働きがいは、従業員個人の仕事に対する評価でもあるが、企業側が従業員の働きがいを向上させることで、従業員のやる気や自社の定着率なども改善できる。今回は、働きがいを高めることによる企業にとってのメリット、働きがいを向上させるための7つの方法や優良企業の取り組み事例について解説する。
働きがいとは何か?
「働きがい」についての明確な定義はないが、働きがいは「働くことに対する価値」とも捉えられ、「働きがいがある」状態とは、仕事に価値を見出して働いている状態と言えるだろう。働きがいは、働くことへのモチベーションアップにもつながる重要な要素である。
厚生労働省の『働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査報告書』では、産業別で働きがいを感じている従業員の割合についての調査を行っている。
調査結果によると、「教育・学習支援業」や「医療・保険、福祉」などで働きがいを感じている従業員が多く、人と直接関わる産業において働きがいを感じやすい傾向にあることが分かる。
働きがいと働きやすさのバランスが重要
働きがいに類似した言葉に、「働きやすさ」がある。働きやすい状態とは、仕事を遂行する上での苦労や障壁が小さいということであり、働くことによる精神的・肉体的な苦痛をほとんど感じない状態であると考えられる。そのため、有給休暇などの休暇の取りやすさや、職場の人間関係なども働きやすさに直結する。
仕事への満足感に関して、働きがいと働きやすさは切っても切れない関係にある。例えば、自分の仕事を正当に評価されて、職場の仲間にも恵まれ、仕事を通して自己成長を感じられるような職場などでは、働きがいと同時に働きやすさを感じ、労働意欲は高まるであろう。
働きがいとワーク・エンゲイジメントとの関係
働きがいに関わる概念として、「ワーク・エンゲイジメント」という言葉がある。ワーク・エンゲイジメントは、仕事に対する「活力・熱意・没頭」という3つの要素が揃った状態であるとされている。
ワーク・エンゲイジメントが高い状態では、3つの要素が高いレベルで満たされている。やりがいを持って仕事に熱心に取り組み、仕事を通して活力を得ており、満足のいく「働きがい」を感じていると言い換えることもできる。
ワーク・エンゲイジメントに関しては、『労働経済の分析(2019年版)』で詳細が説明されており、従業員の定着率向上につながる要素として重要視されているため、経営者としても今後意識して欲しい概念だ。
働きがいを高めることによるメリット4つ
働きがいを向上させることによる企業にとってのメリットについては、『労働経済の分析』で紹介されている、ワーク・エンゲイジメントと従業員定着率などといった各種要素との相関関係を調査したデータが参考になる。
図のグラフの横軸は「働きがい(ワーク・エンゲイジメント・スコア)」で、数値が高いほど働きがいが高い状態である。この結果から、働きがいの向上によるメリットとしては、以下のようなものが考えられる。
【メリット1】仕事に対する意欲が高まる
業務において感じるストレスや疲労は、仕事に対する意欲にも関連する。働きがいを感じていない従業員は、ストレスや疲労を感じやすい状態になっており、働きがいを改善することで意欲低下などを防げる可能性が高い。
【メリット2】労働生産性が向上する
働きがいと労働生産性の関係のデータから分かるように、従業員と企業側ともに、働きがいが向上することによって、労働生産性が高まることを実感している。
【メリット3】社員の定着率が高まる
定着率・離職率と働きがいの関係のデータから、働きがいを向上させることで顕著に定着率が向上し、離職率が低下していることが分かる。
【メリット4】会社の業績が向上する
顧客満足度と働きがいの相関のデータから、働きがいを感じている従業員が多いほど顧客の満足度が高いことが示されている。顧客満足度が高くなれば、それだけ業績にとってプラス要因となるだろう。
働きがいを高めるための方法7つ
従業員の働きがいを向上させることで、企業にとってもメリットがあることが分かったが、働きがいを向上させるためにはどうすればいいのだろうか。働きがいを向上させるには、以下の7つに注目した上で、自社の状況に合わせてできることから行うことが重要である。
働きがいを高めるための各項目の詳細や、具体的な活動について説明する。
(1)業務レベルの適正化
仕事を行う際には、小さな成功体験を積ませながら、業務レベルを上げることが重要である。従業員に与える業務のレベルが高過ぎると、失敗経験によって自信を失い自社に貢献する意識や、次の業務行動への意欲を失ってしまう。
働きがいにつながる業務への満足感を高めるためには、「自己効力感」の向上が必要となる。自己効力感とは仕事に対する自信と似たような意味であり、仕事の成果を出すために適切に業務を遂行でき、その能力を自身が持っていると自覚することだ。自己効力感が高いほどさらに高いレベルの仕事に挑戦する意識が高まる。従業員に与える業務レベルをそれぞれの能力に合わせて適正化することが肝要だ。
(2)業務にある程度の裁量を与える
担当する業務に裁量権を与えられれば、従業員は企業からの信頼を感じ、働きがいの向上にもつながる。また、自らの創意工夫等が業務に活かされることで、自己成長の機会も得られる。決められたルーチン業務であっても、改善提案などの意見を吸い上げて業務に反映するなどの裁量権を与えることも重要である。
(3)職場の人間関係を良くする
働きがいを感じるためには、その職場が働きやすい環境であることも重要である。人間関係の問題は、離職につながる恐れのある問題であり、上司と部下はもちろん、従業員同士の相互コミュニケーションを取れるような機会を設ける仕組み化が必要だろう。
(4)労働時間の適正化
労働時間が長くなり、気持ちをリセットする時間が減ると、やる気が減退して働きがいの低下につながる。
2019年からの「働き方改革」の施行によって時間外労働の上限が設定され、有給休暇の取得日数も年10日以上の付与者に対して年5日の消化が義務付けられている。しかし、これらはあくまで企業の義務レベルの話であり、働きがいを高めるためにはさらなる努力目標の設定が必要である。
(5)スキル習得などの成長支援
働きがいを向上させるためには、自己効力感を高めつつ自身の成長を実感できることが重要である。仕事を通した学びによって成長を実感することも大事だが、業務だけでは得られないスキル等の習得支援も重要である。
そのためには、社内研修などの学びの機会を設ける必要がある。また、従業員が自己啓発として社外セミナーに参加したり教材等を購入して学んだりする際に、費用を補助するなどの支援も有効であろう。
(6)キャリアパスの明確化
社内でのキャリアパスを示して将来をイメージさせることも、従業員の働きがいの向上には必要である。そのためには、ロールモデルとなる社員の存在が必要である。また、セルフ・キャリアドックなどの制度を活用して、従業員が定期的にキャリアカウンセリングを受けられるような環境や仕組みを構築することも有効である。
(7)適切な報酬を与える
働きがいを感じる従業員が必ずしも高い給料を望んでいるわけではないが、自身の仕事の評価が明確であり、それに見合った報酬を得られることは、働きがいにおいて大事な要素である。自社の人事評価の内容について社員に通知し、面談等を通して社員をどう評価したかフィードバックすることも重要である。
働きがいのある会社ランキング 上位3社
厚生労働省では、「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」を行っており、社員の働きやすさや働きがい、労働生産性を高める活動を行っている企業を表彰している。
ここでは、2019年度の厚生労働大臣賞受賞企業の活動内容を抜粋して紹介する。自社の従業員の働きがい向上への取り組みの参考になるだろう。
(1)株式会社ハクブン
美容室チェーン大手の株式会社ハクブンでは、平日午前中や週1回の勤務のみなど、従業員が勤務タイミングを柔軟に選択できる環境を構築した。また、カットやシャンプーなどの工程ごとに給与を加算する制度を追加し、従業員の相互サポートが増えて生産性が向上した。
これまで時間外に対面で行っていた技術指導を動画マニュアル化して、勤務の合間でも学べるような仕組みとした。
(2)アップコン株式会社
建設業のアップコン株式会社では、「健康活動ポイント制度」を導入し、運動や禁煙などの健康のための活動に対して、ギフトと交換できるポイントを付与した。また、定年退職制度を設けておらず、年齢に関係なく、意欲があれば働き続けられる環境を構築している。
(3)株式会社荒木組
建設業の株式会社荒木組では、従業員同士が感謝の言葉を伝え合ってコミュニケーションを円滑にするための「ありがとうカード」を導入した。ドローン等の活用による業務効率化や、年次有給休暇に「家族休暇」という、約15日程度の休暇を追加で付与している。
働きがいを高めることで、企業も従業員も成長
従業員の働きがい(ワーク・エンゲイジメント)が高い企業では、労働生産性や社員の定着率が向上し、ひいては顧客満足度も業績も向上する傾向にある。働きがいを感じるためには、企業側からのアプローチも重要であり、業務の適正化や成長の機会の提供、労働時間の適正化が重要だ。また、将来にわたって働きがいを維持するためには、キャリアパスを示すことも忘れてはならない。
従業員が働きがいを感じているか否かは、日々の業務への向き合い方などでも感覚的に把握できるだろうが、「従業員満足度アンケート」などの実施によって可視化することも重要である。
文・隈本稔(キャリアコンサルタント)