中村 太郎
中村 太郎(なかむら・たろう)
税理士・税理士事務所所長。中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

税理士法において、税務相談は税理士や税理士法人の独占業務として定められている。税理士でない者が行うと、無償であっても税理士法違反にあたる。今回は、税務相談の概要をはじめ、違反に関する罰則や料金、無料で相談する方法などについて解説しよう。

税務相談とは

税務相談
(画像=崇正 魚谷/stock.adobe.co)

税務相談とは、税理士法に定められる税理士の業務の1つだ。

税理士法第2条によると、税務官公署に対する申告や主張、陳述、申告書の作成に関して、租税の課税標準等の計算事項について相談を受けることをいう。

同法第52条によると、税務相談を業として行えるのは、税理士や税理士法人のみとなる。

なお課税標準とは、税金を計算するときに税率をかける値をさす。課税対象となる金額に対し、法令によって認められた控除や特例による減額を行って算定される。

たとえば、個人の所得税であれば各種所得の金額を計算し、繰越控除の適用や損益通算等を行った額から所得控除を差し引いて課税標準を計算する。

税務相談の「相談に応じる」とは

税理士法基本通達2-6によると、税務相談の「相談に応じる」とは、「具体的な質問に対して答弁し、指示し又は意見を表明することをいうものとする」とされている。

一般的な説明だけなら税務相談にあたらないという話があるが、この解釈が判断の基準とされているのだろう。しかし、「具体的な質問に対する答弁」に関する判断が難しいケースもある。

税務相談を「業とする」とは

税理士法基本通達 2-1によると、税務相談を「業とする」とは、「反復継続して行い、又は反復継続して行う意思をもって行うこと」だと示されている。

また、「必ずしも有償であることを要しない」とされているため、無償で行っても他の要件を満たせば税務相談にあたる可能性がある。

税務相談以外の税理士業務

税理士や税理士法人の業務は税務相談以外にもある。

・税務代理
・税務書類の作成

税務代理は納税者の代わりに税務署に税金の申請や申告をする業務であり、税務書類の作成は税務官公署に申告書や申請書、不服申し立てに関する書類を作成する業務をさす。

いずれの業務も、業として行えるのは税理士や税理士法人のみである。

税務相談の料金

税務相談の料金は、1時間5,000円のように時間制の場合もあるが、初回は無料の場合も多い。

ただし、税務相談だけでなく申告書類の作成など、異なる業務も依頼する場合は一般的に別料金となる。

税務相談に関する違法

非税理士(税理士でも税理士法人でもない者)が税務相談を業として行うことは、税理士法違反になってしまう。

同法第18条によると、税理士資格があっても税理士名簿に登録されなければ、税理士とは認められない。

罰金刑の可能性も

税理士法第59条によると、非税理士が税務相談を業として行った場合、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金刑に処される可能性がある。

税務相談の相手が警察に行かなければ問題ないように思えるかもしれないが、違反を察知した国税局が告発することで捜査されることもありえる。

税務書類の作成による税理士法違反で、国税局の告発を機に警察から検挙されるケースはニュースにもなっている。

税務相談の例外

かなり限定的であるが、税理士法には非税理士でも税務相談に応じられる例外が定められている。

逆に該当しないケースでは税務相談を受ける根拠がない。例外的に非税理士が税務相談に応じられるのは下記のケースである。

・臨時許可

地方公共団体の職員及び公益法人などが国税局長の許可を受けて、申告時期や災害時などにおいて2ヶ月以内に限り、指定された税金について無報酬で申告書等の作成及び関連する課税標準等の計算事項の相談に応じる場合(同法第50条)

・通知弁護士、通知弁護士法人

弁護士又は弁護士法人が、所属弁護士会を経て国税局長に通知することにより、その国税局の管轄区域内において、必要に応じて税理士業務を行う場合(同法第51条)

・行政書士又は行政書士法人

行政書士や行政書士法人が他人の求めに応じ、ゴルフ場利用税や自動車税、軽自動車税、事業所税その他政令で定める租税に関し、税務書類の作成を業として行う場合(同法第51条の2)

・税務職員

国税や地方税に関する行政事務従事者が、必要な範囲内で事務を行う場合(同通達2-1)

税務相談が違法になる理由

税務書類の作成や税務代理については、税理士法を知らなくても違反になることはわかりやすい。では、税務相談は何が問題なのだろうか。

税理士法第1条では、税理士の使命について定められている。税理士の使命とは、独立した公正な立場で申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼に応え、納税義務の適正な実現を図ることだと示されている。

つまり税務相談は申告の基礎であり、税務相談の答弁によって相談者の申告内容や納税額が変わってしまうのだ。

そのため、税務相談に応じる者に正しい知識がなければ、正しい申告・納税が実現できなくなってしまう。したがって、非税理士が税務相談に応じられないというわけだ。

しかし、正しい情報を伝えられるなら問題ないようにも見える。もし税務相談を一般に広く認めると、税制の隙をついた脱税のアドバイスを行う者が現れるだろう。

センセーショナルなアドバイスで私腹を肥やす者が出てくれば、無責任な情報が蔓延する。仮にその時は合法だったとしても、税制改正とのイタチごっこになれば、振り回されるのは一般の納税者である。これでは納税者の信頼に応えることにはならない。

最悪なのは、税務相談で誤った情報を与えられた納税者が損をすることだ。誤った節税策が税務調査で認められず申告漏れとなれば、納税者にペナルティが与えられるほか、社会的な評価を下げてしまう。

税理士には業務上の善管注意義務があり、税務相談で義務に反して納税者に損害を与えれば、賠償責任を負わなければならない。

納税者の信頼に応える答弁をし、責任を負える者が税理士のあるべき姿である。

顧問税理士が応じる税務相談

個別の契約内容によるが、会社に顧問税理士がいる場合、一般的な顧問契約(と筆者が考えるもの)であれば、税務相談は顧問料に含まれる。

たとえば「機械が古くなってきたから、改修や買い換えに迷っている」という相談があったとする。

一般的には中小企業であれば優遇税制の適用、消費税の免税事業者であれば還付の検討などを具体的に提案すると思うが、このあたりは顧問料の範囲内だろう。

しかし、社長から母の相続税対策について相談があった場合、会社の顧問契約外なので別料金になる。では、会社の顧客に関する税務相談はどうだろうか。顧問契約の対象外であるが、ケースバイケースでもある。

たとえば、住宅を購入した顧客に対して住宅ローン控除の計算をすることは、顧問契約の範囲では受けられない。

しかし「このようなお客様がいるけれど、住宅ローン控除を受けられるか」「確定申告に備えて用意すべき書類をどのように助言すればよいか」といった質問であればアドバイスを行うと考えられる。

税務相談を無料でする方法

税務相談に無料で応じている税理士法人や税理士事務所を探すほか、税理士会の無料相談を利用したり、税務署で相談したりする方法もある。

方法1.税理士会の無料相談

各地にある税理士会では、所属する税理士が無料相談会を実施している場合がある。随時受けている場合もあれば、説明会を不定期に開催している場合もある。

無料相談を利用したい場合は、日本税理士会連合会や地域の税理士会のホームページで詳細を確認していただきたい。

方法2.税務署の相談

税務署の職員に申告等に関する税務相談をしてもよい。相談には事前予約が必要となるので、納税先の税務署に確認していただきたい。一般的な質問は、国税局電話センターでも受け付けている。

税務相談のトラブルには注意しよう

税務相談を業として行うことは、税理士や税理士法人しか認められず、違反すれば懲役刑や罰金刑に処される可能性がある。

しかし、税務相談の「具体的な質問に対する答弁」に関する判断が難しいケースもあり、不安に感じている経営者もいるのではないだろうか。

たとえば、住宅や保険、金融商品の販売業などは、顧客に対する税金の話は実際のところ避けられないだろう。

何かのきっかけで、税理士でない担当者が税金の話をしてしまった結果、損害を与えるトラブルにつながるケースもある。会社は、税理士でなくても説明できる範囲を検討し、スタッフに周知する必要があるだろう。

判断がつかないときは税務署に相談することで、一般的な解釈を教えてくれるはずだ。それでも判断できないときは税理士の無料相談を案内し、トラブルを防止することが大切である。(提供:THE OWNER

文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)