内山 瑛
内山 瑛(うちやま・あきら)
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

海外不動産での節税については、2020年度の税制改革によって海外不動産の減価償却に関するメリットが消失し、その効果は限定されることとなった。今回は、海外不動産での節税の仕組みや、税制変更によって海外不動産の節税メリットがどう変化したかについて解説していきたい。

海外の不動産投資にかかる税金

海外不動産
(画像=ivan-kruk/stock.adobe.com)

海外不動産投資に関わる税金については、海外不動産の取得時と保有時、譲渡時に分けて考える必要がある。国によって、一部については課税されないといった制度の違いはあるものの、この3つのフェーズで課税されることは概ね変わりがない。

不動産の取得時と譲渡時

不動産の取得時には、日本でいえば不動産取得税や登録免許税がかかるが、海外不動産投資でも同じような税金が課されることになる。海外不動産の保有時には、日本では、資産の保有に対する税金として固定資産税が、資産から得られる収益に対して所得税や法人税などが課税される。場合によっては、消費税などのような付加価値税も課税されるだろう。

そして、海外不動産の譲渡時には、日本における譲渡所得税に似た税金が課税される。これは、保有時に生じた値上がり益について課税されるものである。

海外不動産に課せられる税金の国際間調整

海外不動産への投資は節税になる可能性があるが、漫然と国内不動産と同様に確定申告をしていると、かえって納税額が増加してしまう可能性もある。なぜならば、通常海外で不動産を保有している場合は、発生する所得について海外不動産の保有国で納税をする必要があるからだ。

国によって税制はさまざまだが、海外在住者が日本の不動産を所有して不動産収入を得ている場合も、不動産所得は日本で申告・納税しなければならないのと同様である。

また、日本在住で海外不動産を所有している場合、保有国で不動産所得を申告して終わりかといえばそうではなく、海外で発生した所得をすべて在住国で申告するという制度になっている。そのため、普通に税額を計算していては、日本と海外不動産の所在国の両方で所得税が課税されてしまうことになり、二重課税となってしまう恐れがある。

「外国税額控除」制度による二重課税の防止

日本と外国での二重課税による不都合の防止措置として、「外国税額控除」という制度が設けられている。外国税額控除とは、日本での所得税等を計算した際に、外国で納付した一定の税金を差し引いての納付が許可されている制度である。

例えば、日本での納税額が100万円と計算されたとして、海外で既に10万円の所得税相当額を納付している場合、「100万円-10万円=90万円」だけ納付すればよいという制度である。

ただし、海外で支払った所得税相当額の全てが控除できるわけではなく、以下の計算式で算出される分のみが控除される。

所得税の控除限度額=その年分の所得税額×(その年分の調整国外所得金額/その年分の所得総額)

つまり、日本よりも海外の税率が高い場合は、余分に支払った分の税金について控除されないような仕組みとなっているのだ。

海外不動産による節税の仕組み

2020年度の税制改正までの間、なぜ海外不動産への投資によって節税ができたのだろうか。それは、不動産に関する所得税が、日本の不動産を売買することを前提に設計されていたからである。

土地と建物を同時に購入した場合は、建物部分のみ減価償却が認められる。海外では、日本よりも相対的に土地の値段が安く、建物の値段が高い国がある。そのような国で不動産を購入すれば、日本で同じ総額の不動産を取得するよりも高額の経費算入ができるので、毎年の所得税を圧縮することができる。

・不動産譲渡の申告分離課税による節税メリット

日本の税制において、土地や建物などの不動産の譲渡に関する所得が申告分離課税とされている点は、海外不動産投資による節税の大きなポイントである。申告分離課税とは、所得税の原則である、全ての所得を合算して計算する総合課税の例外として、他の所得と分離して税額を計算する課税方式である。

土地や建物などの譲渡所得については、他の所得が多い富裕層にとっては、通常計算される所得税の税額よりも譲渡所得による税額の方が低くなる傾向にある。

その点では、日本の不動産も海外不動産も変わらないが、海外不動産においては中古物件のニーズが日本よりも高く、かつ前述の通り減価償却費を多く計上できるため、中古物件を売却した時に利益が出る可能性が高いのである。

そうすると、毎年の確定申告において不動産所得は総合課税なので、減価償却によって課税上のメリットを得ながら、申告分離課税による低い税率というメリットが得られる。総合的に考えて、大きな節税メリットがあると考えられていたのである。

・中古資産の減価償却による節税メリット

中古資産の減価償却制度も、海外不動産投資による節税に拍車をかけていた。日本では考えられないかもしれないが、海外では償却が終わった家屋も一定の金額で売買されている。償却期間が終了した家屋を購入した場合、償却期間は4年となるため、短期間で多額の減価償却費を計上できる。

これにより、総合課税のメリットを短期間で多額に受けられるとともに、最終的な不動産譲渡で得た利益については申告分離課税となるため、短期間で多くの節税メリットが得られるのである。

総合課税の節税メリットが大きい理由は、対象となる全ての所得を合算するため、例えば不動産所得で赤字が出ているならば、給与所得や事業所得の黒字と相殺できるからである。

海外不動産投資による節税の計算例

例えば、1億円の減価償却期間が経過した家屋を購入した場合について考えてみよう。

不動産購入者が高額所得者で、所得税と住民税を合算した総合課税55%が適用されるものと考える。不動産を購入した5年後に8,000万で譲渡したと仮定すると、1億円で購入して8,000万円で売却したのだから、2千万円の譲渡損があると考えられるがどうだろうか。

毎年の減価償却費は約2,500万円であり、その55%にあたる1,375万円の節税ができるので、4年間で5,500万円となる。最終的に帳簿価額がほぼゼロであるが、8,000万円については全額所得として申告分離課税となる。長期の申告分離課税の税率は20%であるから、1,600万円の所得税と住民税がかかることになる。

ここで5,500万円から1,600万円を差し引くと3,900万円となり、損をした2,000万円を超えてしまうのである。つまり、仮に不動産の借り手がつかなかったとしても、購入して5年後に譲渡しただけで1,900万円の利益が得られるのである。この期間誰かに借りてもらえば、その分だけ利益は上積みされるのだ。

海外不動産による節税策は税制改正により封じられた

2020年度の税制改正大綱により、海外不動産を活用した節税スキームが封じられることになったのだが、税制改正大綱に挿入された文章は以下である。

「個人が、令和3年以後の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合において、その年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。」

意味が非常に分かりにくいが、海外不動産による節税スキームのうちの一部が封じられたことになる。海外不動産投資による節税スキームの勘所は、中古資産を購入することにより多額の減価償却費を計上し、不動産所得を赤字にして他の所得と相殺することによって、節税メリットを享受することであった。

しかしながら、2020年度の税制改正により、海外不動産投資で赤字を出して本業の税金を節税し、かつ譲渡所得課税によるメリットを享受することは難しくなった。

海外不動産投資に残された節税メリット

海外不動産投資のメリットが全くなくなったわけではない。税制改正大綱によれば、必要経費に算入されなかった減価償却費については、当該資産を譲渡した際の取得費の計算上考慮されることになる。

また、法人においては、損益通算のメリットを享受可能である。そもそも、法人では不動産による所得とそれ以外の所得を分けないため、法人で物件を所有していれば、不動産の減価償却費の赤字で本業の節税が可能である。

しかしながら、譲渡時においても税率は同じであるため、個人で海外不動産を所有したときのような譲渡所得課税による節税メリットは享受できない。

また、複数の海外不動産を保有しており、一部黒字の海外不動産を保有している場合は、別の物件の赤字と相殺できるため節税メリットがある。あくまで、相殺ができなくなったのは、海外での不動産所得が全体として赤字となった場合だからである。

投資する国の税制はきちんと把握しておこう

海外不動産をとりまく税制は非常に多岐にわたる。今回は、日本国内の海外不動産投資に関わる税制を中心に解説を行ったが、投資先の国の税制もしっかりと把握しておくことが肝要である。

海外不動産投資の投資額が多額になる場合は、通常の顧問税理士とは別に、投資専門の税理士や海外投資先の国の税理士ともコミュニケーションをとって、綿密なタックスプランニングを組み立てておく必要がある。

昨今、海外不動産を利用しての節税といった租税回避行動には国税庁も目を光らせており、節税が脱税にならないよう法律等により認められた範囲で行う必要がある。(提供:THE OWNER

文・内山瑛(公認会計士)