ビジネスでは経営戦略という言葉を耳にするが、具体的に何を指すのだろう。経営理念や経営戦術などとの違いも気になる。今回は、経営戦略の定義をはじめ、関連用語や作り方、代表的なフレームワークについて説明していく。経営戦略を練るときぜひ参考にしてみてほしい。
目次
経営戦略とは?定義や関連用語との違い
経営戦略のほかにもさまざまな指針があり、混同してしまいがちだ。具体的には、長期的な視野に基づく経営理念、戦略目標の達成に向けた具体的な手法を指す経営戦術、戦術を計数化した経営計画などがある。
経営戦略の定義を含めて、関連用語について整理する。
経営戦略とは
経営戦略とは、企業が活動を持続させるための中長期的な行動方針だ。企業が保有する「人材」「設備・製品」「資金」といった経営資源には限りがあるため、経営戦略ではどの事業にどれだけ経営資源を分配するかを判断する指針となっている。
高度成長期には日本の多くの製造業は、高品質・低価格の製品を大量に販売する戦略で成長してきた。しかし20世紀末以降の金融危機や国際競争の激化を経て各企業は、自社の立ち位置に応じて事業を展開しなければ生き残れない。
現在の経営環境や競合の状況などを考慮しながら目標を決め、実現に向けた経営戦略を策定する必要がある。さらに異業種からの参入や新興企業の出現、経済環境の変化など市場をとりまく環境は目まぐるしく変わっていく。そのため会社を存続させるには、現在の状況だけでなく将来を見通したうえで経営戦略を立てることが重要だ。
経営理念
経営理念とは、企業の基本的な目標を文章化した考え方であり、一般的にミッション・ビジョン・バリューに分かれている。
【ミッション】
ミッションは、企業として実現すべき使命であり、企業の存在意義を示す。
【ビジョン】
ビジョンは、企業が実現しようとしている世界観であり、自社が目指すあり方でもある。
【バリュー】
バリューは、企業が社会に提供していく価値を示す。いずれも、現在の延長線上にあるが、長期間にわたって追い求めていく考え方だ。したがって、経営理念は長期的な視点で作ることをおさえておきたい。
経営戦術
経営戦術とは、企業が戦略に基づいた方策を実施するにあたり、戦略目標の実現に向けた具体的なアクションである。
経営戦術は、経営理念・経営戦略のように観念的ではない。現在の状況を加味しながら、実際の行動にまで落とし込む。経営戦術は、経営戦略と相反することがある。経営戦略の目標点を踏まえて経営戦術を立てるようにしたい。
経営計画
経営計画とは、経営戦略・経営戦術の達成度を数値で測れるようにした計画である。具体的な指標として、財務数値やKPI(キーパフォーマンスインジケーター)を定める。ちなみに、KPIは組織の目標達成に必要な業績評価の指標を指す。目標値とギャップが生じた場合、組織の行動を見直さなければならない。
このように、経営計画は定量的な性質を持つが、経営戦略・経営戦術の変化によって内容を変える必要がある。
経営戦略が求められる背景と必要性
今、経営戦略が必要な理由は何だろうか。求められる背景と必要性について見ていこう。
ボーダレス化したビジネスの急激な変化に対応する
経営戦略が求められる理由は「企業を取り巻くあらゆる変化に対応できるように経営のかじ取りをするため」だ。上述したように高度成長期は、各企業が自社に合わせた経営戦略を練らなくても高品質・低価格・大量販売というビジネスモデルで経営を存続させることができていた。しかし現代は、あらゆるビジネスで国や業種の垣根を超えた競争が激化している。
消費者のニーズは、成熟した社会の中で多様化しているため、過去に成功した経営手法にこだわりすぎると企業はあっという間に淘汰されかねない。またビジネスがボーダレス化していることから国内外の政治・経済の動向は、ダイレクトに経営に影響を及ぼす。国際社会の均衡に変化が生まれつつあるため、企業にもマクロ的な視点に立った経営が求められているのだ。
企業を取り巻く環境が急速なスピードで変化するなか、自社が生き残るには単に今の方法を効率化するだけでは不十分である。既存の事業内容を取捨選択したり会社組織を再編成したりするなど大きな改革が求められるだろう。
経営戦略を立てて経営資源を正しく使う
大きな改革を断行するには、当然資金をはじめとする経営資源を投入することになるが、限りある経営資源をどのように使うか、慎重に見極める必要がある。「経営戦略」とは、経営資源の使い方を示すことにほかならない。経営資源は、自社を成長・存続させるために経営資源を正しく使わなければ底をつき会社が存続できない可能性もある。
経営戦略は、現状を分析し将来を予測したうえで立案していくため、実行するなかで変更を余儀なくされることもあるだろう。そのため「当初の想定通りに進行しているか」について、途中で検証し修正を入れながら進めなければならない。
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経営戦略の3つの段階
経営戦略を立てる際には、戦略全体の構造をイメージする必要がある。経営戦略には「企業戦略・事業戦略・機能別戦略」の3つの段階があるため、それぞれがどのような戦略に該当するのか確認していこう。
1.企業戦略
企業戦略(全社戦略)とは、会社全体の方向性を定める戦略のことである。例えば「どの事業に注力すべきか?」や「どういった成長を目指すか?」のように、企業戦略では中長期的な目標を定めていく。
経営戦略の軸とも言える戦略なので、ほかにも経営理念やビジョン、事業の基本構成、経営資源配分なども考えておく必要がある。
2.事業戦略
企業戦略を策定したら、次はその内容を踏まえて事業戦略を策定していく。事業戦略とは、自社が取り組む各事業について領域や資源配分などを定める戦略のことだ。
企業の収益性に関わる戦略なので、特に「事業モデルの設定」や「市場・顧客分析」は慎重に行う必要がある。
3.機能別戦略
3つ目の機能別戦略は、社内の機能組織を最適化させるために策定する戦略である。機能別戦略では、例えば研究開発や営業、生産、マーケティング、人事などの分野に分けて、それぞれの機能組織で実施する施策などを考えていく。
上記の企業戦略・事業戦略を達成するために必須の戦略となるので、機能別戦略は細かい部分まで突き詰めることが重要になる。
経営戦略の作り方
経営戦略は、ビジョン達成に向けた具体的な活動を示す。現在の状況をしっかりと見据えたうえで、将来に向けた着実な方向性を示さなければならない。ここからは立案の手順を紹介しよう。
経営戦略を立案する手順
経営戦略を立案するには、まず全社戦略を決定する。その後、事業ごとに戦略を立案していく。全社戦略と事業別戦略を立案するステップは共通している。具体的な流れは以下の通りだ。
ステップ1.自社の現状を分析
自社が置かれている状況をできるだけ客観的かつ定量的に分析する。分析にはフレームワークの利用が便利だ。ただし、自社の状況に合致したフレームワークを使用することが重要である。
ステップ2.自社の目指す目標を設定
現状分析に基づいて自社の目指す目標を定める。
ステップ3.目標実現に向けて戦略を明文化
目標を現実化するために実施内容を明文化する。
ステップ4. 進捗度の指標を設定
達成すべき目標を定量的に図るために、進捗度の計測に必要な指標を設定する。例えば、事業シェアやユーザー満足度、売上数量など、定量的に計測できる指標だ。
経営戦略の代表的なフレームワーク
経営戦略に関するフレームワークは、さまざまな経済学者から提言されている。早速、代表的なフレームワークについて紹介しよう。
SWOT分析
SWOT分析は、会社の現状を内部環境・外部環境の観点から分析するフレームワークである。
SWOTはStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、脅威(Threat)の頭文字で成り立つ。内部環境を「自社の強み・弱み」、外部環境を「自社を取り巻く機会・脅威の観点」から情報を整理し、経営戦略を検討していく。
SWOTで自社の状況を整理したら各事象を掛け合わせる。いわゆるクロスSWOT分析であり、SWOT分析より一歩踏み込んだ戦略を立案できる。
掛け合わせる組み合わせは下記の通りだ。
強み×機会:自社の持つ強みを生かして機会による利益を最大化する
弱み×機会:自社の弱みを克服して機会を生かす
強み×脅威:自社の強みで脅威を乗り越える
弱み×脅威:自社の弱みを把握して脅威による悪影響を回避する
5force(ファイブフォース)分析
企業の事業環境を5つの競争要因に分類して分析するフレームワークである。企業のポジショニングを理解したうえで自社の戦略を立てることを主眼とするポジショニング学派の流れを受けたマイケル・ポーターが提唱した。
5force分析は、外部環境との競争要因が企業の収益力に大きな影響を与えるという考え方に基づく。具体的な要因は下記の通りだ。
要因1.新規参入の脅威
新規参入者に対する参入障壁の有無に関する観点である。新規参入する企業が多いと、業界全体の生産力が高まる。それにともない商品価値を高めたり、価格設定を見直したりしなければならない。
要因2.既存企業との競争
既存同業他社との競争に関する観点である。業界内での序列や需要・供給の状況、同規模程度のプレーヤー数などに着目する。
要因3.売り手の交渉力
自社のサービスを提供するにあたり、商品を仕入れなければならない。仕入をする供給業者(売り手)の交渉力が売上原価に影響し、収益力を左右する。売り手が業界で強固なポジションを築いている場合や、売り手の業者数が少ないケースなどに仕入れコストが高くなる。
要因4.買い手の交渉力
自社の製品・サービスを購入する顧客(買い手)の交渉力も収益力を左右する。自社の製品・サービスが差別化されていないと、販売時の利益率は圧迫される。買い手のバイイングパワー、スイッチングコスト、情報量などが変動要因となる。
要因5.代替品や代替サービスの脅威
自社の製品・サービスの価値を代替できる存在は収益を左右する要因となる。代替品とのコストパフォーマンスの差や、スイッチングコストなどが変動要因となる。
3C分析
3C分析は、自社を取り巻く市場環境を分析するときに役立つフレームワークだ。顧客・市場(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の頭文字をとって名付けられている。
視点1.顧客・市場(Customer)
顧客・市場では、自社が対象とする市場の規模や推移をマクロ的視点から整理するとともに、顧客のニーズや行動を分析する。
視点2.競合(Competitor)
競合で分析する内容は下記の通りだ。
・自社の競合となる企業を特定
・競合のビジネスにおける結果(売上・シェア・利益率など)
・競合におけるビジネスの結果に関するリソース(資金・人員・商流・商材など)
・リソースと結果の関係性
視点3.自社(Company)
自社が提供するビジネスの価値、価値を生み出すリソース、リソースと結果の関係性について分析する。各分析によって成功要因を模索すれば、自ずと自社の経営戦略が見えてくるだろう。
PEST分析
経営戦略を立てる際は、環境分析が重要だ。またビジネスを取り巻く環境は、大きく分けると「外部環境」と「内部環境」の2つある。そのなかでもPEST分析とは、自社を取り巻く外部環境を分析する際に用いるフレームワークだ。PESTとは、外部環境のなかでも自力では制御できない「マクロ環境」の構成要素である以下の各頭文字をとったものだ。
・P:Politics(政治)
・E:Economy(経済)
・S:Society(社会)
・T:Technology(技術)
PEST分析を通じて自社の事業活動に影響を与える要因を探ることで将来の予測や新規事業の参入タイミングを判断できる。PEST分析で用いる4つの要因とその例は以下の通りだ。
P(政治的要因):法律や税制、政治の動向など
・法改正による規制緩和または強化
・増税または減税
・政権交代
など
E(経済的要因):景気や物価、消費動向、経済成長、為替や株価など
・原油価格の高騰
・円高または円安
・消費者物価指数
など
S(社会的要因):人口動態や流行、宗教、教育など
・少子高齢化
・SDGsやエコライフ指向の浸透
・コロナ禍による生活様式の変化
など
T(技術的要因):新技術の開発や特許、インフラ、ITなど
・AI技術の進展
・クラウド
・スマートフォンやタブレット向けアプリの活用
など
PESTの各要因を洗い出した後は、それぞれが今後どのように変化するか見通しを立てることが重要である。なぜなら見通しによって新たな可能性や市場の発見につながるからだ。また見通しを立てた結果、リスクが見つかったときもリスクの解消方法を探してチャンスにつなげる視点を持っておきたい。
STP分析
STP分析は、マーケティング戦略を立てるときに使われるフレームワークのひとつである。自社の商品やサービスをどのような顧客に向けて売れば利益を上げられるか分析するものだ。STPとは、以下の英語の頭文字を取ったものである。
・セグメンテーション(Segmentation):細分化
・ターゲティング(Targeting):狙う市場の決定
・ポジショニング(Positioning):自社の位置づけ
STP分析の目的は、これら3つの作業を通じて自社の強みや狙う市場における自社の位置づけを明確にすること。一般的に「セグメンテーション→ターゲティング→ポジショニング」の順番で行われ戦略に反映される。
1 セグメンテーション(細分化)
セグメンテーションとは、顧客の性別や居住地、ライフスタイルなどさまざまな指標にもとづいて市場をグループ化する作業だ。年齢や性別、居住地、ライフスタイル、買い替えのタイミングなどの指標がよく用いられる。
2 ターゲティング(狙う市場)
ターゲティングとは、細分化した市場の中からターゲットとする市場を選ぶ作業だ。ターゲティングの方法には、主に以下の3つの方法があり、自社の商品・サービスの強みが活かせる方法を選ぶ。
・差別型マーケティング:細分化した市場それぞれに対し、複数の商品を投入する
・集中型マーケティング:特定の市場に絞って商品を投入する
・無差別型マーケティング:細分化を無視して市場全体にひとつの商品を投入する
3 ポジショニング(自社の位置づけ)
ポジショニングとは、ターゲットとした市場の中で競合と自社を比べて自社の立ち位置を決める作業だ。価格や品質、販売チャネル数などの軸をもとに競合市場と自社を位置づける。
経営戦略成功のポイント
経営戦略を成功に導くには、次の5つのポイントが重要だ。
優先順位を決める
さまざまな課題があるなかで経営資源をどの課題にどれだけ配分するのか、優先順位を決めることが重要である。なぜなら経営資源は無尽蔵にあるわけではないからだ。例えば複数の事業を手がけるなかで経営資源を配分する優先順位をつける場合を考えてみよう。この場合、自社の市場位置や市場の成長性などをあぶりだし今後も自社経営を持続かつ成長が見込める事業に投資しなければならない。
もちろん自社のビジョンや中期的な目標数値が達成できるような資源配分を行うことが重要だ。
事業領域の明確化
「事業領域の明確化」とは、以下のような事項を定義することだ。
・商品・サービスを提供する顧客層
・提供する商品・サービスの内容
・商品・サービスが顧客に与える価値・機能
自社の事業領域を明確にすることで上述した優先順位を決めやすくなり、経営資源を集中させるべき事業分野が明確になるだろう。また誰にどのようなものを提供するのか打ち出すことは、企業の存在意義やブランディングにもつながる。さらに3つの事項を全社で共有することも重要だ。なぜなら社内全体で事業領域を共有すれば従業員と経営者が同じ方向性で事業にまい進できるからだ。
なお事業領域は、一度決めればよいわけではなく社会や市場の変化に対応させる必要がある。事業領域を変えることで商品やサービスの見直しなどのきっかけになるだろう。ただし頻繁な変更は、社内の混乱を招くため、事業領域は5~10年ごとに見直すことが望ましい。
経営理念に基づいた戦略
経営理念とは企業が事業を営む目的を定めたもので、経営理念を実現するための方向性を定めたものが経営戦略だ。つまり経営戦略を立てる際は、必ず経営理念の実現を目標にしなければならない。経営理念があいまいなままでは、何を実現するための経営戦略なのか目標がしっかりと定まらないだろう。
例えば「経営理念を策定していない」「経営理念に経営者の思いが十分落とし込めていない」といった場合は、経営理念を固めることから始めなければならない。明確な経営理念があって初めて「理想である経営理念と現状のギャップを埋めるためにどうすればよいか」という視点に立ち経営戦略を立てることができるのだ。
IT戦略
経営戦略を遂行するうえでITの活用は不可欠なことから、経営戦略にIT戦略は盛り込んでおきたい。なぜなら製造や物流の過程、経営資源の管理など企業のあらゆる活動においてITの力を借りることで効率化と最適化が実現できるからだ。ひとくちにITといっても活用する場面によって導入すべきシステムは異なる。
例えば販売力強化には、営業支援ツールや顧客管理システムの導入が必要だ。また経営資源の管理には統合基幹業務システムが有効である。システムの導入は、多額の投資が必要になるが投入できる資金は有限なため、IT戦略においても社内で重点的に進めるところを決める必要がある。
自社の強みを生かす
経営戦略を立てる際、自社の強みを生かすことを念頭に置いておきたい。「自社の強み」とは、具体的に以下のようなものがある。
- 商品力、技術力、接客力など顧客からの支持に関するもの
- 営業力やPR力など売上に関するもの
- 社員の若さ、借金ゼロなど1と2以外のもの
経営戦略を立てる際は、これらの3つの視点で自社の強みを洗い出したうえで「自社の強みを伸ばすには何をすればよいか」について考えておきたい。経営戦略の最終的な目標は「経営を継続させること」である。そのためには、強みを伸ばすことが合理的だ。5つのポイントは相互に影響しあう関係にある。
「事業領域を明確化すれば優先順位が決まる」「事業領域の明確化や優先順位の決定には、経営理念がしっかりしていることが必須」という具合に、各ポイントをクロスチェックしながら経営戦略を立てよう。
代表的な経営戦略
経営戦略には、さまざまな方法があるが、ここでは代表的な6つの経営戦略について解説していく。
①差別化戦略
②多角化戦略
③集中戦略
④ブルーオーシャン戦略
⑤グローバル戦略
⑥コストリーダーシップ戦略
①~⑤は、経営資源を投入するところの違いによる分類だ。目標も市場における優位性の確保や収益の安定化など戦略によって異なる。⑥は、コストダウンを図ることで競合他社よりも優位に立ち、利益も確保する方法だ。
差別化戦略
差別化戦略とは競合他社と異なる点をつくり、業界全体の中で優位な位置を占めることで価格が高くても買ってもらえるようにする戦略だ。具体的には、以下の3つの方法を組み合わせて差別化を図る。
差別化戦略のメリットは、成功すれば競合他社との値下げ競争に巻き込まれず利益を確保できることだ。しかし差別化戦略によってこれまでの地位を失うリスクもある。例えば新たな商品やサービスに現行品よりも高い価格をつけて送り出した場合、既存の顧客が離れてしまうケースだ。差別化戦略を実行する際は、市場調査やニーズの把握に時間をかける必要がある。
多角化戦略
多角化戦略とは、新しい製品や市場に自社の経営資源を投入する戦略だ。多角化戦略が必要とされる背景には「ひとつの事業だけで経営を続けることはリスクが高い」ということがある。消費者ニーズの多様化やひとつの製品・サービスの短命化、競合との競争の激化などにより、複数の事業を展開して収益の安定化を図る必要がある。多角化戦略は、次の4種類に分けることができる。
多角化戦略は、複数の事業を手がけることで経営上のリスクを分散できることもメリットのひとつだ。消費者のニーズの変化が早い時代において単一事業で経営を続けるのはリスクが高い。しかし多角化戦略なら一つの事業が順調に進まなくても他の事業でのカバーが期待できる。ただし新規事業を展開する際は、失敗したときの損失を抑えるため、スタート時の経営資源の投入は最小限にする配慮が必要だ。
集中戦略
集中戦略とは、経営資源を特定の市場や製品、顧客、流通チャネルなどに集中的に投入する戦略だ。例えば自社の技術力やブランド力を発揮できる市場を絞り込み、商品を投入するといった方法が挙げられる。戦略の目的によって「コスト集中戦略」「差別化集中戦略」の2種類に分かれ、そのどちらかひとつを選ぶか両方を併用する。
・コスト集中戦略:コストの削減または高付加価値化を目指す。ターゲットとなる顧客を絞りこむ
・差別化集中戦略:他社との差別化を目指す。企業・商品の独自性を強化する
特定の顧客などに経営資源を集中させることで少ない資源でも競合他社に競争で勝てる可能性が高くなる点は、大きなメリットだ。しかしコスト集中戦略の場合は、競合に対して優位性を保つためにコスト面での戦略を徹底する必要があり利益率の低下を招く恐れがある。また差別化集中戦略の場合は、独自性を高めるあまりターゲットが狭くなってしまいかねない。
結果的に利益を得るための価格設定に苦労するケースがある。
ブルーオーシャン戦略
ブルーオーシャン戦略とは、従来存在しなかった市場を新たに作り出し事業を展開する戦略のことである。競合がひしめき、し烈な競争が繰り返されている事業領域を「レッドオーシャン」と呼ぶのに対して競合のいない新しい市場を「ブルーオーシャン」と呼ぶ。ブルーオーシャンは、競合がいない状態のため、競争が起こらない。
ブルーオーシャン戦略では、新たな価値を顧客に提供すると同時に提供の方法を工夫することで低コスト化も図ることができる。つまり企業と顧客がwin-winの関係になれるのだ。ブルーオーシャン戦略のメリットは「競合相手がいないため価格競争に巻き込まれにくい」「自社のブランド力を高まる」といった点が挙げられる。
ただしブルーオーシャン戦略での成功は、他社に目を付けられる点も忘れてはいけない。後発企業に模倣されレッドオーシャン化するリスクをはらんでいる。長期的に優位な位置を保つためには、綿密な計画と後発企業による模倣への対策が欠かせない。また新しい価値を顧客に伝えるための販売スキルも必要だ。
グローバル戦略
グローバル戦略とは、世界をひとつの事業展開のステージとして考える戦略だ。世界をひとつの市場としてとらえるなら自社の製品やサービスの販売をグローバル戦略と呼ぶことができる。少子高齢化や人口減少の影響で国内市場が縮小するなか自社の製品やサービスが海外でも売れる可能性があるなら積極的に行いたいものだ。
また世界を事業展開に必要な経営資源を調達する場としてとらえるなら、物価の安い国に拠点を置くこともグローバル戦略と呼べるだろう。競争力を高めるため、人件費や原材料費などのコストを削減することは重要だ。グローバル戦略をとるにあたり押さえておきたいポイントは、次の2点である。
・準備から進出後までの計画立案
海外展開の準備として担当者の配置や進出先候補の調査が必要だ。こうした準備には、数年を要することが多いため、準備期間も含めて綿密に計画を立てておこう。また準備に必要な予算や進出してから利益が出るまでの損益の見通しなど資金面の見積もりも必要となってくる。
・自社の強みや課題の分析
自社が海外で生かせる強みや海外進出にあたっての課題の洗い出しも必要だ。海外進出に際して課題に上がることが多いのは、人材面である。例えば「社内で海外進出の担当者をどう育成するのか」「現地で採用する人材をどのように確保するのか」などを考えておく。場合によっては、現地のパートナー企業を探すことも視野に入れておこう。
コストリーダーシップ戦略
コストリーダーシップ戦略とは、製品やサービスの提供に必要なコストを競合他社に比べて低く抑え他社よりも安い価格で製品やサービスを提供しつつ、利益も確保して競争に勝つ戦略だ。原価を抑えるには、原材料の直接仕入れや生産工程の効率、大量生産による単価の引き下げなど、さまざまな方法がある。
コストリーダーシップ戦略のポイントは、原価を抑える仕組みを整えることで他社と同等のクオリティを維持しながら低価格を実現することだ。品質と価格の両面で、顧客に他社よりも高い付加価値を提供できるだけでなく、利益率を高められる点もメリットとなる。しかし価格を下げることで競合他社との価格競争に発展するケースもある。
価格競争に陥ると結果的に利益率の低下を招きかねない。また価格と品質のバランスを誤ると顧客に「価格相応の品質しかない」というイメージを与えるリスクもあるため、注意したい。
国内の優れた事例から学ぶ、経営戦略策定のポイント
経営戦略については、実際の事例からも策定のポイントを学べる。ここからは国内の優れた事例をまとめたので、自社のケースと照らし合わせながら参考にしていこう。
【事例1】多角的な経営戦略で売上回復/マクドナルド
2015年に過去最大の赤字を記録したマクドナルドは、売上回復を目指すために以下のような経営戦略を実行した。
・仕入れや加工、販売にかかるコストの削減(コスト・リーダーシップ戦略)
・SNSを利用したキャンペーンの実施
・従業員の賃金上昇
・不採算店舗の閉鎖
上記はいずれも「全社的な売上回復(企業戦略)」につながる施策であり、機能別戦略まで細かく落とし込まれている。
例えば、従業員の賃金上昇はモチベーションアップ、ひいてはサービスの向上につながるので、結果的に顧客の満足度を高められるはずだ。不採算店舗の閉鎖についても、清潔な店舗や競合の少ない店舗のみを残すことで、効率的な収益体制を築けるようになる。
このように、ひとつの目標のために多角的な戦略を打ち出す姿勢は、中小企業もぜひ参考にしておきたいポイントだろう。
【事例2】テーマを基にした戦略の策定/ニトリホールディングス
主にインテリアの小売業を営むニトリホールディングスは、2022年までに売上高3兆円かつ1,000店舗を目指すための「10ヵ年テーマ」を掲げている。この経営戦略において参考にしたいポイントは、以下のように重点方針と重点課題を細かく設定している点だ。
上記のような方法で会社全体の方針を定めると、経営戦略の方向性が分かりやすくなる。具体的な施策に落とし込むことも容易になるので、特に事業基盤や組織体制が複雑化している企業は、経営戦略に関するテーマから設定してみよう。
経営戦略の基本を学べるおすすめの書籍
経営戦略の基本を学ぶ方法としては、ビジネス書の活用も効果的である。策定のプロセスで迷っている方は、以下で紹介する書籍もぜひ参考にしよう。
1.P&G式「勝つために戦う」戦略
経営戦略の重要性から学びたい場合は、A.G.ラフリー氏(P&GのCEO経験者)とロジャー・マーティン氏(経済学者)が書き上げた本書をすすめたい。本書ではP&Gの躍進の軌跡を追いながら、経営における戦略の重要性が説かれている。
また、経営戦略の基本的な立案フローや、論理的な考え方を学べる点も本書の魅力だ。初歩的な部分から分かりやすくまとめられているため、経営の経験が浅くても問題なく読み進められるだろう。
2.経営戦略全史
約100年間の経営戦略の歴史がまとめられた本書は、「とにかく事例を知りたい」という方に適している。主要な経営戦略だけではなく、その戦略が生まれた背景やストーリーも盛り込まれているため、楽しみながらこれまでのビジネス史を学べる。
本書は主に経営戦略の入門書として活用されているが、最新の経営戦略までしっかりと紹介されている。どのようなレベルの経営者でも新たな気づきを得られるので、経営戦略のヒントをつかみたい場合はぜひ活用したい。
3.グラント現代戦略分析
ロバート・M・グラント氏(アメリカの経営学者)が著者の本書は、欧米の大学院などで教科書として活用されている。戦略の根本的な役割から、現代ビジネスへの応用方法まで幅広く学べるので、さまざまなレベルの経営者に役立つ1冊だろう。
中でも特筆すべきポイントは、分かりやすい事例や最新の議論が盛り込まれている点だ。さらに引用元も正確であるため、経営戦略に関する確実な知識を身につけられる。
経営戦略は中長期的な視点を忘れずに立案
以上、経営戦略の概要をはじめ、立案方法や代表的なフレームワークなどを説明した。経営戦略は自社の経営理念に定めたビジョンを実現するための具体的方策である。
企業の業績や利益に目が向いてしまいがちだが、経営理念を中長期的な視点で実現させる手段であることを忘れず、方向性がブレないよう丁寧に練ってほしい。
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文・村上英輝(フリーライター)
(提供:THE OWNER)