サービス残業は、残業に対して適正な賃金が支払われない状態であり、法律違反に該当する。サービス残業は社員のモチベーションも下げ、経営活動に影響を与える懸念もある。今回は、サービス残業の定義や罰則規定、サービス残業の日本における実態や対策などについて解説する。
目次
サービス残業とは
サービス残業とは、「賃金不払残業」とも呼ばれるもので、従業員が行った法定時間外労働に対して、それに見合った賃金を支払わない残業のことだ。会社がサービス残業を強要した場合はもちろん、意図せずに支払いを怠った場合も労働基準法違反となる。
サービス残業は、結果的に長時間労働につながりやすく、過労死の原因となる過重労働を誘発することもある。厚労省の『STOP!過労死』のパンフレット中では、残業手当の未払いが多く、有給休暇の取得が少ないほど、従業員のメンタルヘルスに悪影響を与えることが示されている。
サービス残業を防ぐためには、従業員の労働時間管理が必須であり、従業員の労働時間を適正に管理することは使用者にとっての義務だ。厚労省から『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン』も発行されているので、事前に一読することをおすすめする。
サービス残業の違法性
「働き方改革」による法改正もあって、残業時間管理は厳しくなっており、規定の労働時間を超えた場合は罰則が適用されるが、サービス残業に関しては、「労働基準法第37条」の時間外労働への割増賃金の支払い義務違反となる。
・サービス残業による罰則規定
サービス残業によって労働基準法に違反した場合は、「6ヵ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」という罰則が課せられる。ただし、基本的には管轄の労働基準監督署からの是正勧告が入り、それにも関わらず違反が続く場合に刑事罰となることが多い。
サービス残業とならない就労条件
法定労働時間は、「1日8時間以内、1週間に40時間以内」と、「労働基準法第32条」で定められている。サービス残業は、労働基準法で定められた時間外労働への支払い義務に違反したものであるが、以下のような就労形態では、基本的にサービス残業は発生しない。
・裁量労働制
「裁量労働制」は、あらかじめ決められた専門業務や企画職などの事業計画に関わる重要業務を行う労働者に対して、労使協議の上であらかじめ決められた労働時間を働いたとみなす労働制度である。裁量労働制度であっても、休日出勤や深夜業務に関しては、割増賃金を支払う義務があるが、残業に関してはあらかじめ見込み給与に含まれるため、サービス残業は発生しない。
・管理監督者
管理監督者は、経営者と同じ立場と判断されるため、労働基準法は適用されない。そのため、そもそも労働時間に関する制限がなく、サービス残業は発生しない。他に、「フレックスタイム制」などの変形労働時間制や、外回り営業などに多い「みなし労働」など変則的な労働があるが、厳密には残業代の追加申請は可能であるため、サービス残業は認められない。
変則労働の場合は、管理者が職場にいないなどの理由で直接労働管理しにくく、サービス残業に対する意識が低くなる可能性があるので、注意が必要である。「労働基準法第32条」では、労働時間に関する規定が記載されており、フレックスタイム制などの社員に対する通知義務などについても明記されているため、確認いただきたい。
サービス残業の実態
サービス残業の定義や、違法による罰則などについて説明してきたが、日本ではサービス残業がどれほど発生しているのだろうか。
残業代の未払い等の現状
厚生労働省では、定期的にサービス残業の是正処置に関する報告がなされている。これは、サービス残業が行われている企業の労働者からの申告などをもとに、該当企業を調査した上で労働基準監督署が是正勧告を行った数を取りまとめたものである。
2018年度から過去10年間で、100万円以上の割増賃金未払いがあった企業のデータは以下の通りだ。
10年間の企業数の平均は1,439社であり、2018年度は1,768社となっており、ここ2年間は平均値よりもかなり多い状態である。あくまで、サービス残業が露見して是正勧告を受けた企業データであるため、実際にはこれよりもサービス残業が発生している企業は多いであろう。
サービス残業の是正勧告を受けた企業の実態 事例3つ
2018年度に、サービス残業の是正勧告を受けた企業では、どのようなサービス残業が行われていたのだろうか。前述の報告書を参考にいくつか事例を紹介する。
・事例1:小売業A
管理監督者が、タイムカードを勝手に打刻しているとの通報が従業員からあり、監査を実施した。労働時間の管理はタイムカードで行っていたが、従業員の職場入退場時間とカード情報に乖離があり、サービス残業が発生していることが発覚した。
・事例2:金融業B
残業代の支払いが月10時間分しかないとの通報を受け、労基署が調査を実施した。労働時間の管理は自己申告時間を元に行われていたが、入力時間は最大10時間までであった。パソコンの使用時間との乖離が見られたため、サービス残業が疑われ、残業の実態調査を行うように指導した。
・事例3:電気機械器具製造業C
時間外労働時間の過小申告が続いているとの労働者の通報により、労基署が調査を実施した。パソコンの使用実績と、上司が承認した従業員申請の労働時間にずれがあり、労働時間管理が不適切であると判断され、残業時間の実態調査を指示した。
サービス残業はなぜ起こるのか?大きな原因3つ
サービス残業が起こってしまう要因は以下のようにさまざまであり、意図せずにサービス残業が行われている場合もある。
(1)経営者や上司がサービス残業を命じる
サービス残業の最も悪質なケースが、人件費削減などのために雇用者や上司がサービス残業を強要することである。強い言葉でなくとも、従業員がサービス残業を迫られていると感じるような指示や言い回しももちろん違法だ。
(2)労働時間管理のシステムが不適切
意図せずにサービス残業となってしまう可能性が高いのが、従業員の労働時間管理ミスである。労働管理のシステムが整備されておらず、入力・修正作業はもちろん集計が煩雑な場合も、適切な労働管理ができずにサービス残業を誘発する原因となる。
前述のサービス残業の是正勧告の事例にあったように、自己申告制の労働時間管理の場合、労働時間を自ら過少申告したり、上司から時間調整を強要されたりするといったことも起こり得る。
(3)職場が残業申請をしづらい雰囲気である
時間外労働を行う場合には、会社の指揮命令によって働くことが原則であり、残業時間やその理由などを事前申請するシステムを導入している企業もある。しかし、サービス残業が横行しているような職場や、高圧的な上司がいる環境では、従業員も残業申請をしづらく、結果的にサービス残業を行ってしまっている場合もある。
サービス残業を防ぐために企業がやるべきこと3つ
サービス残業を防ぐためには、サービス残業の発生原因となるシステム面や意識面での改善が必要となる。
その1 労働時間管理の適正化
サービス残業を防ぐためには、従業員が働いた時間を適正かつ正確に入出力できるシステムの導入が必要だ。
タイムカードの利用、パソコンのログイン時間やIDカードでのゲート通過時間で出社・退社時間を管理するなどの方法が一般的であるが、複数のシステムで齟齬がないか確認できるようにするのはもちろん、第三者が改ざんできないような管理システムにしなければならない。
その2 サービス残業の違法性を管理監督者に周知する
労働時間管理などのシステム面の対策を行っても、システムを使用する労働者や労務管理を行う管理監督者の意識が低ければ、サービス残業を減らすことはできない。会社としての「働き方改革」に対する取り組みの一環として、サービス残業などの違法労働が、健康面だけでなく企業活動にも影響することを周知することが必要だ。
その3 定時帰宅がしやすい職場環境を構築する
サービス残業を防ぐためには、そもそも残業時間を減らすという意識も重要だ。仕事が終わっていても、経営者や管理職層が社員の定時時刻以降にも残っていると、従業員は帰宅しにくい。従業員に早めの帰宅を促すのはもちろんだが、管理監督者層は自らも早く帰宅する意識が必要だ。
サービス残業対策の事例
サービス残業を防ぐための具体的な取り組みについては、厚生労働省の『賃金不払残業(サービス残業)の解消のための取組事例集』が参考になる。サービス残業の是正勧告を受けた企業の対策事例が紹介されており、いずれも不払い分の賃金を支払った上で、具体的には以下のような対策を行っている。
・管理監督者に対して、労働時間管理に関する研修を行った。
・従業員の自己申告時間とパソコンの使用時間を、週に1回チェックするようにした。
・ICカードでの管理時間と自己申告の労働時間に差があるときに、システム上で、管理者にエラーメッセージが送られるようにした。
・人事部や管理監督者が、残業の抜き打ちチェックのために巡回を行った。
・社員からのサービス残業などの悩みを、直接受け取る社内相談窓口を設けた。
・労務管理の改善方法について、全労働者に対して研修を行って情報共有した。
・事前申請した残業時間を超えると、パソコンが使用できないようなシステムを構築した。
サービス残業を防ぐための活動として、人の意識改革といった抽象的なものだけでなく、システムや設備の改善など、ソフトやハード面での改善も行われていることが分かる。
サービス残業をなくす職場づくりで健康経営へ
サービス残業は、賃金不払いという労働基準法違反だ。意図していたか否かに関わらず、サービス残業が露見すれば、労基署の調査が入り、罰則や未払い分の給与支払い、是正処置が下されることになる。
サービス残業が横行する職場では、社員の長時間労働が当たり前となり、メンタルヘルスや身体的な健康への影響も懸念される。企業の持続成長という目的を果たすためにも、サービス残業が発生しないような労務管理システムの構築を心がけ、健康経営を第一と考えて欲しい。
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)