宮崎,農家,ロボット開発
(写真提供:AGRIST株式会社)

現在、日本の農家では、生産しても収穫する人がいない、収穫作業があるから休めないなど、慢性的な人手不足により、収穫できずに収益が減少しているという。その課題をロボット開発で解決しようとする会社がAGRIST(アグリスト)株式会社である。農家のリアルな声を生かした、注目の自動収穫ロボットの開発ストーリーや農家を幸せにする次世代の農業などをAGRIST株式会社 代表取締役 兼 最高経営責任者の齋藤潤一氏に伺った。

九州を地盤に自動収穫ロボットを販売 JAや自治体との連携で地域に根差した事業展開

永井 ロボットの開発は、ビニールハウスの中で行っているとご説明いただきましたが、ビニールハウスの外でのロボット化というのは、まだ進める予定はないのですか?

齋藤 ロボットの最大の敵が気候であるため、露地栽培はなかなか難しいですね。

永井 ビニールハウスの中で、今のロボットをどんどん活用して、特許も申請して世界中に販売していくということですが、実際に販売はどのくらい進んでいらっしゃいますか?

齋藤 部品の調達とか採用の部分も含めて、今は宮崎県内で進めようと思っています。宮崎県内では販売のめどがついていますので、宮崎でしっかりと実績を上げて全国の主要産地に展開していく予定です。

永井 やはり九州を地盤にという形ですかね。

齋藤 そうですね。まずは九州で展開する予定です。現在はJAのアクセラレータに採用されています。宮崎で成功事例を増やして、あとはJAさんや自治体と連携して全国展開していく予定です。我々がやっているのは、まさに持続可能にするための地方創生事業であって、地域に根差した、地域に密着した事業を目指しています。

ゴールが同じ大手企業と業務提携 さまざまな企業とも提携を進める

永井 連携の部分についてお伺いします。JAさんや自治体と連携して進めていくのはイメージしやすい部分ですが、パートナーさまにエネルギー事業を展開する大手企業がいらっしゃるのはなぜでしょうか。どのようなつながりで業務提携に至ったのでしょうか。

齋藤 私たちは、持続可能なまちづくりとか、社会づくりを掲げてやっています。そこで考え方が合致したというのは、すごく大きかったと思います。

永井 考え方が合致したということですが、大企業は特に、SDGs、CSRの部分で、このような地方創生の部分にも力を注いでいるところが多いと思います。他の大企業と、連携の話し合いが進んでいますか?

齋藤 ありがたいことに、いろいろな企業さんからアプローチをいただいています。その要因としては、我々の事業が地域に根差しているということです。農場の隣に開発拠点があるというところが、地域での強みだと思うのです。そこを非常に高く評価をいただき、たくさん企業の方々からアプローチをいただいたり、実際に農場に見にきていただいたりしています。

永井 実際にアプローチされているということですね。1粒1,000円のライチがヒットして、百貨店の方々とかにお声かけいただくようになったということをお聞きしましたが、そうではなくて、ロボットに関心があってアプローチされているという形でしょうか?

齋藤 1粒1,000円のライチとはまったく別で切り離し、農業用ロボットの未来というところにすごく注目していただいていますね。

永井 他社さんの話になりますが、日産自動車さんが農業用ロボットを使って露地栽培でロボット化を進めようとしていったん中止したものの技術提供はする、というニュースを見ました。そのような他の会社さんと技術提携などを検討されていますか?

齋藤 パナソニックアプライアンスから賞をいただいたり、KOBASHI HOLDINGS(コバシホールディングス)から賞をいただいたりしています。そのような会社さんと連携してやっていこうということは、我々も積極的に考えています。 

ビジョン・ミッションと目の前での課題解決が魅力 優秀なエンジニアを確保

宮崎,農家,ロボット開発
(写真提供:AGRIST株式会社)

永井 宮崎は地方都市で、しかも人口が少ないと思いますので、開発に関しても人を集めるのとか、大変だったのではありませんか。どのようにして開発人材を集められたのですか。

齋藤 人材においては幸い、我々の「テクノロジーで農業課題を解決する」という意図、ビジョンとミッションに共感してくれる人がたくさんいて、応募をたくさんいただいています。東京で働くというのも、すごく魅力的ではありますが、今、コロナなどもあったりして、時間と場所に関係なく開発できるようになってきました。多様な働き方や生き方を許容しはじめているのも大きいです。

そのうえで、農業の課題を解決するとか、ビジョンやミッションなども含めて、やっぱり目の前で課題が解決できるということは、エンジニアにとって大きな魅力で、すごく大きなポイントになっています。

永井 やっぱりビジョンとミッションに共感していただいて、開発人材が集まったのですね。

齋藤 エンジニアにとっても、目の前で課題が解決できているというのは、非常におもしろいと思いますよ。都会でやっていると、ロボットをどこかに送って、動いているのを見て、という感じになると思います。今、うちのエンジニアは、どんどん農場に行って、農家さんと一緒にディスカッションしながら開発しています。

ビニールハウスでの農業につながる 再生可能エネルギーの活用を目指す 

永井 次に未来についてお話を聞かせていただければと思います。   ミッションとビジョンで地方創生、食に関する課題解決というところは、みなさんすぐに理解できると思いますが、ほかの企業さまも、もしかしたらロボットベンチャーとしてどんどんあがってくるかもしれないですし、課題解決プラスαで、何かしたいことはありますか?

齋藤 再生可能エネルギーを活用した農業ですね。それはすごく考えています。これから地球温暖化がどんどん進んでいって、ビニールハウスの電気代がものすごく高くなるでしょうし、露地栽培がすごく困難になってくるわけです。

そのような中、太陽光発電を使ったビニールハウスとか、施設園芸をすることができれば、ものすごく農家にとってもプラスになります。しかも、地球環境に負荷をかけないモデルでも農業をやることができるというのは、我々が目指していることです。それに関しても、農家と一緒に話し合いながら進めていることで、圧倒的な競争優位性は出せると思っています。

農家の概念が変わることにより、稼げる農家も増える?!

山本 ここからは、本当に齋藤さんのお考えをうかがえればと思います。日本の食料自給率についていろいろ言われている中で、農家さんは今後、増えると思いますか?減ると思いますか?それとも大規模農業、小規模農業が増えるなど、どうお考えですか。

齋藤 直感で答えると、私は農家さんの数が増えても増えなくてもいいと実は思っています。そもそも、農家の概念ももっと変わると思います。では、ロボットを使って収穫をやる人は、農家じゃないのか、農家なのかはわかりませんよね。   この前当社のオフィスで、LEDライトを使ってレタスを育てていました。水と種と光があれば育ちますから。それに対して、これは何産でしょうねって農家さんと話しました。要するに、宮崎県産なのか、熊本県産なのか、茨城県産なのか、ということです。もはやわからないですよね。

光と電気は宮崎の電気を使っています。水はそこの水道から出しているから宮崎の水です。種をスポンジに入れているだけなので、土は使っていません。そのようなレベルまで来ているわけです。では、僕はLEDライトで植物を作りました。私は農家でしょうか?というと、誰も答えられないですよね。もはや、農家は鍬を持って汗水たらして、雨にも負けず風にも負けずに作業をする、というのが常識ではなくなってきています。農家という概念が壊れて、多様な価値観が広がることが、私は大事だと思っています。加えて言うと、ちゃんと稼げる農家が増えるということは、それ以上にすごく重要ですね。

だから、大規模になっても小規模になってもいいけど、農家になるというハードルが下がるということは、一つ大事なポイントだと思います。そして、農家という概念が変わることがいいと思うし、専業農家じゃなくても、僕のような人間でも農業をやりながら働くことができるような社会になればいいなと思っています。

農家の収益を上げるには作ったものを確実に収穫すること それが農業や食文化を守る

山本 今、農業ベンチャーと呼ばれる方がいろいろいらっしゃって、ネギを1万円で売る、というやり方をしている方がいらっしゃいます。そのような方は、みんなブランディングをして、いかに農作物を高く売るかにシフトしています。なぜそのなかで、収穫量に着目されたのでしょうか。

齋藤 収穫量において着目したのは、収穫量が増えれば農家の収入も増えるのではないかと思ったことが一番大きいです。だから、大量に作る必要はないと思いますが、人手不足によって収穫量が減ってきているというのが、大きな問題だと思いますね。収穫量が維持できれば食文化が守られると思いますし、そこが重要だと思っています。

山本 ちなみに、素人質問になりますが、収穫に問題がなければ、一人あたりあるいは一家族あたり、どれくらいの面積を管理できるものですか?

齋藤 それは、何を、いつ、どこで作るかによって、まったく違いますね。

山本 御社のキュウリとかピーマンとかでもいいと思うんですが、いかがでしょう。もちろんビニールハウスで。

齋藤 そこもうちが提携している農家さんで、まったく違います。もっと言うと、どれくらい採りたいかにもよりますね。一概に答はないと思います。

山本 それは、いくらほしいから何ヘクタールやるとか、あるいは逆に何ヘクタールあるから、いくら儲けられるようにするという逆算になってしまうのでしょうか。

齋藤 そうですね。ただ、繰り返しますけど、どんなに面積を広げても、収穫する人がいないことが大きな問題だし、バランス感覚も重要だと思います。

収穫に課題を抱える日本全国の農家のために 早期の全国展開を目指す

山本 今後、ほかの作物、たとえば豆類など、広げていく予定はありますか?

齋藤 今後、キュウリとトマトに展開していく予定です。

山本 宮崎というと、マンゴーのイメージが強いのですが、それに関してはいかがですか?

齋藤 そこはまた全く別の種類のものなので、当面はキュウリとトマトとピーマンに集中するという形になります。

山本 先日、富山にものすごく大きなスイカがあって、収穫が大変だから農家を辞めるという方が増えているということも聞きました。スイカは大きいものになると、60キロくらいになるそうです。このようなテクノロジーで解決してあげてほしいな、と個人的には思ったりしました。たぶん、同じような細かい課題というのが日本全国にあると思います。

齋藤 そうですね。本当に日本全国でそのようなことが起こっていて、大きな課題だと思います。そのため、日本中からすごく注目していただいています。農家さんから直接問い合わせもいただいていて、あまりにもその数が多くて、個別で対応しきれないくらいになっています。全国各地からロボットについて知りたい!という感じです。それは日本中で起きている悲鳴なのだと思います。だから、本当にいち早く全国に展開していきたいなと思います。全国のJAや自治体と連携していやっていきたいなと思っています。

永井 今のお話を聞いて、農家の概念が変わるというのが心にぐっときました。非常に楽しみです。

(提供:THE OWNER