プライベートバンカー(以下、バンカー)の守備範囲は広い。今までお伝えしてきたような所謂「資産運用」に関わることから、不動産に関わること、相続に関わること、事業承継に関わること、日常の税務に関わることなど幅広い知識が求められる。それは富裕層の資産内容が多岐に亘るからだ。単純に現預金や有価証券などだけではなく、不動産や売却出来ない自社株など、資産価値は高いが流動性が低い、或いは事実上全く無いと言えるものまで多種多様である。一流と呼ばれるバンカーなら、これらに対するお客様のご相談にも適切なアドバイスが出来なくてはならない。

そう言われると多くの人がバンカーを目指すことに尻込みされるかも知れないが、そこはご心配なく。一流のプライベートバンクならばそれらに対する専門チームを擁し、バンカーの抱えている問題解決を適切にサポートする体制を確立している。当然、その専門家集団のコストも含めてバンカーは収益を挙げなければならない。

「その件は分かりません」に類する返答をしようものなら…

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(画像=phochi / pixta, ZUU online)

筆者がバークレイズで率いていたISSというチームは「Investment Solutions Specialist」の頭文字を取っていることからも明らかな通り、資産運用に関わること全般のサポートチームで、タックス・アドバイスと呼ばれる税金関係の問題、或いはオーナー企業の資本政策や資産管理会社の設立などに関わるようなことは請け負わない。それは別の部署が担当するが、こと資産運用に関わることだけでも別途専門のチームを抱えなければならない程、プライベートバンクのサービスは奥が深い。

ただ重要なのは、こうした裏方のチームはバンカーからの要請があって初めて表に出て、お客様との面談に参加したりするが、あくまでもイニシアティブを取るのはバンカーだ。お客様から相談を受けた時「その件は分かりません」に類する返答をしようものなら、間違いなくお客様から「戦力外通告」を無言で下される。特に前回紹介した「番頭さん」のような位置づけの方がいる超富裕層だったら尚更アウトである。

だからと言って、適当にその場を取り繕うような返答をすれば、後からそれは倍返しの仕打ちとして返ってくることがある。筆者が関わったひとつの事例をご紹介しよう。

相談事例:超富裕層A様からの「チャンス・ボール」

仮にお客様をA様しよう。A様はIT関係の新興企業でIPOも成功されて手許には潤沢な資金をお持ちのアントレプレナーだった。IT関係の会社創業者で技術畑の方、そう理科系の方だ。だから情緒的に曖昧にでもニュアンスを掴むというよりは、正に「1+1=2」という明確でクリアなものを望まれた。

問題はA様が他社で某社の毎月分配型投資信託を購入されたことで発生した。それは分配金が何度か支払われた後、A様の手許に運用報告書が届いたからだ。A様は運用報告書を隅から隅まで熟読された。会社経営者だから当然貸借対照表も損益計算書も普通に理解されている。結果何が起きたかと言うと、運用報告書の記載事項についての疑問が湧き、それを当社のバンカーに質問してアドバイスを求めてくれたのだ。他社で購入されたものについての質問をされたのだから、状況としてはある意味で「チャンス・ボール!」が放られた状況だ。だが質問の内容はかなり専門的なものだった。