今年(2020年)は新型コロナウイルスが私たちの生活に様々な変化をもたらした。4月の緊急事態宣言の際にはいわゆる「宅飲み」「オンライン飲み会」がトレンドとなったことは記憶に新しい。
しかし実は在宅ワークの普及はより健康的な習慣ももたらしていた。新型コロナウイルス感染拡大対策により人々の在宅時間の増加に伴い朝食を摂る人の割合が増加しているという(参考)。
中でも金額ベースで食パン類が前年比約11パーセント増、シリアルが同約41パーセント増と手軽に用意できる朝食関連商品が人気だ。またパンに欠かせないジャム・スプレッド類は3月以降前年比二桁増となっている(参考)。
中でも近年の健康志向と相まって注目が集まっているのは砂糖を使わないオールフルーツジャムである(参考)。通常の砂糖入りのジャムが売り上げを落とした中アヲハタ(TYO: 2830)の「まるごと果実」、スドージャム(未上場)の「100%フルーツ」といった商品は売り上げを伸ばしている。
もともとヨーロッパでジャムは果物の保存食品として家庭で製造・消費がされてきたのに対し日本では明治10年に(当時の内務省 内省)がいちごジャムを作り販売したことに始まるとされる(参考)。こうした発展の違いからか日本農林規格(JAS)では糖度40%以上をジャム類としているのに対し、国際食品規格(CODEX)では65%以上と規定して低糖度を認めていない。日本では低糖度のジャムが生産量の45パーセントを占めており、「甘さ控えめ」が流通している(参考)。
他方でフレーバーでは日本国内のジャムのシェア約85パーセントをブルーベリー、いちご、マーマレードが占めている(参考)。そのため他のフレーバーのジャムは必ずしも開発されてこなかったという。
そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大はフルーツ産業にも多大な影響を与えた。従来観光用や贈答用として栽培された分の需要が落ち込み、特に足の速い桃などでは販売先に苦慮した農家もあった。桃に先立ち上記のような用途で栽培されたさくらんぼが市場に流入し価格が3割ほど下落していたこともこの懸念に拍車をかけた(参考)。
従来保存のきかないフルーツの保存法として活用された「ジャム」。しかし日本ではより甘さ控えめな、フルーツそのままの味わいを求める傾向が強まっている。ブルーベリー、いちご、マーマレード以外のフルーツが「ジャム」としてより求められるようになるかもしれない。
在宅ワークにより朝の時間に余裕が生まれたことによる朝食需要と「健康」を改めて意識する中でジャムは再び卓上の彩りとなるのだろうか。引き続き注視していきたい。
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す