無印良品で話題の『コオロギせんべい』 良品計画が昆虫食を開発した裏側に迫る
(画像=株式会社グリラス 開発メンバー)

国連サミットで2030年までの新たな世界の目標であるSDGsが提唱されて久しい。日本でもようやくSDGsやサステナブルといった概念が浸透しつつある。その中でも食糧問題はSDGsでも2番目に取り上げられている「飢餓をゼロに」に直結する課題だ。

そんな中、食糧問題解決の手段として昆虫食が注目されている。あの株式会社良品計画も昆虫食での商品開発を手掛けているというから驚きだ。

良品計画は、徳島大学の基礎研究をベースとし、コオロギの食料としての可能性を切り開く事業を展開する株式会社グリラスと協業し『コオロギせんべい』の開発に取り組んでいる。なぜ『コオロギせんべい』を開発したのか、どのような視点でサステナブルな商品開発に取り組んだのか、今後の展望を伺った。

無印良品で話題の『コオロギせんべい』 良品計画が昆虫食を開発した裏側に迫る
(画像=無印良品で販売中のコオロギせんべい)

昆虫食に対する壁 コオロギせんべいの開発の苦労とは?

良品計画の食品部商品開発担当者が昆虫食に関心を持ったのは、無印良品の海外店舗スタッフからコオロギのお菓子をもらったことがきっかけだった。そこから今後の食糧確保と環境問題などの課題を知り、それらの課題を考えるきっかけになればという思いで『コオロギせんべい』の開発が始まった。良品計画はコオロギの研究・養殖を行っているグリラスと協業してコオロギを食材とするための取り組みを始めたが、そこには多くの苦労があった。

――『コオロギせんべい』を開発した経緯について教えてください。

良品計画 フィンランドのコオロギクッキーなどのお菓子をきっかけに昆虫食の存在を知りました。調べていく内に、将来人口増加による食糧難や環境問題などの社会課題を知りました。それらの課題を考えるきっかけになればという思いから、昆虫食先進国のフィンランドを訪問するなど情報収集を行い、その結果昆虫食研究の第一人者の徳島大学と協業し、コオロギを食材とするための取り組みを始めました。

無印良品で話題の『コオロギせんべい』 良品計画が昆虫食を開発した裏側に迫る
(画像=無印良品で販売中のコオロギせんべい)

――食糧難と環境問題について、具体的にどのような問題が発生するのでしょうか?

良品計画 世界の急激な人口増により、タンパク源である家畜(牛・豚・鶏など)の需要と供給のバランスがおそらく今後10年くらいで、逆転して足りなくなるのではないかと言われています。国連食糧農業機関 (FAO) も、栄養価が高く環境への負荷も少ないという理由で、家畜の代替として昆虫食を推奨しているという背景を知りました。

欧米と比べて日本では環境問題への関心がまだ低いと感じていますので、そこで我々も昆虫を使った商品を試しに作り日本のお客様に食べてもらい、今後地球で起こりうる社会課題について考えてもらうきっかけになればと思いました。

まずどの昆虫を使い商品化するか決めるところから始めたのですが、最初に昆虫食を知るきっかけになったコオロギから商品化することに決めました。

そこで長年コオロギの研究をしている徳島大学にアプローチをし、コオロギの食用化に関する研究について勉強させてほしいと徳島大学にお話ししたところ、徳島大学発のベンチャー企業の株式会社グリラスさんをご紹介頂きました。

――そのような経緯があったのですね。『コオロギせんべい』の開発には多くの苦労があったと思いますが、開発の過程でどんな苦労がありましたか?

グリラス コオロギをパウダー化する過程が本当に大変でした。

――なぜパウダーにする必要があるのでしょう?コオロギをパウダーにせず、お菓子としてそのまま加工する方法もありますよね?

グリラス 虫はもともと生産ラインで混入してはいけないものとされています。例えばコオロギの足のような形が残ってしまうと納品したときに、外から混入した不純物なのか、原材料のコオロギから出たものなのか判断できませんよね。微細なパウダーにすることでトレーサビリティーを確保したかったのです。

トレーサビリティーを確保し異物が入らないように加工プロセスを確立した上で、異物や害虫ではないことを示すために細かくしていきました。

――トレーサビリティーの観点からパウダー化は必須だったとはいえ、コオロギをパウダー化するのは簡単ではないですよね?

グリラス コオロギはタンパク質が7割、その他が1割。そして厄介なのが残り2割の油分です。油分のあるものを細かくするとねちょねちょとしたものになってしてしまう。きれいなパウダー状で細かくすることが一番苦労したことです。

無印良品で話題の『コオロギせんべい』 良品計画が昆虫食を開発した裏側に迫る
(画像=コオロギパウダー)

――そんな苦労があったのですね。2社で試行錯誤を重ねた結果、2020年5月に無印良品のネットストアから販売開始した『コオロギせんべい』ですが、反響は大きかったのでしょうか?

良品計画 反響は大きかったです。最初はコオロギパウダーの供給量が限られていますので去年の5月時点ではネットストア限定発売で始まりましたが、その日のうちは完売しました。販売開始以後パウダー生産を拡大していますが、人気が高く生産が追いついていない状況です。

だいたい1ヶ月分のパウダーをまとめて、せんべいを作っている工場に納品して、そこで作られた1ヶ月分の『コオロギせんべい』を良品計画が仕入れ、1ヶ月に1回販売しています。2月分が2月中旬から販売され始めたのですが、現在では51店舗とネットストアで販売しております。

――ネットストアのレビューを拝見する限りお客様からの意見は好評のようですね。

良品計画 実際に食べられた方の感想を聞くと、商品名として『コオロギせんべい』って入っているけど、見た目は普通のせんべいで、素直においしく食べられましたと言う声を一番多く頂いております。

つくる責任つかう責任 『コオロギせんべい』の製造・販売でSDGsを考える

――大変反響が大きかった『コオロギせんべい』ですが、パウダー生産の拡大が一つの課題のように感じます。今後どのように安定供給したいと考えていますか?

グリラス 安定供給するには、コオロギ養殖の自動化・機械化が重要になってきます。ただ生産拡大するのではなく「つくる責任」を持ち『コオロギせんべい』を生産していかなければなりません。

――SDGsの「12.つくる責任つかう責任」ですね。具体的にはどのようにその責任を果たそうと考えていますか?

グリラス 生産拡大する上でのポイントは2つあります。1つはコオロギの餌問題、もう1つがコオロギの飼育環境のエネルギー問題です。1つ目の餌問題については、コオロギの特性である雑食性を活かし、本来廃棄されるはずだったもの(フードロス)をコオロギが食べ、我々はコオロギのタンパク源を食べるという循環サイクルを作ろうとしています。

――1つ目の捨てられるものをコオロギが食べるとのことですが、どんなものを食べるのですか?

グリラス 食品加工から出てくる残渣が多いことをご存じですか。餌として一定の品質と安定的な供給量が確保できるものを対象にして、コオロギの生育に適し、必要な栄養素を満たす餌の割合を調整することで食用コオロギ としての品質を確保します。

――捨てられる食品残渣をコオロギの餌に、まさにエコな循環サイクルですね。2つ目のエネルギー問題についてどんな所でエネルギーを使い、どんな問題があるのでしょうか?

グリラス 原材料の『フタホシコオロギ』は熱帯地域に生息していたコオロギのため日本の寒い冬は越冬できません。そのため飼育環境を一定の温度に保つ必要があります。しかし温度を一定に保つには電気代がかかり、電気を作る上で二酸化炭素を排出してしまいます。

食糧難と環境問題を解決するためコオロギを生産しているのに、逆に二酸化炭素を増やしている。それではつくる責任が果たしているとは言えません。今後は日本の森林伐採時に出る間伐材を使って、カーボンニュートラルの考えで元々ある物を利用して熱源に変える、もしくは発電施設から廃熱になっている熱源の近くで温室を作り熱の再利用をさせてもらうことを考えています。

――環境問題に配慮し商品をつくるのにこんなにも苦労があるのですね。今後協業したいと考えている分野や産業を教えください。

グリラス 新たに作るというよりは既存の施設で遊休になっているところを活用していただける方と組めるのが一番いいなと思っております。現在機械・自動車部品メーカーと自動飼育装置の研究を進めています。それがある程度使えるようになった場合に、導入して一緒にコオロギを生産してほしいパートナーさんを見つけたいですね。

そのパートナーさんが新たに飼育施設を作るより、使われなくなったところを是非活用して頂けるようなパートナーシップができるといいなと思います。

昆虫食を広めてサステナブルな社会を作る

――良品計画では『コオロギせんべい』の売り出し方にどんな工夫をされたのですか?やはり昆虫食に対して苦手意識を持つ方もいる中、売り出し方に苦労されたのではないでしょうか?

良品計画 個人的には抵抗感もなくすっと食べられたのですけれど、人によっては中にコオロギがそのまま入っているということで、拒否感を示される方もいらっしゃいました。そのためパウダー状にしてせんべいに練りこむことで心理的な抵抗感も少なくなるのではないかと考え、最終的にはせんべいの形で商品化しました。

世界の食料確保や環境問題を『コオロギせんべい』を通じてみんなに知ってもらいたいと思い、なるべくとっつきやすい形態を意識しています。

――私達の生活に世界の課題を解決するエコな食材として昆虫食の必要性を多くの人に知ってもらうために、グリラスは今後どのような活動をしていきたいと考えていますか?

グリラス 地道な普及活動ですね。現在普及のために行っている活動は大きく2つです。1つは若い方に関心をもってもらうために昆虫食が注目を浴びている背景である食料や環境問題に関する講義をすることです。2つ目は食料としてのコオロギ の可能性を知ってもらい、ともに広げていってもらうためにコオロギ部というコミュニティを作りました。社内のメンバーだけではなく一般から参加された者と共に学び、レシピ開発などでフィードバックや意見を取り入れていきたいと考えています。

――昆虫食は若い方達の間で話題になっているのでしょうか?

グリラス 最近の学校の教育を通してSDGsに関心を持つ若い方が多く、非常に多くの問い合わせを頂いております。その中でグリラスの代表が昆虫食についてお話し、まずは知ってもらうことを大事にしています。世界で何が起こっているのかを知り、気づきを得てもらえるといいなと思っています。

それを学んだ上で良品計画の『コオロギせんべい』を知ってもらい、食べてもらえるといいですね。「コオロギせんべいっておいしいじゃないか」ということをぜひ感じてもらいたいです。

――先ほどコオロギ部というキーワードがでてきましたが、どんなコミュニティなのでしょうか?

グリラス 現在コオロギ部というコミュニティを作り、昆虫食に対してアンテナを持っている方と活動しています。活動内容は共に学び、共においしく昆虫食を食べるにはどうしたらいいのか考える活動です。我々は正直、普段から商品開発などでコオロギを食べ慣れているので、それほど抵抗なく受け入れてしまいます。

初めて食べる人にとって、どういう味がいいのか、食卓に並ぶにはどういう見た目がいいのかを共に研究しコミュニティを運営しながら、意見を取り入れながら、改善に繋げていき、次の商品に繋げていく活動を進めています。

――多くの人が認知し食べやすい昆虫食を目指すということですね。普及活動は地道で大変な活動だと思いますが応援しております。最後に今後創業したいと考える方へサステナブルに創業をしていくにはどうしたらいいかメッセージをいただけますか?

グリラス ここ数年はSDGsというワードが出てきていますが、社会に求められているということは、言い換えればすでにそこにはお客様やサポートしてくれる方がいるということだと思います。SDGsだからという切り口から入るより、何が社内に求められているのか、そこで自分達に何ができるのかを考えていくことを、行動の源泉として大事にしてほしいです。

良品計画 これを機にぜひ『コオロギせんべい』を食べて、地球に優しい未来食について考えていただけると幸いです。

(提供:THE OWNER