月連続で低下、ロックダウン措置解除からのリバウンドも一息ついた中で、回復ペースは緩やかになってきているようだ。

・製造業PMIはドイツ、ユーロ圏全体で大幅に予想を上回り、製造業部門での回復を示す一方、ソーシャルディスタンシングなどを背景にサービス業では厳しい状態が継続。

・ドイツの輸出向け新規受注は堅調で、世界的に経済活動が再開していくにつれて外需が持ち直してきたことがプラスに働いているようだ。

・コロナウイルス再拡大を背景に制限措置が敷かれる可能性がある中、製造業の割合が多いドイツは今後もアウトパフォームする可能性があるだろう。

●米NY連銀製造業景況感指数 (9/15): 現況17 (予想6.9 / 前回3.7)・期待40.3 (前回34.3)

・9月のNY連銀製造業景況感指数はコンセンサスを上回って8月から反発、2018年以来の高水準まで持ち直した。

・内訳では、新規受注や出荷をはじめとしてすべての指数で改善がみられ、特に新規受注、出荷、仕入れ価格などが大きく伸びた。

・雇用と比較して労働時間が大きく伸びており、企業は人員を増やすよりも労働時間を増やすことで対応していることがうかがえる。

・期待指数も反発し、内訳では設備投資意欲が衰えていないことが確認されるなど、総じて経済回復への期待を抱かせる内容になっている。

グローバル・政治/金融政策・クイックコメント集

●イタリア地方選挙は現政権にとってひとまずポジティブか(9/23)

・20-21日に行われたイタリアの7つの州(ヴァッレ・ダオスタ、プッリャ、カンパニア、リグーリア、マルケ、トスカーナ、ヴェネト)における地方選挙では、同盟をはじめとした中道右派連合に対してPD(民主党)が健闘。

・特にPDは伝統的に左派の支持が多いとされるトスカーナとプッリャにおいて大差で勝利を収めて政治基盤を守り抜き、今回の選挙では中道左派連合はマルケ州を失ったにとどまっている。

・今年1月の地方選においてもサルヴィーニ氏率いる同盟と中道左派連合の躍進は阻まれており、高い支持率を背景に現政権に圧力をかけることは難しくなってきているようだ。

・世論調査では同盟の支持層が同じく右派のBrothers of Italy(イタリアの同胞)に流れている兆候や、今回もヴェネトで首長の座を守った同盟のLuca Zaia氏がサルヴィーニ氏と対立しているとの指摘もある。

・地方選挙の結果は総じてPDを中心とした現政権にとってポジティブだと言えるが、連立相手のM5S(5つ星運動)から今後も造反者が出る恐れなど、連立政権の不安定さは継続する可能性は否定できない。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司