「地球を終わらせない」ことを理念に掲げ、「代替肉で地球温暖化を解決していく」ことをミッションとして2020年6月に設立されたネクストミーツ株式会社。同社は、従来の鶏・豚・牛など家畜の肉ではなく、大豆などの植物性タンパク質からできる「代替肉」の開発・製造事業を行う企業だ。環境負荷の低減や食糧不足、飢餓の解決につながる新ビジネスとして、世界各国で同様の試みを行う企業が増えており、今最もホットな産業分野とも言える。

今回は、同社の佐々木英之代表取締役に、企業理念や代替肉の開発秘話、環境を重視するこれからの時代の企業経営について話を聞いた。

ベンチャーでも世界を変えられる「代替肉」の市場可能性

ハンバーガー、焼肉、牛丼…2050年までにすべての肉を「代替肉」にする!最先端企業の秘密に迫る
(画像=ネクストミーツ株式会社代表取締役 佐々木英之)

――起業されるまでのご経歴を教えてください。

2000年ごろから個人事業を始めていて、キッチンカーなどもやっていました。また、中国でビジネスをしていたこともあります。そういった中で2017年に初めて、現在事業としている培養肉のことをたまたまネットニュースで知り、これからの時代のビジネスとして面白いなと思ったんです。

地球温暖化や温室効果ガスについては元々問題意識を持っていたので、特に「環境」という分野で社会貢献できるビジネスを作りたいと考えていました。しかし、環境の分野でやれることは、そう多くはありません。大気汚染が深刻な中国では、壁に塗ると空気を良くする光触媒の塗料を販売するビジネスを行ったりもしましたが、大きなビジネスにはなりませんでした。そういった中で培養肉は従来の家畜の肉よりも使用する水の量や温室効果ガスの排出をへらすことができるため、環境負荷を減らしつつ美味しく食べられる食材として環境に貢献できる商品だと考えました。これはぜひやってみたい、と思ったわけです。

当時、培養肉は市場がまだまだ成熟していなかったので、まずは小規模な生産から開始しようとプラントベースでスタートしました。研究開発分野はまだまだ自社だけでは難しい部分もあり、岩手大学など外部とも連携しながら、自分たちでも手を動かして開発を進めています。

――「代替肉」のビジネスを立ち上げようと考えられた理由は何ですか?

まず自身がやりたかった「環境への貢献」としての事業分野で、真っ先にあげられるのはおそらくエネルギー分野ではないでしょうか。この領域は、一ベンチャーが入り込むにはリソース的には競合が巨大すぎてなかなか難しい。ベンチャーにとってのスモールで開始してもその後のビジネスの成長可能性を考えると、まだまだ市場が成熟しきっておらず、代替肉の市場は、「まさにこれだ」と感じました。

――「代替肉」の日本国内での市場や消費量、認知度などの状況を教えてください。

実は、2020年は「代替肉元年」と言われています。日本でも外食チェーンや大手食品がテストマーケティング的に商品の販売を始めましたが、一般消費者は認知はするようになっているものの、実際に食べたことがない人がまだまだ多く、市場拡大は「これから」が現状と思っています。

――「代替肉」が日本で浸透しない理由に、お金持ちは本物の肉を食べ、そうでない人は大豆で作った肉を食べざるを得ない未来という「ディストピア」的イメージがあるのではと思うのですが、いかがですか?

当社では「肉を超える代替肉」を目指しています。代替肉が肉よりもおいしく、栄養価も高く、しかも価格が同じなら、消費者はそちらを選ぶでしょう。「そもそも代替肉の方が食べ物として環境負荷的にも優れているよね」という考え方を浸透させていきたいです。

現時点ではその達成度は50%程度だと思っています。代替肉の味については加工の方法が重要なポイントになります。特に食感が重要ですので、そこに時間とコストを使っています。製品として一番作りやすいのはミンチです。逆にステーキなどの塊肉は作るのが困難で、業界的にもこれからの課題だと思っています。

――ネクストミーツの「代替肉」の他社と比較したときの強みはどのようなものですか?

まずは、食感が優れていること、およびスライス肉を提供していることです。スライス肉を展開している企業は世界的に見てもまだまだ数少ない印象です。また、世界展開するにあたって当社では「和食コンテンツの世界発信」を意識しています。焼肉や牛丼などのラインナップを早期に揃えたことも強みです。

さらに動物性原料不使用で食品添加物無添加という点も大きな強みです。ビーガンの方も食べられて、食品添加物を使わずにおいしいことも、他社のものでは意外と少ないからです。

――経営にあたって心がけていることを教えてください。

このような社会貢献を重視するソーシャルビジネスのような市場に関しては、「競争」ではなく「共創」が重要だと思っています。当社の経営理念は「地球を終わらせない」ことで、ミッションは「代替肉で地球温暖化を解決していく」ことです。この大きな理念・ミッションを実現するにあたり、業界内部で利益の奪い合いのような小競り合いをくり返しても意味がありません。利益を追求するのではなく、理念・ミッションの達成を追求していくことが、私たちの使命だと考えています。

――社長をするうえで一番難しいことは何ですか?

まずは商品の研究開発、次にその商品を通じて当社の理念をどう伝えるか、の2点については常に大きな課題だと思っています。

研究開発については、製品にはすべてバージョンの数字を付けるようにしています。進化させていきたいからです。バージョンが上がることによりおいしく、また肉を超えていくようにしていきたいですね。理念を伝えることについては、まず認知度を上げることが重要と思っています。そのために、SNSやメディアを使っていくこととともに、小売でも販売して消費者が目にする機会を増やしたいと思っています。パッケージのデザインなどについても「食品はこうあるべきだ」という殻を破り、斬新なものにしたいですね。

また、当社では幸いなことに、人事や組織運営に関する苦労はこれまでほとんどありません。理念に共感してくれる人たちが集まってくるという理由からですね。

――日本の経営者に対してメッセージはありますか?

環境に特化して事業展開している当社から見ると、SDGsの目標達成を掲げながらも、実際の取り組みがまだまだ不足している会社はたくさんあるように思えます。たとえば、当社では、社内でもペーパーレスの取り組みをしています。その一方、SDGs目標達成を掲げながらも「契約書や領収書は紙でお願いします」という会社も残念ながらまだまだあります。

SDGsに企業として取り組むなら、商品やサービスに反映させるだけでなく、社内の細かなフローや資源問題などを見直す必要があるのではないでしょうか。社内という基本的なところをおざなりにすることは、根本が違うのではと感じます。

――「サステナブルな経営」についてどのようなご意見をお持ちですか?

日本という場所がそもそも、SDGsや環境、サステナブルなどに対してリアリティを持つ機会が少ないのではと思います。日本では、1990年代~2000年代にかけて大気汚染などの環境問題が大きく改善されました。道路の排水口からドブの臭いがすることも現在ではありません。そのため、多くの日本人が「日本はもう環境についてはできてるじゃん」という印象を持っているのではないでしょうか。

しかし、パリ協定の採択5周年を記念して昨年末に行われた世界首脳級のオンライン会合では、「気候変動は待ったなし、気候の非常事態宣言が必要」との、強い危機感を持った声明が出されています。世界レベルで見れば、地球温暖化による気候変動の問題はまだまだ深刻です。世界と日本では、認識が真逆とすら言えるのではと思います。企業経営者はもっと世界を見て、自身の企業としての責任を果たしていく必要があるのではないかと思っています。

高い理念と目標を実直に追い求める株式会社ネクストミーツ

「環境や社会に貢献できるビジネスをやりたい」と考え、ネクストミーツ株式会社を立ち上げた佐々木社長。同社の環境重視の姿勢は、商品開発・事業展開の方法、あるいは社内でのペーパーレスの取り組みなどまで一貫している。株式会社ネクストミーツの革新的な取り組みに、これからも注目したい。最近ではESG投資対象の「世界のVegTech企業21社」に日本企業で唯一選出、新たな商品『NEXTチキン1.0』をリリースするなど注目度合いも高い。今後ネクストミーツが何を発表してくれるのか、今後も目が離せない展開となりそうだ。(提供:THE OWNER