新型コロナウイルスの影響によるボラティリティ(市場変動)の高さが懸念材料となっている現在、分散投資ができるETF(上場投資信託)の人気が高まっています。
今回は、海外で話題になっているコロナ関連銘柄で構成された「コロナETF」について、事例やメリット・デメリットなどをご紹介します。
ETFとは何か
ETFとは、Exchange Traded Fund の略で、日本語に訳すと「上場投資信託」となります。日経平均株価、東証株価指数(TOPIX)、NYダウなどの特定の指数に連動する運用成果を目指しており、金融商品取引所に上場している投資信託です。連動する指数は株式だけでなく、債券、REIT(リート)、通貨、コモディティ(商品)の指数もあります。
ETFは上場されていることで、投資家にとって多様なメリットがある金融商品だと言われており、米国や欧州の個人投資家の間では個別株や投資信託と並ぶ投資ツールとして近年広く活用されています。非上場の通常の投資信託と比べて、上場株式のように売買できることが特徴でありメリットだと言えます。
コロナ禍でも安定のETF 8月末の運用資産総額は736兆円以上
ETF市場調査企業であるETFGIの調査によると、8月末の世界のETF・ETP(上場取引型金融商品)の運用資産は7兆ドル(約736兆7,388億円)を突破しました。年度累計の資金純増額は4,282億5,000万ドル(約45兆602億円)と、前年同月の1.5倍以上になっています。ETPとは、ETFのほかETN(上場投資証券)とETC(上場投資コモディティ)を含む、上場金融商品の総称です。
コロナ禍で大暴落した外貨建て債券や一部の株式とは対照的に、ETFは高いボラティリティに翻弄されることなく、比較的安定したパフォーマンスを維持しています。
ETFに対する市場の関心が高まった理由は、いくつかあります。まず、リスクを分散する一方で効果的にリターンを狙う手段として、ETFを選ぶ投資家が増えたこと。また、コロナ不況への懸念が高まる中、超低金利の銀行口座にお金を預けておくより、投資で増やしたいと考える人が増えたことです。
ETFの売買手数料は年々引き下げられており、無料のものもあります。インターネットでどこからでも好きな時にアクセスできる利便性の高さが追い風となり、気軽に投資にチャレンジする投資初心者や若年層が増えているのです。
これまでは忙しくて投資に充てる時間がなかった人の在宅時間が増えたことも、要因の一つでしょう。
「コロナETF」とは?3つの事例
すべてのビジネスがコロナ不況に見舞われているわけではなく、IT分野や医薬品分野など一部の企業は感染拡大によって新たな収益源を得て、巨額の利益を創出しています。このような「コロナ盛況」の波に乗って生まれた新たな金融商品が、コロナETFです。
具体的にはコロナ検査キットや治療薬、ワクチンといった医療分野や、パンデミックでNew Normal(新たな常識)となったテレワーク分野など、コロナと関連性の高い銘柄で構成されたETFです。3つの事例を紹介します。
事例1:「ETF Managers Treatments, Testing and Advancements ETF(GERM)」
Biontech SEやModerna 、Alnylam Pharmaceuticals、Bio-Rad Laboratoriesなど最前線の感染症治療や検査にフォーカスしているバイオテクノロジー企業やライフサイエンス研究所など63銘柄で構成されています。
2020年6月設立され、10月20日現在の運用資産残高(AUM)は5,683万ドル。運用元は、医療大麻株ETF「ETFMG Alternative Harvest ETF(MJ)」で話題の米ETF Managers Group(ETFMG)です。
事例2:「Pacer Biothreat Strategy ETF(VIRS)」
米金融サービス企業Pacer Financialが運営するETF。AmazonやNVIDIA、ZOOMなど、パンデミック分野の研究からワークライフを支援するテクノロジーまで、幅広いコロナ関連銘柄10種で構成されています。2020年10月12日時点の運用資産残高は、568万ドルです。
事例3:Direxion Work From Home ETF(WHF)
テレワーク環境の向上に貢献する、4つのテクノロジーの柱(クラウドテクノロジー、サイバーセキュリティ、オンラインプロジェクト/ドキュメント管理、リモート通信)をもとに、40種類の銘柄で構成されています。主な銘柄はZOOM、Oracle、Xerox、Vmware、Broadcomなどです。米トップETF運用企業Direxionが運用しています。
割高な手数料、高ボラティリティなどデメリットも
事例を見る限り「まさに今が旬の銘柄群」という印象を受けますが、購入にあたって注意すべき点があります。
いずれも運用開始からわずか数ヵ月しか経過していないため、従来のETFと比べると選択肢や取引量、運用資産残高が少ないです。その分流動性が低く売却に時間がかかるため、希望した売値で売れないリスクが指摘されています。
手数料が割高であることにも注意が必要です。主要インデックスETFの手数料は0.1%未満ですが、前述の3つのコロナETFの手数料は0.45~0.70%です。
また、特にワクチン関連銘柄のETFは開発状況に市場が敏感に反応するため、ボラティリティが高くなる傾向があります。
例えば、ワクチン開発の最前線にいる米バイオテクノロジー企業Novavaxの株価は、上半期に4,300%以上上昇しましたが、8月上旬のピークを境に急落に転じました。現在は2,300%増のラインを維持しています。
米政府と感染症対策イノベーション連合(CEPI)から合計20億ドル以上の資金を調達したModernaは、大規模なワクチン臨床試験の暫定結果報告を11月に予定しています。同社のステファン・バンセルCEOは「結果がポジティブであれば、12月には連邦政府がワクチンの緊急使用を許可する可能性がある」と述べているため、11月に株価が大きく変動する可能性があります。
コロナ禍が長期化しているため、今後も多様なコロナETFが市場に登場する可能性があります。どの投資商品にも同じことがいえますが、タイムリーな選択肢に見えたとしても、安易に飛びつくのは危険です。
「アフターコロナにも生き残っているか」という長期的な観点で構成銘柄を分析することで、投資のチャンスが見えてくるのではないでしょうか。
*事例でご紹介したETFは例示を目的として示したものであり、投資を推薦、勧誘する意図はありません。(提供:Wealth Road)