世界中のビジネスがコロナショックの緩和と復興に苦戦する中、早くも回復の兆しを見せている企業もある。その違いはどこにあるのか。コロナで大打撃を受けた飲食産業やホテル産業の存続を賭けた復興戦略、そしてこれまでの効果を、株価がほぼポストコロナの水準に回復している、スターバックスとヒルトングループの取り組みから見てみよう。

新たなブランドイメージの創出につなげる スターバックス 

スタバ
(画像=yu_photo/stock.adobe.com)

スタバが急成長を遂げた要因の一つとして、「Third Place(家庭でも職場でもない、不特定多数の人々が交流する空間)」というコンセプトの存在が大きい。「スタイリッシュで居心地の良い店内で、ロゴ入りのカップに入ったオリジナルのスペシャルコーヒーを楽しむ」という、既存のカフェにはない体験価値を生み出したことが、世界的な成功につながった

コロナ禍では……

米国の多数の州でロックダウンが緩和あるいは解除された2020年5月、スターバックスのケビン・ジョンソンCEOは、新たなビジネスモデルへの移行を発表した。「ホッと一息つける居心地の良い空間」の提供から、モバイルアプリを活用したテイクアウトやドライブスルーに比重を置く方針への転換だ。

これは「Bridge to the Future(未来に架ける橋)」と名付けられた、コロナ時代の経営戦略の一環で、長年にわたりスタバの成長を支えて来た「Third Place」の定義を、店舗という特定の空間から自宅や職場、公共の場など、より広範囲な場所へと拡大する意図がある。

新生スタバへの期待感から株価が6%上昇

しかし、パンデミック以前から、米国のモバイルオーダーが売上の約80%を占めるなど、「On The Go(移動中)に手軽に美味しいコーヒーをテイクアウトしたい」という顧客が増加していたことから、今後3~5年にわたり、ビジネスモデルの移行を計画していた。

行列のないスタバが現実に

第一弾として2019年11月には、ニューヨークの複合施設ペンシルベニア・プラザ内に、世界初のテイクアウト専用店舗をオープンさせた。顧客は予めスタバのアプリで注文・支払いを済ませ、店舗で商品を受けとるというシステムで、店内にはレジも行列もない。コロナを機に、当初の予定より計画の実施開始を12~18ヵ月早め、2021年にわたり既存の400店舗を閉鎖する。

ポジティブな戦略転換が功を奏し、会計年度第3四半期(3~6月)の世界的な売上高は40%減少したにも関わらず、新たに130店舗をオープンし、純売上高は38%減の42億2000万ドルと予想を大きく上回った。また、新生スタバに対する市場の期待感が高まり、株価は6%以上上昇した。3 月には50ドル台に落ち込んでいたが、9月2日現在は90ドル台に達する勢いだ。

変化の波と戦うヒルトン

飲食業同様、ホテル産業にも存続を賭けた変化の波が押し寄せている。世界118カ国で6,200件を超えるホテルを運営するヒルトングループも、例外ではない。

ロックダウンの影響から、第2四半期(3~6月)の純損失は4億3,200万ドルとなった。利用可能な客室1部屋あたり(RevPAR)の収益は81%減で、売上高は前年の約4分の1以下である5億6,400万ドルに落ち込んだ。

6月には長期的な観光客の減少を見込み、約2,100人の大量リストラを発表する一方、17億5,000万ドルの回転信用(運転資金融資)枠を確保した。流動性を高める意図で、さらに10億ドルのシニア債を発行し、10億ドル相当のロイヤリティポイントを前売りするなど、あらゆる策を講じて、再起を図っている。

安心感でゲストを呼び戻す戦略「クリーンステイ」とは?

同社がコロナ復興策として掲げるのは、徹底した衛生・清掃システムを確立し、ゲストにより衛生的で安全な宿泊体験を提供するために開発した、「クリーンステイ(CleanStay)」と呼ばれるプログラムだ。

レキットベンキーザー(RB)やメイヨー・クリニックを含む、一流の洗浄・消毒製品メーカーや医療機関と提携し、清掃基準を強化するほか、メモやペンなど感染リスクの高い対象物を排除した。清掃済みの客室には、ドアを開けると破れる「クリーンステイ・ルーム・シール」を貼るといった工夫が凝らされている。

デジタル化も活用

また、アプリを利用したデジタルキーの導入を拡大させ、レストランやルームサービスにもコンタクトレス(非接触型)でサービスを提供する方法を導入した。ゲストの希望に応じて使い捨ての食器を使用したり、客室の清掃回数を調節したりするなど、細かい点まで配慮することで、コロナ時代のゲストの需要に対応可能な、トップクラスのホスピタリティをアピールしている。

今後は、ビバリー・ヒルトンが導入している紫外線照射ロボットや、マリオット・インターナショナルが導入している静電噴霧器など、最新のテクノロジーの導入も計画中だ。
クリストファー・ナセッタCEOの発表によると、ロックダウン中は10%強と最低水準まで落ち込んだRevPARが、第2四半期決算発表の時点で45%まで回復するなど、短期間で驚異的な回復を見せた。3月には60ドルを切っていた株価は発表後、1.2%上昇し、現在は90ドル台まで回復している。

コロナで回復基調にある企業戦略の共通点

両社に限らず、withコロナで順調な回復を見せ、かつ将来にも明るい展望を感じさせる企業は、消費者の需要の変化を敏感に察知し、消費者の視点から最適な形で対応している。同時に、コロナを顧客体験やシステム、ブランドイメージを向上させるチャンスと捉え、ネガティブをポジティブに転換する発想に満ち溢れている。

コロナとの共存が「ニューノーマル(新しい常識)」となった現在、消費者は未だかつてないほど、安全で便利、かつフレンドリーな体験を求めている。「消費者が求めているもの、探しているものを、どのような形でよりスピーディーに提供できるか」が、勝敗を分けるのではないだろうか。(提供:THE OWNER

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)