近年、リチウムイオン電池を始めとする「環境に優しい電池」の開発・採用が加速しています。しかし、電気自動車(EV)の普及に伴うリチウムイオン電池の需要拡大や、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーの安定化など、持続可能なエネルギー社会の実現に向けて解決すべき課題がたくさんあります。

今回は、このような課題の解決に役立つと期待されている、低コストでより環境を配慮した製造・リサイクル法や、バニラを原料とする液体バッテリー、アントラキノン含有アルミニウムバッテリーなど、最新のエコフレンドリー・バッテリーの情報をご紹介します。

なぜ環境に優しいバッテリーが必要なのか?

持続可能なエネルギー,未来
(画像=cybrain/stock.adobe.com)

屋外や災害時などに欠かせない乾電池は、コバルトやニッケル、鉛などの有害物質を含んでいるため、原料の採掘から製造・処分のプロセスにおいて、環境や作業員が有害物質の影響を受けるリスクが伴います。また、製造やリサイクルの際の消費エネルギーが、環境に負荷をかける点も指摘されています。

このような背景があり、世界各国で「環境に優しい電池」の需要が高まっています。その代表格が携帯電話やノートパソコン、そして近年電気自動車(EV)にも採用されているリチウムイオン電池です。リチウムイオン電池には「繰り返し充電して使用できる」「エネルギー密度が高いため小型化・軽量化が可能」など、さまざまなメリットがあります。

一方で、電解液に有機溶媒を使用しているため高温で発火したり、過充電・過放電で発熱したりする危険があるほか、通常の乾電池同様、製造 やリサイクルの際の消費エネルギーが課題となっています。

リチウムイオン電池をよりエコフレンドリーにする「水溶性バインダー」法とは?

解決策として注目されているのが、水分散性バインダーを使用して、製造およびリサイクルでの有機溶媒をなくす技術です。

リチウムイオン電池は、外部回路から電流が流れ込む電極であるアノード(負極)のイオンを、外部回路へ電流が流れ出す電極であるカソード(正極)に移動させることで、電子を放出します。

問題は、カソードの塗工液の材料に、バインダー(電極活性質を接着する役割を果たす素材)としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、その溶媒として有機溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)が使用されている点です。

NMPは、水に溶けない物を溶かすという性質から広範囲な産業で使用されていますが、毒性が強く、オゾン層への影響が懸念されています。欧州では、制限対象物質にも指定されています。

米オークリッジ国立研究所とバージニア工科大学の研究者チームが研究中の新しい技術は、カソードに水分散性のラテックスベースのバインダー、そしてアノードに水溶性のスチレンブタジエンゴム(SBR)のバインダーを使用することで、NMPを使用せずにリチウムイオン電池を製造およびリサイクルできるというものです。製造およびリサイクルのコストや危険、環境への影響を軽減できると期待されています。

リチウムイオン電池だけじゃない!最新のエコフレンドリーバッテリー

リチウムイオン電池以外にも、以下の2つの例のように、低コストで製造できてより環境に優しい電池の研究・開発が進められています。

バニラの香りがする?自然から生まれたフロー電池

風力や太陽光などの再生可能エネルギーは環境に依存しており、発電時間や発電出力が不規則という難点があります。これらの自然再生可能エネルギーを補完するものとして、「フロー電池」とも呼ばれる、液体金属電池などの大型二次元電池の低コスト化が注目されています。

活物質に液体を使用する液体金属電池は、低コストでの製造が可能です。しかし、高価で毒性のあるバナジウムなど希土類金属を原料にしているため、環境や生物に優しい代替原料が求められています。

そこで、オーストリアのグラーツ工科大学(TU Graz)の科学者たちは、希土類金属を菓子などにバニラの香りを与える成分であるバニリンに置き換える方法を考案しました。グリーンケミカル(環境に優しい化学薬品)を使用してバニリンを精製し、フロー電池で使用できるレドックス活性剤に変換する技術を開発したのです。

これにより、環境や生物への悪影響を大幅に軽減しながら、最大800メガワット時の電力貯蔵容量を生成できると期待されています。

リチウムを超える?次世代アルミニウム電池

「リチウムを超える可能性を秘めた電池」として、アルミニウム電池の研究・改良も加速しています。

アルミニウム電池の原料は、地球の地殻の8%を占める低コストのアルミニウムですが、カソードにはグラファイト(炭素から成る元素鉱物)が使用されているため、リチウム電池より高コストでエネルギー効率が低い傾向があります。

スウェーデンのチャルマース大学の研究チームが開発中の最新のアルミニウム電池は、グラファイトの代わりにアントラキノン(アントラセンの誘導体)と呼ばれる有機炭素ベースの化合物とアルミニウムを組み合わせることで、通常のアルミニウム電池の2倍のエネルギー密度を実現。実用化に向けては多くの課題が残っているものの、次世代アルミニウム電池として、今後の進展が期待されています。

環境に優しい電池 2024年までに市場規模が3兆円を突破?

前述のとおり、世界的なクリーンエネルギーへの移行を受け、環境に優しい電池の需要は急速に拡大することが予想されています。例えば使用済みリチウム電池の量は、2030年までに世界中で年間200万トンに達する見込みです。

このような背景から、米市場リサーチ企業BCC Researchは、世界の環境に優しい電池市場が2019~2024年に年間14.3%のペースで成長し、2024年までに343 億ドル(約3兆5,713億円)に達すると予想しています。

世界中で持続可能なエネルギーへの投資が加速している今、革新的なアイデアから環境に優しい電池が続々と開発され、大規模な施設から公共交通機関、一般家庭まで、広範囲な領域で採用される日もそう遠くないかもしれません。(提供:Wealth Road