投資信託といえば長期投資あるいは分散投資が定石とされているのはなぜなのか?短期売買は向いていないのか?投資信託で長期投資がすすめられている理由や短期売買が難しいとされている理由を考察した。短期売買に適した投資信託の特徴や短期売買をする際の注意点も解説しよう。

1,投資信託で短期売買は不向きだとされる理由

投資信託,短期売買
(画像=ipopba/stock.adobe.com)

資産運用にはさまざまなアプローチがある。株式投資でデイトレードやテクニカル、ファンダメンタル、株主優待狙いがあるように、投資信託にも長期分散投資だけではなく、短期売買という選択肢があってもおかしくないはずだ。

まずは、投資信託で長期投資がすすめられる理由と、短期売買が難しいとされる理由を解説する。

投資信託で長期分散投資がおすすめされる理由

投資信託で長期投資や分散投資がすすめられるのは、なるべく失敗せずに済む方法だからだ。時間軸を長くとることによりリターンを安定化させ、複利の効果を享受できる。また、投資先を分散することによって1つの要素による値下がりリスクが資産全体に影響することを防ぐ。

ただし長期投資は「失敗を避ける」のに有効な方法ではあるが、「絶対に勝てる」方法ではない点は留意しておく必要がある。

短期売買とは

投資における短期売買とは、数か月または長くとも1年の短期間で相場の状況を見ながらタイミングを見計らって売買をすることである。長期投資と短期投資では注目する要素が異なる。長期ではファンダメンタルズと呼ばれる投資対象の本質的な価値に注目するが、短期では価格は買い手と売り手の需給バランスにより決まるのでタイミングが命である。1日で売買するような超短期売買の場合、ほぼグラフやチャートと向き合って投資をするような状況になる。

投資信託の短期売買が難しい理由

特に個人投資家や初心者には、投資信託を短期売買することは難しいと言われている。

その理由の1つに「取引価格が分からない」という点が挙げられる。「基準価額」と呼ばれる投資信託の価格は、夕方や夜間の1日に1回だけ決定される。したがって取引したい価格で注文をする「指値注文」ができない。わずかな価格差が成績に影響する短期取引においては大きな欠点となる。

2つめは「コストがかさむ」点だ。投資信託は株式よりも手数料の種類が多い。投資信託の買い付け時には以下の3つの手数料が発生する。

⑴購入時手数料
⑵保有期間中発生する運用管理費用(信託報酬)
⑶売却時の信託財産留保額

特に⑴と⑶は売買回数が多いほどかさむ。短期売買をするのであれば購入時手数料や信託財産留保額のかからないものを探す必要がある。

その他、複利の効果が得にくい、短期的な値下がりで手放すためリターンが安定しないなどの理由もある。

2,投資信託で短期売買をする3つのメリット

投資信託で短期投資をすることにもメリットがある。

メリット1,早めの損切りによりリスクをコントロールできる

まずはロスカット(損切り)によるリスク管理だ。株式投資では保有している株が値下がりしたときには傷口が広がりすぎる前に売却する。投資信託でも同様の手法は有効なはずだ。ただし価格は短期的には上下するものなので、ロスカットを繰り返すことで損がかさむリスクと隣り合わせではある。

メリット2,保有コストを抑えることができる

投資信託は保有期間中に信託報酬という費用が日々発生することを考えると、長期保有は必ずしも安全とは言えない。投資金額100万円で信託報酬が年率0.2%の一般的な国内株式ファンドの場合、1年間で約2,000円の保有コストがかかる。株式投資のコストは取引手数料のみなので、ここまでの費用は発生しない。保有期間が短いと信託報酬も少なくて済む。

メリット3,短期売買を繰り返すことで多くの投資経験が積める

短期で売買すると投資経験が多く積めるというメリットもある。「ほったらかし投資」では手間をかけずに資産運用が可能だが、投資スキルを高めたいと考える人には、勉強の機会の損失ともとれる。絶対に勝てる投資はないことを考えると、経験を積むことで勝率を上げる利点は見過ごせないものがある。

3,短期売買に向いている投資信託の商品とは?

投資信託にはさまざまな種類がある。すべてが長期分散投資に向いているわけではない。では短期投資に向いた投資信託とはどのようなものだろうか。短期間で十分なリターンが期待できる投資信託の特徴をまとめた。

成長が期待できる株式中心の投資信託

資産クラスでは株式中心、地域は新興国またはグローバル、安定株より成長株に注目した投資信託が短期投資に向いている。このような銘柄は基準価額の変動を表す騰落率はやや高め、同時に標準偏差などリスク指標も高めだ。

アクティブ型投資信託はすべてが短期向きとは限らないので、運用理念や組み入れ銘柄を見て短期志向なのか長期志向なのかの見極めが必要だ。短期向きの投資信託は手数料が高めに設定されていることが多いため、投資信託の3つのコストもあわせてチェックすることが重要である。

レバレッジ型インデックス投資信託

特定の分野や地域ではなく、市場全体に投資しつつリターンを狙いたい場合はレバレッジの効いた投資信託やETF(上場投資信託)を選ぶと良いだろう。「日経平均株価」や「TOPIX」に連動するインデックス投信の中には、1日の変動率が日経平均株やTOPIXの2倍や3倍に設定されている銘柄がある。通常のインデックス投信よりも高いリターンが期待できる。

ただし値下がりによる損失も大きくなる点には注意したい。商品名に「レバレッジ」「ブル」とある場合は相場が上昇しているとき、「インバース」「ベア」とある場合は相場が下落しているときに利益が出るように設計されている。

テーマ型の投資信託

一定のテーマに絞った投資信託も短期向きと言えるだろう。たとえばAI(人工知能)が話題だがどの銘柄に投資したらいいかわからない場合、テーマ型投資信託なら関連する複数の企業に分散投資することができる。

最近なら「自動運転」「次世代通信」「ロボティクス」「バーチャルリアリティー」などが話題のテーマだ。米国市場をけん引する「FANG+(フェイスブック・アマゾン・ネットフリックス・グーグルなど10銘柄」、「GAFAM(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフト)」に絞ったテーマ投信もある。流行りものとの見方もできるので、出口戦略はしっかりと立てておきたい。

4,投資信託で短期売買をする際の3つの注意点

短期投資に向いている人が適切な銘柄選びをして一貫性のある運用を行えば、投資信託で短期売買することも1つの投資方法として成立する。しかし以下のケースのような運用を行うくらいなら、セオリー通りの長期分散投資を選ぶのが無難だろう。

債券中心の投資信託は短期売買に向かない

短期での値上がりが見込めない投資信託は手数料がかかるだけで短期投資には向かない。債券中心の投資信託などがそれにあたる。また、積立投資も短期で扱うべきではない。

一方、インデックス投信でも株式指数に連動するものなら意外とリターンが狙える。たとえば日経平均株価の6か月累積リターンはプラス13.8%だ(2020年12月8日時点)。数日では無理だが数ヶ月を短期と定義するならインデックス銘柄も十分視野に入る。

1つの銘柄に資金を集中投資しない

投資信託の短期売買では1つの銘柄に大きな資金を投じるのは避けるべきだ。少額ずつ分散させ、1点張りで大当たりを狙うのではなく、小さい利食いを積み重ねれば短期売買でも収益を安定化させられる。目安として1銘柄あたりの投資金額は自己資金の20%までとすると良いだろう。

多忙な人やストレス耐性の低い人は短期売買に向かない

短期投資では売買のタイミングを見極めるためにマーケットのウォッチが欠かせない。保有銘柄の価格動向だけでなく、為替・金利・指数、各種統計発表、国内外の政治情勢に触れることで相場を予測し売買の判断に活かす。投資の勉強をする意欲が低い人や忙しくて時間が取れない人に短期売買は難しい。

また、性格的に完璧主義な人や心理的ストレスに弱い人には向かない可能性が高い。多くの売買をこなしてトータルで6勝4敗を目指すくらいのドライさが必要で、失敗を長く引きずったり自己嫌悪に陥ったりするタイプの人は短期売買を継続するにはストレスが大きすぎるだろう。

5,投資信託の短期売買に挑戦するなら相応の準備を

投資信託の基本は長期分散投資だが、短期売買でも利益が期待できる。早めのロスカットができることや、コストを抑えた投資ができることなどメリットもある。短期売買する際には、それに適した商品を選別して、戦略的な投資を行う必要がある。株式投資同様に相場を見極める能力も必要になるので、投資信託の短期売買に挑戦するなら、しっかりと準備をしたうえで臨むようにしたい。

執筆・篠田わかな(ファイナンシャルプランナー)
外資系経営コンサルティング会社にて製造・物流・小売部門のコンサルタントとして業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。

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