日本の企業のニューノーマル 〜サステナブルを推し進める企業の取り組み〜
(画像=LINE Fukuoka株式会社 Smart City戦略室 室長南方 尚喜氏)

福岡市内では、防災・環境(ごみ)、教育をはじめとした行政サービスや医療、さらに街なかの移動や支払い時までLINEを通じてスマートに情報をやり取りし、未来志向の暮らしを送ることが可能だ。

そんなスマートシティの実現を福岡市や民間企業とタッグを組み目指すのがLINEの国内第二拠点として設立されたLINE Fukuoka株式会社。

LINE Fukuokaは福岡市との包括連携協定に基づき、LINEの技術をつかったスマートシティの実現を目指している。LINE Fukuokaはなぜ、福岡市で事業を進めているのか、何が課題となっているのか、これらの取り組みに最前線で携わってきたLINE Fukuoka株式会社 Smart City戦略室 室長 南方 尚喜 氏に、全国自治体のDX戦略の先駆けとなったプロジェクト発足の経緯や実現までの道のりについてインタビューした。

図1.jpga日本の企業のニューノーマル 〜サステナブルを推し進める企業の取り組み〜
(画像=LINE Fukuoka株式会社)

魅力ある福岡にLINEを通して貢献したい、という思い

永井 まず、南方様がSmart City戦略室に参加されるまでのご経歴について教えてください。

南方 大学までずっと生まれも育ちも東京です。大学を卒業してからしばらく東京で働いていましたが、前職の3年目くらいで福岡に異動になりました。そうしたら、すごく福岡が気に入ってしまって。その後、東京の本社に戻されましたが、やはり福岡で働きたいなと思い、2018年にLINE Fukuokaに転職しました。当初は、LINE Fukuoka全体の経営戦略を考える経営企画として入社しました。入社当時はまだ、Smart City戦略室という組織もない状態でしたが、手探りしながら福岡市といろいろな取り組みを始めました。

まずは2018年6月、福岡市主催の実証実験フルサポート事業「キャッシュレス」プロジェクトで採択を受け福岡市のキャッシュレス化促進への取り組みを開始、その後同年8月、弊社と福岡市と正式に「先端技術を活用した街づくりに関する取り組みをやっていきましょう」という話になり包括連携協定という形で共働体制を整えました。それを皮切りにSmart City戦略室という組織が誕生し、以来、私が室長を務めています。

発足当時は「なにがスマートシティなの?」というお声もいただくことがあったのですが、2年で60個のプロジェクトを進め、さまざまなチャレンジをしてきたことでようやく、LINEらしい街づくりやスマートシティの在り方の方向性が見えてきました。正解がよくわからないなかで、もがいていたので、その時期は苦しかったというか、大変でした。

少数精鋭で多くのプロジェクトを実施するコツはスピード感

山本 2年間でおよそ60件ものプロジェクトを進めるにあたり、プロジェクトメンバーは、どのように集めましたか?

南方 メンバーは全員、2018年以降に中途で採用したメンバーです。今、私たちの組織に約15人いて、あと何人かはPRの部署から兼務で入ってもらっています。はじめは、採用もとても難しかったです。正解がないからこそ、さまざまなバックグラウンドを持っている人たちや多様なスキルを持っている人たちを幅広く募集しました。IT系出身者、広告系出身者、メーカー出身者など多種多様な人材がそれぞれの知見を生かしながら、スピード感をもってプロジェクトを推進しているという感じです。

山本 大きなプロジェクトを並行して進めるときのマネジメントのコツやポイントがあれば教えてください。

南方 私が、一つひとつの案件を細かく見ることはありません。私は室長という、いわゆる一般企業の部長にあたる役職に就いており、その下に課長クラスのメンバーが4人おります。基本的には各課長クラスのメンバーに任せ、彼らと30分のミーティングで各案件の進捗を把握するといった感じです。その場で、アドバイスする場合もあるし、起きている問題について報告を受けることもあります。スピードは大事ですから、毎日会話しています。

山本 これまでに進めた60個くらいのプロジェクトの中で、一番大変だった、苦しかったプロジェクトは、どのようなものでしたか?

南方 どのプロジェクトもそれぞれに大変なことはありますが、印象に残っているのは、粗大ごみ収集におけるプロジェクトですね。粗大ごみの回収依頼をLINEで申請できるようにしました。

従来、福岡市で粗大ごみの回収を申込む際は、電話もしくはインターネット上から申し込みをすることになっていました。ただ、従来の電話申し込みは9時から17時までとなっています。お勤めされている方はその時間帯に電話ができない方もいらっしゃいますよね。そして電話で申請した後に、スーパーマーケットやコンビニに行って粗大ごみ処理料金を支払うためのチケット(処理券)を買う必要があります。このような仕組みにテクノロジーを活用し、LINEから回収依頼の受付、LINE Payでの処理券購入まで自分の好きな時間に完結できるようにしました。
もっとも、一度にすべてを変えるというところまで、なかなか至らず、サービス開始当時はごみ回収依頼からスタートしました。100点満点のスタートではありませんが申請できるようになっただけでも、市民の方々から大きな反響をいただき、手ごたえを感じることができました。

山本 企業から行政サービスに対してイノベーションを提案するということについて抵抗を感じた職員の方もいらっしゃったのではないでしょうか?

南方 我々の取り組みは急激な変化を要求するものではなく、既存の精度にLINEを用いた利便性をもたらすものです。例えば、粗大ごみの回収プロジェクトにしても、電話/インターネット受付を廃止したわけではなく、今までのサービスにLINE経由での依頼が追加されたというだけなんです。そうして少しずつチャレンジして、少しずつ成功体験積むと、利便性や効率化につながる事を証明できるようになります。そうやって、一歩一歩確実に振り返ってみて関係者からので信頼と納得を得る。という過程を繰り返してきました。また、高島宗一郎市長に市長会見で発表していただけたということも現場の大きなモチベーションにつながったのではないでしょうか。

困っていることを解決して、自然に使われる状態へ

永井 ほかにも、このスマートシティ戦略の中で、福岡市LINE公式アカウントを市民へどのように発信し、浸透させているのでしょうか?

南方 まず新しい機能拡充などの際にLINE Fukuokaと福岡市の両方からマスメディアに対してパブリックリレーションズ(広報活動)をおこなっています。あとは、当たり前ですが、会社としてSNSで発信したり、私も個人で発信したりします。そのような地道な取り組みがPRにおいて大事だと思っています。

日本の企業のニューノーマル 〜サステナブルを推し進める企業の取り組み〜
(画像=LINE Fukuoka株式会社)

さらに大事なのは、市民のみなさんが自分たちで広めて行くことです。「これ便利だよ」と口コミで広がっていくのがあるべき姿だと思っています。

基本的には自然と使われる、便利だから使われるという状態でなければならないと思っています。

そして、使われるためには「イシュードリブン」が必要です。市民が困っていることに対して、みなさんが毎日使っているLINEを使って、私たちがすぐに解決する。そうすると、みんな困っているから、それをすぐに使ってくれるようになるのです。

イシュードリブンの好例としては、前述した粗大ごみの回収もそうですし、西日本鉄道さん(以下西鉄)の例もあります。コロナで緊急事態宣言が出されて外出が怖いという状況下で、西鉄さんは安心して外出、移動してもらうために、西鉄バス・西鉄電車のLINE公式アカウントから混雑している時間帯とか、混雑している車両というものを発信していきました。

我々は、8日の開発期間でこれをリリースしました。緊急事態宣言後、市民が本当に移動していいのか、ダメなのか、よくわからない不安な状況の中、いち早く情報発信をする必要があると感じたからです。リリース後、すごくたくさんの反響があり現在(2020年11月時点)までで7万回くらい使われました。そのようなことが大事だと思っています。

成功したプロジェクトは変化が大きい

日本の企業のニューノーマル 〜サステナブルを推し進める企業の取り組み〜
(画像=LINE Fukuoka株式会社)

山本 行政という利益や売り上げで測れないサービスにおいて、「成功体験・事例」についてどのようにお考えですか?また、どのようにして当事者意識を共有することができたのでしょう?

南方 上記の表は私たちが60個プロジェクトをやってきて、成功したプロジェクトの要素を抽出したものです。

ご覧の通り、うまくいった案件は、先ほどの粗大ごみの案件のように、影響範囲が大きいです。粗大ごみはすべての市民が使うサービスですからね。変化の大きさを見たとき、ビフォーアフターで比べると、電話よりも圧倒的に便利になったので、変化の大きさも大きいのです。新規性とか季節性といったPRバリューもいくつか要素はあります。今年、新型コロナウイルス感染症対策として取り組んだプロジェクトなどは季節性です。PRという観点で言うと、コロナ対策への関心の高まりが結果的に追い風になったとも感じます。その時々でのニーズ変化へスピーディに応えていくことも大切にしています。

あと、OWNERSHIPと書いてあるところは、まず私たち自身が当事者意識を持たなければならないということです。スマートシティは、LINEだけでやるものではなくて、必ず福岡市や西鉄のような協業相手がいます。相手とも目的意識や方向性など目線合わせをおこなっていかなくてはなりません。

もっとたくさんの人にLINEを使って街づくりに参加してほしい

永井 南方さんは、当事者意識をフルに活用して進められていらっしゃいましたが、このスマートシティ事業にコミットできたモチベーションはどこにあるのでしょうか?

南方 それは、いくつかあります。
個人的には、福岡がすごく好きなので、移住してきました。福岡に住んだことのない人は、おいしい食べ物がある魅力的な街だと思っている方は多いと思いますが、今だけじゃなくて、100年先も魅力的な街であってほしいと思っています。それは、自分が死んだあとも続いてほしい。これから日本は、人口減少などのいろいろな苦しい問題や、成熟した国だからこその社会問題を抱えたりすると思います。そのような状況でも、福岡が魅力ある街として輝き続けていてほしい。そのために、市民一人ひとりが、もっと当事者意識や愛情を深く持てる街にしていきたいと思いました。

もう一つは、ビジネス的な側面です。LINEが「Life on LINE」というビジョンを掲げているのは、プラットフォームのビジネスとして、LINEというアプリをより多くの人がよりたくさん使う状態を作るということが一番大事なことだからです。

今8,600万人いる月間アクティブユーザーのほとんどは、友だちとのやり取りとか、家族とのやり取りに使っているに過ぎません。本当は自治体とのコミュニケーションや、企業やお店とのコミュニケーションなど、LINEでできるコミュニケーションの幅はとても広いのに、まだ個人対個人のやりとりがほとんどです。だから、LINEの技術を活用して、福岡市を豊かで便利な未来志向のまち「スマートシティ」にすることを目指して、多くの場面でLINEが使える状態を作りたかった。それがSmart City戦略室としての目的ですね。(提供:THE OWNER