日本でもESG投資に取り組む企業が増加傾向です。2015年にはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もESG投資を運用方針に取り入れるなど、世界的にもESG投資が拡大の傾向をみせています。そこで本記事では、企業のみならず個人が投資を始める前に理解しておきたいESG投資の特徴と7種類のESG投資について紹介します。

ESG投資の特徴

ESG投資
(画像=wladimir1804/stock.adobe.com)

ESG投資とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)に配慮している企業を重視・選別する投資のことです。大和証券によると各セクションで重視するポイントとして以下のような項目を挙げています。

環境(Environment)「CO2(二酸化炭素)の排出量が多くないか」「環境を汚染していないか」「再生可能エネルギーを使っているか」など環境に配慮している
社会(Social)「地域活動への貢献」「労働環境の改善」「女性活躍の推進」など社会に貢献している
企業統治(Governance)収益を上げつつ不祥事を防ぐ経営を行っている

これらのポイントを企業における社会的責任としています。これまでの投資先の選択方法は、企業業績や財務状況といった財務情報が投資判断の基準になっていました。しかし財務的な要素は経済危機により変動するため、財務以外の要素に目を向ける投資が増えつつあるのです。例えば2020年10月の報道によると日本生命保険は2021年4月からすべての投融資の判断にESG審査を採用するとしています。

日本生命は、保険加入者から集めたお金を市場で運用しており保有資産は約70兆円にも及びます。日本生命のグループ会社の調査でESG評価が高い企業は「投資先の平均よりも株価が高かった」という結果が出ているのです。また世界の投資家がESG投資を重視している流れは、公的年金基金の運用方針にも表れています。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、2015年に責任投資原則(PRI)へ署名し2017年から1兆円規模のESG投資を開始しました。今後3兆円まで増やす予定です。米国最大の公的年金基金であるカルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)も2012年にすべての投資判断にESGを組み込む投資原則を採用しています。

拡大する市場動向

世界規模で見るとESG投資の市場は拡大の傾向です。財務省が公表した「ESG投資の動向と課題」によると、2018年の世界のESG資産合計は30兆7,000億米ドルに上ります。このうち欧州が最も多く14兆750億米ドル、次いで米国が11兆9,950億米ドルです。日本は、欧米と比較すると低い水準ですが2016年の2,720億米ドルから2018年には2兆1,800億米ドルと大幅に増加しています。

・ESG投資の地域別保有資産

欧州米国カナダ豪州・ニュージーランド日本
2016年12兆400億
米ドル
8兆7,230億
米ドル
1兆880億
米ドル
5,160億
米ドル
2,720億
米ドル
2018年14兆750億
米ドル
11兆9,950億
米ドル
1兆6,990億
米ドル
7,340億
米ドル
2兆1,800億
米ドル
増加率+18.9%+37.5%+56.1%+42.2%+701.5%

出典:財務省「ESG投資の動向と課題」から表作成

地域別の増加率を見るともともと多い欧州の伸びは緩やかですが、他の地域は大きな伸びを示しています。なかでも出遅れていた日本が2年間で約8倍の飛躍的な増加を記録したのが特徴的です。世界の保有資産の内訳を見ると上場株式51%、債券36%、不動産3%、PE3%、その他7%となっており株式が半数以上を占めているのが目立ちます。

ESG投資には7つの種類がある

ESG投資には、主に以下の7つの種類があります。

・ネガティブスクリーニング
ネガティブスクリーニングとは、社会的または環境に対する基準を満たさない企業を排除することです。特定のESG基準に基づいてファンドやポートフォリオから基準に満たない一部のセクターや銘柄を除外します。例えば「罪ある株式」と呼ばれる「たばこ」「ギャンブル」「武器製造」など社会的にネガティブとされる分野の銘柄が該当します。

・ポジティブスクリーニング
ポジティブスクリーニングとは、同業種の中でESGへの取り組みが高い企業に投資することです。ESGへの取り組み評価が高い企業は「中長期的に見て業績も高くなる」という発想に基づいて投資します。ネガティブスクリーニングとは逆のプロセスで選定するため、ポジティブスクリーニングのほうが投資判断としては複雑になる傾向です。

・国際規範に基づくスクリーニング
国際規範に基づくスクリーニングとは、ESG分野の国際基準を満たしていない企業を投資対象リストから除外することです。国際基準の一つに2000年に発足した「国連グローバル・コンパクト」があります。

・ESGインテグレーション型
ESGインテグレーション型とは、投資先を選定するにあたり意思決定のプロセスに財務情報だけでなくEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)、の非財務情報を組み込むことです。日本では、エンゲージメント・議決権行使型と並んで最も普及している手法と言われています。

・サステナビリティテーマ投資型
サステナビリティテーマ投資型とは、サステナビリティを全面的なテーマとしたファンドに投資することを指します。サステナビリティとは「環境」「社会」「経済」といった3つの観点から社会を持続可能にしていこうという考え方のことです。日本のCSR(企業の社会的責任)と同じような言葉と考える向きもあります。

サステナビリティの中でも企業が事業活動を通じて環境・社会・経済に配慮しながら長期的な企業戦略を立てることを「コーポレート・サステナビリティ」と呼んでいます。この言葉を重視する企業では、環境・社会への配慮と経済活動は相反するものではなく両立できると考えているのです。

・インパクト投資型
インパクト投資型とは、環境・社会に貢献するサービスや技術を提供する企業に投資することです。この分野では非上場企業への投資が多いため、ベンチャーキャピタルが運用するファンドが多いと言われています。経済的リターンに加えて社会的リターンの生成を意図するのが特徴です。従来型の経済的リターン重視の投資方法とは異なります。

社会的リターンを生み出さない企業は、「長期的に経済的リターンも生み出さない」という考え方です。

・エンゲージメント・議決権行使型
エンゲージメント・議決権行使型とは、株主として企業に対してESGに関する案件を積極的に働きかける投資方法を指します。投資ファンドに代表される「アクティビスト」や「物言う株主」と同じような手法と考えてよいでしょう。エンゲージメントとは、投資家が建設的な目的を持って投資先と対話することです。経営者との面談や会議での意見表明などの形で行われます。

議決権行使は株主総会の決議で事案の賛否に投票することです。

個人がESG投資を始めるには

では、個人がESG投資を始めるにはどうしたらよいでしょうか。個別企業の中からESGに積極的に取り組んでいる銘柄を探す方法もありますが、一つに絞るならESG投資信託へ投資する方法があります。例えばニッセイアセットマネジメントが運用する確定拠出型年金向けの「日本株式ESG資産形成ファンド」という商品があります。

ESGに対する取り組みに優れ、株価上昇が期待できる銘柄を選定しTOPIX(東証株価指数)を上回る投資成果を目指すことが運用方針です。ESGに積極的に取り組む企業が成長すれば社会貢献にもなり、投資したファンドや個人投資家にとっても「配当や株価の上昇」という形で恩恵を受けられます。地球環境の保護や企業の社会的責任が問われるこれからの時代に、ESGは欠かせない投資テーマになるでしょう。(提供:Renergy Online