NISA口座は1人につき1口座しか持つことができないが、年単位であれば口座を開いている金融機関の変更は可能できる。ただし、NISA口座を変更するにあたっては注意点やデメリットもあるので、変更方法とともに確認が必要だ。

NISA口座の金融機関を変更すべき4つのケース

nisa口座を変更すべきケース
(画像=MONEY TIMES編集部制作)

NISA口座の金融機関は変更できるが、多少の手間と時間がかかる。現在の金融機関で満足しているのなら変更する必要はないだろう。変更すべきは現在の金融機関に不満があり、他の金融機関であればその不満が解消されるときだ。

現在の金融機関で購入したい商品を取り扱っていない

NISAで購入できる商品は金融機関によって異なる。たとえば株式は証券会社のNISA口座でなければ購入できない。銀行でNISA口座を開設している人が株式を購入するためには金融機関の変更が必要になる。

金融機関により商品ラインナップには違いがある。投資信託の取扱銘柄数も、金融機関によって数銘柄~数千銘柄と幅があり、外国株や海外ETFなどは取り扱っていない証券会社も多い。

金融機関ごとに取扱商品を比較したのが以下の表だ。大手金融機関でも取扱商品は大きく違うことがわかる。

取扱商品の比較

取扱商品の比較
  メガバンク 対面型証券会社 ネット証券会社
三菱UFJ銀行 三井住友銀行 野村證券 大和証券 SBI証券 楽天証券
投資信託 58本 205本 約800本 366本 2,577本 2,558本
国内株式
(*)
- -
外国株式 - - - 20カ国 9カ国 6カ国
海外ETF - - - 74本 304本 355本
(*)国内ETF、J-REITを含む
※各社ホームページを基に編集部にて作成(2019年7月25日時点)

取引手数料が高い

取引手数料も金融機関によって差がある。取引手数料が現在よりも安くなるのなら金融機関を変更するメリットがあるだろう。

国内株式(ETF・REIT含む)の取引手数料はネット証券を中心に無料にしている証券会社も多い。外国株式や海外ETFの取引手数料についても証券会社によって優遇される。

同じ商品を購入するにしても取引手数料が優遇される金融機関で購入したほうが有利だ。

取引手数料の比較(NISAの場合)

取引手数料の比較(NISAの場合)
  対面型証券会社 ネット証券会社
野村證券 大和証券 SBI証券 楽天証券
国内株式
(ETF・REIT含む)
売買手数料
[約定金額50万円]
524円~3,575円
(*1)
1,897円~6,325円
(*1)
0円 0円
米国株式
売買手数料
- 取引価格に含まれる
(2~3%程度)
(*2)
約定代金の
0.486%(*3)
約定代金の
0.486%(*4)
海外ETF
売買手数料
(米国の場合)
- 【買付時】
0円
【売却時】
約定代金の
0.486%(*3)
【買付時】
0円
(全額キャッシュバック)
【売却時】
約定代金の
0.486%(*4)
(*1)オンライントレード(ネット注文)、対面取引などの取引形態により手数料は異なる
(*2)店頭設定取引・円貨注文の場合。取引価格(買付価格、売却価格)は現地市場の終値から概ね2~3%不利な価格になる
(*3)最低0米ドル(約定価格が2.05米ドル以下のとき)、上限21.6米ドル(税込)
(*4)最低0米ドル(約定価格が2.22米ドル以下のとき)、上限21.6米ドル(税込)
※各社ホームページを基に編集部にて作成(税込、2019年7月25日時点)

ノーロード投資信託の取り扱いが少ない

投資信託に投資するのであれば、購入時に手数料のかからないノーロードファンド(投信)のラインナップもポイントだ。購入時に3%近い買付手数料がかかる投資信託も多くあるが、手数料はリターンには確実にマイナス要素であるため無視できない。主な金融機関のノーロード投信の本数は以下だ。(※2019年7月25日時点)

・三菱UFJ銀行……25本
・三井住友銀行……44本
・野村證券……約40本
・大和証券……約20本
・SBI証券……1,278本
・楽天証券……1,268本

現在のNISA口座の使い勝手が悪い

取引しにくい、情報がわかりにくいなど、現在のNISA口座の使い勝手が悪い場合にも金融機関を変更したほうがいいかもしれない。

たとえば、NISA口座で定期的な積立投資を行うのであれば、自動積立設定ができる金融機関だと手間が省けて便利だ。SBI証券、楽天証券、マネックス証券などではNISA口座の取引もできるスマホアプリも提供している。

外国株式では現地価格でリアルタイムに売買できる証券会社がある一方、会社側から提示される価格でしか売買できなかったり、店頭や電話でしか注文できなかったりする証券会社もある。この違いは投資成果に影響する可能性もあり、使い勝手だけの問題にとどまらない。

NISA口座を変更するときの3つの注意点

nisa口座を変更する際の注意点
(画像=MONEY TIMES編集部制作)

NISA口座の変更は、利用状況や時期によってはすぐに手続きできない可能性がある。現在、自分の使っているNISA口座は変更が可能なのか確認するとともに、変更する際の注意点も事前に理解しておくことが重要だ。

1年間のうち1度でもNISA口座を使用した場合、次の年まで金融機関の変更はできない

NISA口座は、変更したい年の1月1日以降に、変更前の金融機関のNISA口座で1度でも買付けを行うと、その年分については金融機関を変更することができない。

本年にNISA口座で株式や投資信託を購入してしまった人は、翌年にならないと金融機関の変更はできない(変更の手続き自体は可能)。

投資信託の自動積立や分配金再投資コースを選択している人は特に注意が必要だ。商品を購入したつもりはなくても、NISA口座で自動積立の設定や分配金の支払いがあるとNISA口座で買付けが行われてしまう。

金融機関の変更を予定している場合には、自動積立や分配金再投資の設定がされていないかあらかじめ確認しておこう。もし設定があれば年内、なるべく11月中には解除しておくようにしよう。

金融機関の変更受付期間が決まっている

NISA口座の金融機関の変更については、受付期間が決まっている。受付期間は変更したい年の前年の10月1日から、変更したい年の9月30日までとなっている。9月30日までは翌年の変更受付はできない。10月1日から12月末まで間は変更の手続きが完了しても、金融機関が変更になるのは本年ではなく翌年からになるという点には注意したい。

その年の間に金融機関を変更し、新しい金融機関でNISA口座を使いたい場合は、9月30日までに手続きを完了させる必要があるので早めの手続きが必要となる。

変更前の金融機関で買い付けた商品は、変更後の金融機関に移管できない

変更前の金融機関のNISA口座で購入した株式や投資信託などは、変更後の金融機関に開設したNISA口座へ移すことができないので注意してほしい。

変更前の金融機関のNISA口座で保有していた株式や投資信託については、変更前の金融機関でそのまま運用をすることになる。配当金や売却益については、変更前の金融機関で購入した年の1月1日から最長で5年間、非課税の適用は受けることができる。たとえば2019年に購入した場合、最長で2023年12月31日までは非課税が適用される。

NISA口座の金融機関を変更するデメリットはロールオーバーができなくなること

NISA口座の金融機関を変更する場合のデメリットは、ロールオーバーができなくなるという点だ。

ロールオーバーとは5年間の非課税期間が終了した商品を翌年のNISA非課税枠に繰り越し、さらに5年間、非課税措置を受けられる仕組みだ。これにより同じ商品で最長10年間の非課税措置を受けられる。このロールオーバーは同じ金融機関内でしかできない。

たとえば2014年中にA証券のNISA口座で購入した商品は、2018年末に5年間の非課税期間を終える。金融機関を変更せず2019年以降もA証券にNISA口座があれば、2019年の非課税枠にその商品をロールオーバーできる。もちろん、ロールオーバーせずに課税口座へ移管したり売却したりすることも可能だ。

一方、先ほどの例において、2017年にNISA口座の金融機関をA証券からB証券に変更した場合には、2018年まで非課税の恩恵は受けられるものの、ロールオーバーは選択できない。つまりその商品は課税口座へ移管するか売却するしかなくなる。

5年以内に売却する予定であれば金融機関の変更は問題ない。しかし5年後の非課税期間終了時点で商品が値下がりして含み損の状態にある場合、ロールオーバーできないことは大きなデメリットになる。NISA口座では利益だけでなく損失もなかったことになるからだ。NISA口座内の含み損のある商品を売却する場合には、その損失はなかったものとして他の商品の利益と相殺(損益通算)できない。

また、課税口座に移管する場合には、非課税期間終了時点の価格に取得価格が変更される。たとえば50万円で購入した商品が5年後に30万円に値下がりしたケースを考えてみよう。この商品を課税口座に移管すると、取得価格は30万円に書き換えられる。移管後に商品を売却する際は、変更後の取得価格からの値上がり分に対して課税される。先ほどの商品を35万円で売却する場合、実際には15万円の損失であるが、変更後の取得価格である30万円からの値上がり分、5万円が利益とみなされ課税されるのだ。

NISA口座をほかの金融機関に変更する3つのステップ

nisa口座を変更するステップ
(画像=MONEY TIMES編集部制作)

NISA口座をほかの金融機関に変更するのはそれほど難しくない。以下の3つのステップを踏んで変更手続きを進めれば数週間から1ヶ月程度で変更が可能だ。

ステップ1……現在の金融機関に「金融商品取引業者等変更届出書(非課税口座廃止届出書)」を提出する

現在、NISA口座を開いている金融機関に電話やインターネット経由でNISA口座をほかの金融機関に変更したい旨を伝えると、「金融商品取引業者等変更届出書(非課税口座廃止届出書)」が送られてくる。

この書類に必要事項を記入し、現在NISA口座を開いている金融機関宛に返送する。

ステップ2……現在の金融機関に「非課税管理勘定廃止通知書(非課税口座廃止通知書)」を発行してもらう

ステップ1の種類を提出してしばらくすると、金融機関から「非課税管理勘定廃止通知書(非課税口座廃止通知書)」という書類が送られてくる。

送られてきた書類は新しくNISA口座を開設する金融機関に提出する書類になるので、送付するまでは大事に保管しておく。

ステップ3……新しくNISA口座を開く金融機関に「非課税管理勘定廃止通知書(非課税口座廃止通知書)」と「開設書類」を提出する

新しくNISA口座を開設する金融機関に、ステップ2で送られてきた「非課税管理勘定廃止通知書(非課税口座廃止通知書)」と「開設に必要な書類(非課税口座開設届出書・本人確認書類・マイナンバー確認書類など)」を提出する。

「開設に必要な書類」はステップ1、2の前や同時期にあらかじめ変更する金融機関に依頼しておくと時間短縮になる。

NISA口座の利用は年間で計画を立て変更時は余裕をもって申請する

NISA口座の変更手続きはそれほど手間がかからないが、制度上の注意点があるので利用する際は念頭に置いておく必要がある。

NISA口座の非課税投資枠や非課税機関などは年単位で区切られている。金融機関の変更についても同様に年単位で考え、あらかじめ計画を立てておくことが重要といえる。

執筆・近藤真理
証券会社の引受業務やビジネス系翻訳携わったのち、個人投資家として活動。現在は総合証券、ネット証券の両方を使いこなし、経済、金融、HR領域で多数の媒体で執筆中。2019年にフィナンシャルプランナーの資格取得。

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