本記事は、楠本和矢氏の著書『トリガー 人を動かす行動経済学26の切り口』(イースト・プレス)の中から一部を抜粋・編集しています。
いい言い訳の提供
ホンネとして、何らかの「罪悪感」を持ちやすい商品/サービスの利用に際して、気持ち的に救われる理由を提供する方法
事例
▼定番のインスタントラーメン
親として子供にインスタントラーメンを出すことは、やや手抜きをしているという罪悪感を持ってしまいやすい。そこで、(インスタントラーメンに)「一手間かけることが、子供への愛」というメッセージを訴求。忙しい親が、インスタントラーメンを出す際の罪悪感を払拭する、「救われる理由」を提供した。
▼タバコのブランド
あるタバコは、コミュニケーションのメッセージに、「農業(タバコ葉の畑のイメージ)」や「オーガニック」などの、社会善的な内容を込めた。その結果、不健康なイメージのあるタバコに、「社会につながっている」「オーガニックなもの」という、一種「健全なる」利用の言い訳をユーザーに提供した。
解説
それを使う際に「かすかな後ろめたさ」を何となく感じてしまうような商品/サービスは皆さまの周りにもきっとあるかと思います。本当は使わない方がいいけど、どうしても使ってしまう、やめられない……まさに「認知的不協和」(矛盾する認知を同時に抱えると、不安定な状態になること)が生まれている状況です。その感情を標的に、何らかの「それを使っていい理由」を提供し、その不協和から解放するアプローチです。それが厳密な事実として「解放」できているかどうかよりも、免罪符として生活者がパッと飛びつきやすいわかりやすさが重要です。
ベースにある理論
▼確証バイアス
自分の考えを正当化するために、それを裏付ける情報ばかりを探してしまい、ネガティブな情報に注目しない傾向のこと。
本アプローチでは、それを選択する際のわかりやすい「大義名分」を与え、やはりそれを使ってもいいのだ、という納得感を与えることを狙います。
適用条件
▼利用に際し、何らかの「後ろめたい気持ち」を伴うものであること
後ろめたさは当たり前……と思われているカテゴリーほど狙い目です。その後ろめたさの原因を、真っ正面から解決しようとしても、簡単に解決できないからこそ、そうなっている訳で、相当難易度は高いでしょう。そうではなく、本質的な解決でなかったとしても自分に言い聞かせられるような、別のわかりやすいメリットか、あるいは、誰もが否定できない「絶対善的な理由」(「社会課題の解決」「地域社会への貢献」「家族や友人への慈愛」など)を入れるということであれば、色々な工夫の余地はあると思います。
極端に言えば、厳密に見た時の正しさや、有効な効果のあるなしというよりも、パッと飛びつきやすいわかりやすさや、イメージの拡げやすさがより重要となります。
活用イメージ
▼テーマ:夜の時間に、スイーツを食べてもらいたい
コンビニスイーツ(アイス)を販売しているあるメーカー。忙しい男女ビジネスパーソンに、帰宅後の習慣として、夜にアイスを食べてもらいたいと考えています。しかし、昨今の健康意識の高まりを背景に「糖質を制限する」という食生活がスタンダードになる中で、夜間のカロリーを抑えたい、という生活者の心理が阻害要因になっています。かといって、単純に、「カロリーゼロ」というのもありがちであるし、合成甘味料を配合するのにも抵抗があります。
さて、どのような方法で、夜中のスイーツに伴う「罪悪感」を払拭できるでしょうか?
▼活用例
確かに、私もスイーツは大好きな方で、一番食べたくなる時間は夜中なのですが、カロリーのことを考えて避けるようにしています。この難題を解決するために、「いい言い訳の提供」というアプローチを検討してみましょう。
スイーツを食べると、美味しいだけではなく、幸せで豊かな気持ちとなり、心の満足感を得ることができる気がします。このような心理にフォーカスし、例えば「スイーツでリセット」「スイーツでリフレッシュ」などという、「食べる言い訳」になるような新しい言葉をつくり、夜にスイーツを食べる時間は、明日への活力につながる大切なひととき、という新しい捉え方を訴求するという方法はいかがでしょうか。その行動を習慣化してもらうために、小分けにするとか、サイズを小ぶりにするとか、夜食べてもお腹が冷えないような成分にするとか、機能的な部分をそれに紐付けていくことも必要でしょう。あくまで、その概念の浸透とセットで。
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