投資初心者は投資信託から始めたらよいという論調も多いが、投資経験が無い人はそもそも投資信託をどう選ぶべきなのか、どういった手順で購入すればいいのか迷いがちであろう。今回は投資初心者向けに、投資信託の始め方を基本から説明していこう。
1,投資信託が初心者に向いている3つの理由
まずは投資信託が投資初心者に向いているとされる理由の説明から始めよう。主に次の3つの理由である。
理由1,投資のプロが運用を行う
投資信託とは投資家から資金を集め、その資金を投資のプロが運用する仕組みである。株式や債券などへ直接投資をする場合、個別銘柄の選定から売買のタイミングまでを自ら行わなければならない。投資信託の場合、投資対象を大まかに選べば、細かな投資判断は投資のプロであるファンドマネージャーが行ってくれる。
さまざまな知識が要求される個別銘柄の投資判断を投資のプロに任せられるという点は、投資信託が初心者に向いているとされる大きな理由の一つである。
理由2,少額からでも分散投資が可能
投資信託は投資家から集めた資金を複数の銘柄や資産に投資する。そのため、投資信託を買うだけで、分散投資が可能となる。さらに投資信託は商品や金融機関によっては、1万円以下で購入できるものも多くあり、少額から自由に投資を行うことが可能である。
少額からでも分散投資でリスクを軽減させることができる点も投資信託が初心者に向いている理由である。
理由3リスクの調整が容易
投資信託は種類も多く、少額からの投資も可能なため、投資家のスタイルにあったリスク調整を容易に行うことができる。リスク軽減をさせたい場合は債券型の投資信託を多めに、反対にリスクを取ってもリターンが欲しい人は株式型を多めにといった調整がしやすい。
少額から投資を始めたいという投資初心者でも、個人のリスク許容度に応じたポートフォリオを容易に組むことができる。
2,投資信託を始める4つのステップ
では、実際に投資信託を始める場合、どのようにすればよいだろうか。大きく4つのステップに分けると次のようになる。
ステップ1,投資方針を決める
ステップ2.購入する商品を選ぶ
ステップ3.金融機関を選び、口座開設を行う
ステップ4.実際に商品を購入する
それぞれのステップについて、詳しく説明していこう。
3,投資信託の始め方ステップ1 投資方針を決める
投資信託を始める場合、まず最初に行わなければならないのは投資方針を決めることだ。このステップを疎かにして商品選びや金融機関選びを行うと、自身のリスク許容度に応じた正しいポートフォリオを組むことが難しくなる。
投資資金と目標を明確にする
投資信託を始めるには、まずは自身が投資に回せる資金を明確にした上で、その資金をいつまでにどの程度の利回りで運用したいかを考える必要がある。ここが定まってなければ、適切な商品選びができない。
投資資金は原則として、自身の余剰資金を充てることとなる。一括でなくとも、毎月いくら投資に回せるという考え方でも問題はない。また、いつまでにどれぐらいのリターンが欲しいかも考えておく必要がある。
目標設定は無理のない範囲で
投資信託の目標は無理のない範囲で設定する必要がある。目標だからといって、年率10%などといった目標を立ててしまうと、実現が厳しいだけでなく、過度にリスクを取ってしまい、結果として大きな損失を被ってしまう可能性もある。
投資初心者の場合には、まずは2~3%程度の目標を設定するのが望ましいだろう。リスクを取る場合でも、目標は5%程度に留めておきたい。現在、ほとんどの普通預金金利が年0.001%程度であることを考えれば、年率2~3%でも十分な水準だろう。また、投資信託では再投資による複利効果も期待できる。複利計算による目標利回りのシミュレーションは色々な金融機関のホームページで提供されているので、それらも参考にしたい。
4,投資信託の始め方ステップ2,購入する商品を選ぶ
投資方針が定まったら、次のステップとして、商品選びを行う必要がある。
投資の原則は分散投資
商品選びにおいて重要な点は、分散投資を心掛ける点である。一つの資産に集中して投資を行った場合、その資産が下がれば、保有資産全体に影響が生じることとなる。そうしたリスクを回避するため、投資信託は複数資産に分散投資を行うのが望ましい。
日本株式と日本債券、海外株式と海外債券といった具合に異なる種類の商品をまとめて購入するように心掛けたい。また、複数商品を選ぶのが難しい場合、世界中の債券や株式などがパッケージされている「バランスファンド」を購入すれば、1つの商品内で分散投資が可能となる。投資初心者はこうした方法も検討したい。
自身のリスク許容度に応じた商品選択を
商品選びでは、ステップ1での投資方針に沿った商品を選択することが重要だ。目標利回りが低い場合には、債券型の比率を高めに設定し、反対に目標利回りが高い場合には株式型の比率を高くするなどの調整が重要だ。
候補となる商品の運用レポートなどを元に、過去の利回りを確認してポートフォリオのバランスを整える必要がある。各金融機関のホームページで目標利回りに応じたポートフォリオの提案サービスなども提供されているため、投資初心者の場合はそれらも有効活用したい。
金融機関のおすすめ商品や人気商品には要注意
各金融機関のホームページではおすすめ商品や人気商品を紹介しているが、それらを検討する際には自身の投資方針に沿っているかをしっかりと確認する必要がある。金融機関のおすすめ商品の中には、毎月分配型など手数料が高く複雑な設計の商品も含まれている。投資初心者がそうした商品を購入すると、自身の資産状況の把握が難しくなるだけでなく、当初の投資方針から外れてしまったり、過度なリスクを取ってしまうという可能性もある。
投資初心者の場合、原則として低コストのインデックスファンド(日経平均株価やTOPIXなどの指数に連動した投資成果を目指す投資信託)を中心にポートフォリオを組み立てるようにしたい。
5,投資信託の始め方ステップ3,金融機関を選び、口座開設を行う
商品選びも完了したら、次はいよいよ金融機関を選び、口座開設を行うこととなる。
金融機関選びは商品数、コスト、利便性の3つの観点から
投資信託は銀行、証券会社などの金融機関での購入が基本となる。数ある金融機関の中から取引する金融機関を選ぶ際には、商品数、コスト、利便性の3つの観点から選んでいく必要がある。
商品数はネット証券が圧倒的
金融機関の中でも投資信託の取扱本数には大きな差がある。取扱本数を見れば、ネット証券に分があるだろう。対面型の証券会社では、投資信託の取扱本数は多くても1,000本強である一方、ネット証券は2,500本近くの取扱本数を誇るところもある。大手ネット証券で口座開設を行えば、商品選びで困ることは少ないだろう。
金融機関ごとに異なる販売手数料
購入したい投資信託がある場合、金融機関ごとに販売手数料を確認することも重要だ。販売手数料は原則として販売会社が設定するため、同じ投資信託であっても、金融機関によって販売手数料が異なるケースも多い。ネット証券では、すべての投資信託の販売手数料を無料としているケースも多いので、そういった基準で金融機関を選ぶ方法もある。
投資相談を行う場合は対面型の金融機関へ
金融機関を選ぶ際には利便性も考慮しておきたい。特に投資初心者の場合、金融機関の担当者へ相談をしたいという人もいるだろう。そうした場合には、対面型の銀行や証券会社で口座開設を行う必要がある。また、取引する金融機関を増やしたくないという場合には、すでに預金口座を開設している銀行で投資信託を始めるという選択肢もある。
もちろん、こうした利便性を重視する際は、取扱商品数やコストと天秤にかけた上で最終判断を下す必要がある。
口座開設時に必要なもの
投資信託の取引口座を開設する場合、原則として次のものを用意する必要がある。
・本人確認書類
・マイナンバー確認書類
・金融機関(銀行)口座情報
・印鑑
多くの金融機関ではインターネットによる口座開設も受け付けている。その場合、印鑑は不要となるケースも多い。細かなフローは金融機関ごとに異なるため、口座開設を検討している金融機関のホームページなどで確認をしたい。
なお、銀行で預金口座の取引がある場合でも、投資信託を購入する場合には投資信託用の口座を開設する必要がある。
6,投資信託の始め方ステップ4,実際に商品を購入する
金融機関での口座開設が完了すれば、いよいよ実際に投資信託の購入となる。
原則として事前入金が必要
投資信託の購入にあたっては、原則として事前入金が必要だ。取引金融機関へ事前に購入資金を振り込んでおかなければ購入できないので、忘れずに準備しておきたい。金融機関によっては、提携銀行の預金口座の資金を自動的に購入代金に充てるようなサービスを行っているケースもあるので、取引金融機関のルールを確認しておくべきだろう。
通常は午後3時が購入締切 購入代金の決済は受渡日
一般的な投資信託は午後3時が購入締切となるケースが多い。午後3時までに注文が完了している必要があるので、余裕をもって発注を行いたい。発注はインターネットや電話で行うこととなる。対面型の金融機関の場合には、窓口での購入も可能だ。
発注が完了すれば、購入締切後に算出される基準価額にて投資信託の購入が行われる。注意したいのは、投資信託は発注を行い基準価額が算出された時点で約定となるが、代金の決済日である受渡日は約定日から数営業日後となる点だ。資金の決済が行われていないと勘違いしないよう、受渡日という概念は頭に入れておく必要がある。
金額指定で購入すれば、買い過ぎてしまう心配はない
ほとんどの投資信託は「金額指定」と「口数指定」の2通りの購入方法を選択できる。「金額指定」はその名の通り、購入する金額を指定して、その金額で購入できる口数を購入する方法、反対に「口数指定」は購入する口数を指定する方法だ。
投資信託の購入時の基準価額は発注後に決まることとなる。「口数指定」で購入した場合、その日の基準価額が大きく上昇すれば、想定よりも多くの資金が必要となり、買い過ぎてしまう可能性がある。「金額指定」であれば、指定した金額に合わせて口数を調整するため、買い過ぎる心配はない。投資初心者は原則として金額指定での購入を行うべきだろう。
7,投資信託のデメリットや始める場合の注意点
ここまで、投資初心者が投資信託を購入するメリットやその方法を順を追って説明してきた。最後に投資信託のデメリットや注意点を解説しよう。投資にはリスクがつきものなので、こうしたデメリットや注意点も踏まえた上で購入の判断を行う必要がある。
注意点1,投資信託は元本保証ではない
当たり前の話ではあるが、投資信託は元本保証のないリスク商品であるという点は必ず押さえておく必要がある。投資信託は分散投資やインデックス投資によって、極力リスクを抑えた運用を行うことも可能であるが、銀行預金のような元本保証のついた資産とは異なる。価格変動リスクを踏まえた上で投資方針を立てるようにしたい。
注意点2,投資信託にはコストが必ずかかる
投資信託には必ずコストが掛かることとなる。販売時手数料が掛からない投資信託であっても、信託報酬という運用管理に係る間接的なコストは必ず発生する。これらのコストを上回る投資成績を残さなければ、投資信託で利益が出ることはない。投資信託を始める際は、信託報酬などのコストが掛かることを念頭に置いた上で、なるべくコストを抑えた運用を心掛ける必要がある。
8,少額からでも始めてみることが重要
元本保証がなく、コストもかかる投資信託であるが、預金のみで運用を行う場合と比べ、資産運用の選択肢は圧倒的に多くなり、適切に運用できれば資産形成の大きな武器となる可能性を秘める。
投資初心者はリスクに目を向けて敬遠しがちであるが、まずは始めてみることが何より重要だ。投資信託は1万円程度の資金から投資が可能であるので、まずは少額でも投資を始め、感覚を掴むことをおすすめしたい。食わず嫌いはやめて、まずは4つのステップを踏んだ上で投資信託を始めてみてはいかがだろうか。
執筆・樋口壮一(金融ライター)
新卒で証券会社に入社後、10年間リテール営業、ホールセール営業を経験。現在は事業会社の営業企画部門に努める傍ら、個人として投資を行い、マーケットに携わる。
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